有機米の除草の手間を減らして6次産業化を実現。カギとなった「紙マルチ田植機」とは?
2023/09/01
家族経営で有機米と約100種類を超える野菜を育て、さらには畜産、農業体験施設の運営までを行っている農業生産者がいる。それを実現する秘訣は、除草の手間が掛からない有機米の栽培方法にあった。
農薬と化学肥料を極力使わず
安心安全な農作物を直販
兵庫県の中央東部に位置する丹波市は、北東が京都府と接する盆地である。食料の大消費地である神戸や大阪、京都から車で1~2時間と近いため、古くから様々な農作物が生産されてきた。全国区の知名度を誇る丹波黒大豆、丹波大納言小豆、丹波栗は丹波三宝と呼ばれる特産品であり、米、黒ごま、葉物野菜や薬草の生産、それに畜産も行われている。
丹波市は有機農業の先進地域としても知られている。1970年代には全国に先駆けて、有機農業について農業生産者と都市部の消費者が一緒に考える研究会を発足。以降、長らく全国の有機農業をリードする団体として活動が続いた。自然環境と地域環境、それに歴史的経緯から、現在でも丹波市は有機農業+複合経営が盛んな地域である。
そんな丹波市で先祖代々農業を営んでいるのが、丹波婦木農場の10代目婦木克則さん。水田7ha、野菜1.5ha、小麦3.5反、豆8反のほか、酪農と養鶏を営む。野菜は年間を通じて約100種類を生産している。
婦木農場では100種類を超える野菜を生産。消費者グループに届けられるほか、ネット通販やカタログ通販、近くの道の駅などで販売している。
「当家は江戸時代から丹波の地で農業を営んできました。時代が明治へと進むのに合わせて、当時需要があった養蚕を始め、昭和初期には乳牛を購入して酪農を始めています。お米、野菜といった農作物だけでなく、今でも作っているお餅や醤油などの加工品を作り、近隣の町までリヤカーを引っ張って行き販売していたそうです」。
大阪府大阪市で実店舗を開店。主に婦木農場産の原材料を使用したおむすび、おはぎ、お惣菜を販売している。
このように代々複合経営を続けてきた丹波婦木農場だが、克則さんはさらにその事業の幅を広げている。
「販売はすべて直販しています。先代の時代は米の他、四季折々の野菜を消費者グループに届けることで経営が成り立っていましたが、それだけの規模の消費者グループを維持するのは容易ではありません。辞めてしまう方もいますし、高齢化していきます。そこで農作物の種類を増やすとともに、食べてくださる顧客の方々との接点を作りたいと、2013年に農家体感施設『〇ーまるー』をオープンしました」。
「〇ーまるー」では農作業や加工品づくりの体験のみならず、採れた野菜を調理する農家カフェも営業。宿泊まで対応し、丹波の農家の生活を24時間実体験することができる。
農業体験施設「◯-まる-」では、農業体験のみならず、採れた野菜などの調理から宿泊まで対応する。
紙マルチ田植機の導入で
有機米と多品種の野菜生産を両立
これほどまでに多角化した婦木農場だが、婦木さんご夫妻と2人の息子さん、それに2名の従業員だけで運営しているというから驚きだ。婦木農場はいかにして業務をこなしているのだろうか?
「その秘密は紙マルチ田植機にあります。息子たちと妻、従業員は頑張ってくれていますが、さすがに除草に手間が掛かる有機米作りとこれほど多様な業務は、普通にやっていてはこなせません。除草作業が必要になる時期には丹波の名産である黒豆の作業で手いっぱいになる。多岐にわたる作業を行う時間を作るのに、紙マルチ田植機が欠かせないのです」。
大人気の黒豆(枝豆)もほぼ農薬を使わず栽培している。「梅雨入り時に播種しますから、夏は雑草取りや手入れに手が掛かる。だからお米栽培に紙マルチ田植機が必要なのです」と、婦木さん。
紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで田面への日光の通過を遮断して雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱農業機械独自の田植機である。「みどりの食料システム法」の投資促進税制の対象に認定された名機だ。
三菱農業機械の『紙マルチ田植機』。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草を抑制する。「みどり戦略」において、環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進に貢献する機械として、投資促進税制の対象に選ばれている。
「紙マルチ田植機との最初の出会いは学生時代にさかのぼります。紙マルチを研究していた鳥取大学の津野幸人先生から、その存在を聞かされたのです。水稲を無農薬栽培するなら紙マルチ田植機、とインプットされたのでしょうね(笑)。就農してすぐ、仲間を集めて購入しました。今から30年ほど前になります」。
現在はご自身で購入した2代目の紙マルチ田植機を使用しているが、その購入代金の一部は消費者グループの方々が支援してくれたのだという。当時の消費者グループの方々の無農薬栽培への意識の高さが伝わる逸話といえよう。
「紙マルチ田植機」で田植えした田んぼの様子。専用の再生紙を敷き詰めて雑草を抑える。
「安心安全な美味しいお米を食べたければ、農家に必要な農業機械の購入を消費者もサポートしようと考えてくださる方々が支えてくださいました。紙マルチ田植機での田植えには手間が掛かりますし、紙マルチ代も掛かります。それでも息子たちが農業で自由に挑戦できる環境を作るには、経営的にも紙マルチ田植機による有機米栽培は欠かせません」。
300羽の鶏が平飼いされている。餌にはくず米が混ぜられており、白味がかった黄身が好評で、1パック500円でも即完売するほどの人気商品だ。
2015年に息子さんお2人が就農すると同時に、平飼い鶏舎を増築して卵の生産量を増やした。鶏の餌には精米時に出たくず米が使用されており、そのため黄身が白っぽくなる。コクの深い味が好評で、1パック500円でも即完売するという。また乳質の高いジャージー牛も購入して、翌年にはチーズ生産を開始。そして2021年、オールジャパンナチュラルチーズコンテストで婦木農場の「蔵熟成ゴーダ」は見事、農林水産大臣賞を受賞した。この事業拡大を陰から支えているのが、紙マルチ田植機というわけだ。
牛乳やソフトクリームの原料を生み出してくれる乳牛は7頭。自家製WCSで育てている。「すべての生産は米でつながっているのです」と婦木さんは語る。
「チーズの生産に、特に力を入れているのは長男です。次男は高専で学んだ知識を活かしてネット通販やカタログ作り、そして有機米を使ったおむすびの製造販売を担い、道の駅や大阪にオープンした直営店での販売につなげています。利益を出せる体制を構築して次世代に引き継ぐのが私の役目ですが、目途が立ちつつあります。ただし、お客様に安心安全で美味しい農作物を提供することについては、終わりはありません。これからも丹波産の名に恥じない作物を作り続けていきます」。
江戸時代から令和の現在まで続く、丹波婦木農場10代目当主の婦木克則さん。「除草に掛ける時間があったら、他の作業をしたい。それを実現してくれるのが紙マルチ田植機です。決して安い機械ではありませんが、ウチにとってはなくてはならない存在です」。
問い合わせ
取材・文:川島礼二郎
Sponsored by 三菱マヒンドラ農機株式会社
AGRI JOURNAL vol.28(2023年夏号)より転載