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生産者の取組み

“究極の農場”を創り上げた夫婦のドキュメンタリーが大絶賛! 有機栽培成功へのヒントに

映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』の監督&営農者のジョン・チェスター氏は、自然と人間が共生する伝統的農法が実現可能であることをみごと証明した。彼はどのようにしてその共存と調和を叶えたのか? 

美しい映像で描かれる
8年間のドキュメンタリー

農薬を使わずに生物の多様性を尊重しながら、自然と人間が共生する伝統的農法で野菜や家畜を育てたい……。

自然との調和を目指すそんな新規就農者が年々増えている。しかし、害虫や害獣、台風といった自然の猛威との “共生” は本当に可能なのだろうか。

日本でも公開が開始された「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」は、大自然の厳しさに翻弄されながらも、美しい農場を創りあげていく夫婦の奮闘を描いたドキュメンタリー映画だ。

この映画の出演者であり監督であるジョン・チェスター氏に話を聞いた。

7年経てばバランスがとれる
“兆候”が見え始める

――ジョンさんは、荒れ果てた広大な土地を、動植物が共存する驚くほど美しい農場に作り替えられました。

ジョン:最初に僕らがこの地で農業を始める計画をしていた時は、周りの人たちに「こんなやり方じゃ世の中の人々に食べ物を提供することなんてできないよ」と言われたよ。「きみたちは趣味の農家でしかない」って。

彼らはまた、「化学的な農薬を使わないと農作物は害虫にやられてしまうから絶対無理」とも言った。「こんなやり方は、普通の農園よりも水をたくさん使うことになる」とも忠告された。僕たちは最初、その忠告が正しいのかどうかわからなかった。だけど、最終的に彼らの言うことはどれも正しくなかった、ということが証明できた。

――忠告された水の使用量は実際いかがでしたか?

ジョン:周りの農家に比べて、水の使用量は10〜35%は少ないよ。また、カバークロップ(被覆作物)を植えたことで、この8年の間で、土壌有機物が3〜5%も増えた。それによって農場の土壌に水を蓄えることもできているんだ。

――虫や鳥獣による被害は、天敵を農場に呼び込むことによって解決していましたね。

ジョン:僕らの農園に伝統農法を教えてくれた世界的指導者、アラン・ヨークは、自然が戻ってくるには5年から7年かかると言っていた。つまり、5年から7年経てば、人間にとって害虫や害獣としか見られなかったものたちの生態系が調和し、農園に存在するあらゆる生き物たちのバランスがとれてくる兆候が見え始めるよ、と。

――生態系の調和の兆候は、どんなものがありましたか?

ジョン:たとえば、テントウ虫。テントウ虫がアブラムシを捕食するために果樹園に卵を産みつけにやってきたのを見た時、思わず泣いてしまったよ。


困難を目の前にした時の
もっとも良い対処法は「好奇心」

ジョン:「農場のニーズ」と「野生生物のニーズ」の調和を実現させるために大切なことは、正しく質問をするということ。

――正しく質問するとは?

ジョン:何か葛藤があったり、失敗した時に、僕たちはつい失敗を恥じたり、葛藤を前に立ち止まったり、恐れを感じてしまったり、問題の本質をちゃんと理解する前に、手早く片付けてしまおうとしがちだ。

しかし、困難を目の前にした時のもっとも良い対処法は「好奇心」だ。好奇心を持って、「なぜそのような問題が起こっているのか?」を問い、深く探求して理解すれば、もっとサステナブルな解決法が見つかるはずだ。

――映画の中でも、ため池の水が干上がってしまったり、虫や鳥に作物を食べられてしまったり、コヨーテに家畜が襲われてしまったりしたときに、思いもよらない解決法が生まれていましたね。

ジョン:問題というのは、ともすると「悪いこと」に見えがちだよね。でも、映画の中でも語ったけど、すべては自然と調和するためなんだ。常に「心地よい不調和」が起こったおかげで、僕たちはここまでやって来られた。

経済的な生き残り戦略は、
仲介業者の手を借りないこと

――投資に対する回収はできましたか?

ジョン:順調に進んでいるよ。投資家の方々が利益を再投資しようとサポートしてくれている。再投資によって、より健全な土壌をつくることが可能となる。そして、健全な土壌ができれば、より栄養価の高い作物をつくることができる。再生的なやり方によって、さらに土壌が良くなるという好循環を生むことにつながる。

――売れ筋のアイテムは?

ジョン:いま250種類の農作物と畜産を手がけている。牛、羊、鶏、鶏卵、リンゴ、ネクタリン、桃、ブドウ、アボカド 、レタス、キャベツ……。もうきりがないね(笑)。どうしてこれほどのバラエティさを持たせているかというと、経済的な生き残り戦略のためだ。

――経済的な生き残り戦略というと?

ジョン:僕らのようなタイプの農家がうまくやっていくためには、消費者に直接売る方法しかない。直販だ。例えばファーマーズマーケットで売ったり、小売店に直接持ち込んだり。こうして仲介業者の手を借りないやり方によって、じつに3倍の利益が得られるんだ。そのためには扱う品種を増やさなければ競争力が減ることになる。ただ、さすがに250種類は多すぎだね(笑)。少し減らしていかないと。

自然から奪ってしまったものを
人間がもう一度よみがえらせる

――最後に、日本のファーマーへのメッセージを。

ジョン:ファーマーいうのは、人々への栄養提供者であると同時に、最高の環境活動家になれる能力がある。良い食べ物を育てること、良い食べ物を提供することは、人間のみならずこの惑星そのものを究極的に癒すこと。それは人間が経験し得る中で、もっとも名誉なことだ。ファーマーは、自然と再びつながること。しかも、謙虚に、そして無防備に。それによって究極の真実を発見できる人たちだと思っている。

僕がやっていることは、「リジェネレーティブ・アグリカルチャー」(Regenerative Agriculture、再生的な農法)だ。つまり僕たち人間が、一度自然から奪ってしまったものをもう一度蘇らせること。

これからは日本のファーマーのみなさん、オーストラリア、そして世界中のファーマーでチームとなって知恵を出し合い、伝統農法の知恵をこれから就農する人たちに受け継いでいきたいね。

僕たちの農園ではツアーもやっているから、ぜひ遊びに来てほしい。

自然を愛する夫婦が “夢” を追う
8年間の奮闘を描く奇跡のドキュメンタリー

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方

殺処分寸前で保護した愛犬のトッド。その鳴き声が原因で大都市ロサンゼルスのアパートを追い出されたジョンとモリー。料理家の妻は、本当に体にいい食べ物を育てるため、夫婦で郊外へと移り住むことを決心する。しかし、そこに広がっていたのは200エーカー(東京ドーム約17個分)もの荒れ果てた農地だった――。
時に、大自然の厳しさに翻弄されながらも、そのメッセージに耳を傾け、命のサイクルを学び、愛しい動物や植物たちと未来への希望に満ちた究極に美しい農場を創りあげていく――。自然を愛する夫婦が夢を追う8年間の奮闘を描いた感動の奇跡。

\各紙のレビューで大絶賛!/

息を呑むほど美しく魅力的。今年絶対に観るべき一本。(ワシントンポスト)
観る者の魂に爽やかな風を吹き込んでくれる傑作。(バラエティ)
あなたは自然がもたらすこの奇跡に驚嘆するだろう。(ニューヨークタイムズ)

監督:ジョン・チェスター/出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター/配給:シンカ/サウンドトラック:ランブリング・レコーズ 協力:eatrip 特別協力:J-WAVE © 2018 FarmLore Films, LLC  Photo Credit: Yvette Roman

DATA

映画「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」

Apricot Lane Farms


text:Mikako Wakiya

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