収量が上がる果樹栽培法『ドリップファーティゲーション』に注目!
2024/01/29
果樹栽培においてドリップ灌漑を導入した結果、目覚ましい成果をあげた産地がある。新規就農者を増やすためにも、地域の畑にドリップ灌漑を設置すべく奔走するミカン農家の渡邊さんに聞いた。
後継者の減るミカン農家
ミカンの一大産地である愛媛県八幡浜市にて、30年以上にわたり真穴みかんを作り続けてきた渡邊勇夫さん。渡邊さんが就農した頃は、Uターンしてミカン農家になる人が数多くいたが、15年ほど前より後継者不足が顕著になったという。
「ミカン栽培では、積み重ねてきた知識と技術がものをいいます。いわば“職人技”が求められるのです。なのに、肝心の後継者がどんどん減っている。今後、ミカン産地としての八幡浜は、確実に衰退していくだろうと思いました」と、当時抱いた懸念を口にする。
栽培難易度を下げる
製品開発
Uターンの人はもちろん、Iターンの人もミカン栽培に参入しやすくなるよう、栽培の難易度を下げる必要がある。渡邉さんがそう考えるなか、ちょうど真穴地域で株式会社サンホープの「ドリップファーティゲーション」による試験栽培が行われた。「当製品を使ってドリップ灌漑を行うことで、栽培経験が浅い人でも、質のいいミカンをたくさん生産できるだろうと思いました」と、渡邊さん。こう思ったのには根拠がある。
ドリップ灌漑では、畑に設置した点滴チューブを使って給水と施肥を行う。点滴チューブからは水と肥料が少量ずつ出るため、水分・養分ともに確実に地中に浸透していく。土中に設置した土壌水分検知センサーや果実個々の大きさを検知する肥大センサーからの数値を用いて給水量をコントロールするので、適宜適量をまくことができる。
なお、ミカンには成熟期があり、この時期は水をなるべく与えないのがセオリーだ。そのため成熟期は、雨が浸透しないよう果樹の根本周辺をマルチで覆い、点滴チューブからの水のみを給水する。通常は「入れたい量だけを入れられる」管理をし、成熟期は水を切ることで、収穫期には甘くて大きなミカンが次々と取れるのだ。
マルチを敷くことで余分な水分が入ることを防ぎ、ドリップ灌漑で給水すれば細根がびっしり増え、葉が増え、実が増え、収量が上がるというわけだ。
長さ60cmの水分検知センサー。10cm刻みで土中の水分を測る。
期待を集めるドリップ灌漑
まずは試験として、2022年に八幡浜市真穴地区のミカン畑で、県や市からの補助金を活用し「ドリップファーティゲーション」を設置し、成果を見守った。ミカンの生長はとても良好で、収穫期には、例年の倍以上が収穫されたという。その翌年にも試験用の畑を設け、当製品を用いて水分管理のみを行ったところ、収量に手応えがあった。
「すでに素晴らしい結果が出ています。今後は、この試験結果を周知しつつ、多くのミカン農家がドリップ灌漑を導入できるような仕組みができるといいですね」と、渡邊さんは、今後の真穴地域の発展に期待を寄せた。
果実に設置された肥大センサーは大きさを感知し、生長度を計測する。
「適切な灌水」という課題の解決へ!
サンホープ 代表取締役
益満ひろみさん
サンホープはドリップ灌水の普及に尽力するだけでなく、日本初となる作物の蒸発散量により自動灌水を行うシステムの販売を開始。
「衛星画像で植生密度を測り、風向や日射量、湿度などの環境データを取得します。それを作物ごとの成育データと合わせ、蒸発散量を算出し灌水指示を出すプログラムを制御器と連動させる仕組みです」と話す益満さんは、先進的なシステムによる灌水技術をブラッシュアップしていくことで、経験に頼らない「誰もが適切にできる」灌水の実現を目指すと力を込める。
お問い合わせ
取材・文:緒方佳子
Sponsored by 株式会社サンホープ
AGRI JOURNAL vol.30(2023年冬号)より転載