“農Tuber”が目指す! 農薬を使わない、付加価値のある米作り
2023/03/06
石川県野々市市に、米文化を次世代に継承しようと、紙マルチ田植機とともに地域の田んぼを守り続ける“農Tuber”がいる。その驚きの手法をお届けしよう!
住みやすさの要因は田んぼ
それを次世代に引き継ぎたい
『加賀百万石』という言葉が示すように、石川県の農業といえば『米』である。コシヒカリのほか、石川県オリジナル品種『ひゃくまん穀』も人気が高い。そんな米どころ石川県のほぼ中央に位置する平野部に、野々市(ののいち)市はある。人口は約5.2万人、面積は約13㎢と小ぢんまりとした野々市市だが、東洋経済『都市データパック』が発表している「住みよさランキング2021」で2年連続全国1位を獲得している。
「住みよさの一因は、間違いなく田んぼです」と語るのは、株式会社林農産の代表取締役の林浩陽さん。人気YouTubeチャンネル『林さんちのゆかいな米作り』の林さん、といえば、普段YouTubeをご覧になる方ならばピンと来るかも知れない。林さんが家業を法人化して林農産を設立したのは1988年のことだが、林家は代々、野々市市で米を作り続けてきた。
「この工場を建てるとき、田んぼの遺跡が出てきたんです。竪穴式住居の跡や土器も見つかりました。野々市では遥か昔から稲作が盛んに行われていたのです。近所の博物館には籾が付着した2650年前の土器が飾られているんですよ」。
林農産では現在、水田46.7ha、大豆3haを12名の従業員で管理している。収穫した米の60%はJA等に、残りの40%は自社オンラインショップで直販している。直販で米を高値で売ることができるのは紙マルチ田植機のお陰だ、と林さんは語る。紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで田面への日光の通過を遮断して雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱農業機械独自の田植機である。
「紙マルチ田植機を使い始めてから、今年で20年目になります。あの機械は2004年製ですが、実は購入前にも実演機をお借りして使っていました。今年は4.2haで紙マルチ田植機を使いました。無農薬米は、米価の下落に関係なく、直販で確実に売れてくれます。今では、お客様に謝って注文をお断りしているくらいの売れ行きです。紙マルチ田植機を活用することで実現した農薬を使わない高付加価値米は、今では当社の収益の柱に成長してくれました」。
工場兼事務所の入り口は自社製品の直売所になっている。お米だけでなく、かき餅、米粉、がんこ揚げなどの豊富なラインナップで、野々市のお米の魅力を伝えている。
YouTube運営を
続ける中で変わった目的
林さんは2012年に軽い気持ちでYouTubeチャンネルを始めたが、2016年に受講したセミナーが林さんを変えた。チャンネル登録者が1万人を超えると売上が2倍になる、と講師に教わったのだ。
「それからは本気で取り組み、今ではチャンネル登録者は約2万7000人です。ところが! 売上は2倍になんかなりませんでした(笑)。その代わりに、私の人生が変わりました。例えば、今こうして取材してもらったり、技術をオープンシェアすることで視聴者の方から色々と教わることもできました。でも今では、YouTubeは別の目的のために運営しています。それは食育です。私は『食育は日本を救う』と信じています。普段の動画は1万回くらい再生されますが、食育動画はそこまで伸びません。でも、なるべく多くの人に食育の動画を見てほしい……そのために、みんなが大好きなトラクターや紙マルチ田植機の動画を頻繁にあげて、その間に食育動画を混ぜています」。
食育こそが林さんのライフワークだ。近隣の幼稚園・保育園・小中学校を回り、多忙な本業の合間を縫って食育講座を開講している。田植えだけでなく、稲刈りから脱穀、食べるところまでを、実習に座学を織り交ぜて教えている。
「米作りは、この地域の、そして日本の大切な文化です。米が好きとか嫌いとかいう前に、最近の子供は米についてまったく知らない。米や農業に興味を持つ以前の問題です。農業や地域そのものの存続にとって危機的な状況です。私達は今、先祖代々受け継いできた田んぼの恩恵を授かっています。私達には、この環境を次世代に受け継ぐ義務があるのです。そのためには、まずは子供達に田んぼや米について知って欲しいんです」。
YouTubeチャンネル
『林さんちのゆかいな米作り』を運営中!
林さんは、チャンネル登録者数約2万7,000人、総再生回数2,600万回を誇る人気YouTubeチャンネル『林さんちのゆかいな米作り』を運営する、人気“農Tuber”だ。幼稚園・保育園から小中学校まで、幅広い年代の子供達に食育教育を実施している。事務所にはお礼の手紙や感謝状が幾つも飾られている。林さんの宝物である。