お茶農家が世界をつなぐ!? 日本文化の魅力を広める国際交流のススメ
2019/10/04
「茶道」に用いられる茶室や茶道具には、陶漆器、竹細工、畳、炭、などの職人技でつくられた品々が静息しており、日本文化の集結だ。国際交流を深められる文化である一方で、日本国内では、「茶道」の影が薄くなりつつある。現代農業の本質を、明治学院大学経済学部経済学科教授の神門善久氏が説くコラム。
国際交流としての「茶道」
私は、目下、シンガポールで妻と一緒に暮らしている。シンガポール国立大学から快適なオフィスとアパートの提供を受け、日本経済について研究報告をし、論文を書いている。
お世話になっている人たちに敬意と感謝を示したいと、妻と相談し、アパートで茶会を開くことにした。妻は裏千家のたしなみがあり、シンガポールにも裏千家の教室があると知って、着物と茶箱を持ってきているのだ。
とはいえ、建水などの小道具がないし、ティー・テーブルとソファーという洋室だ。香を焚いたり、風呂敷をテーブルクロスにしたりと、雰囲気づくりに工夫をする。お招きする方々は研究者、事務員、コックなどさまざまだが、興味津々で来てくださる。和装の妻は何度も事前に稽古をして心を込めてお茶をたてる。あえて苦みを抑えるなど、外国人の嗜好にも注意する。ラフないでたちのお客さんたちには、私が横から作法をごく簡単に説明はするが、総じて自由にしてもらっている。ひととおり、茶会が終わったら、妻の介助でお客さん自身が抹茶をたてることもある。
「茶道」をたしなむことは
様々なことに繋がる
本格的な茶会に比べてもの足りないのではと懸念していたが、やってみると望外に人気を博し、いろいろな感想がよせられる。「ミセス・ゴウドのジャパニーズ・ティー・セレモニー」は、毎週末、異文化融合の魅惑で華やぐ。
茶道の発祥にはキリスト教の祭礼の影響が多々あるといわれる。茶室の構造、ひとつひとつの道具や作法、それぞれに、世界観が秘められている。形式を遵守しながらも、亭主と客のやりとりには、機知や情愛を伝える術がある。詫びや寂びの言葉が示すように、茶会は経済力や立場を超えた交流の場だ。
茶室や茶道具には、陶漆器、竹細工、畳、炭、などの職人技でつくられた品々が静息し、日本文化の集結だ。残念ながら、日本国内では、茶道の影が薄くなりつつある。国際交流を深めるために、日本文化を学び育むために、何よりも、心豊かな自己研鑽のために、もっと日本人自身が茶道をたしなんでもよいのではないか。
プロフィール
明治学院大学
経済学部経済学科教授
神門善久さん
1962年島根県松江市生まれ。滋賀県立短期大学助手などを経て2006年より明治学院大学教授。著書に『日本農業への正しい絶望法』(新潮社、2012年)など。
AGRI JOURNAL vol.12(2019年夏号)より転載