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米不足の秋に・・・ 大雨で倒れた稲からのメッセージ

この夏、記録的な大雨に見舞われた秋田県。道路を走っていると、相次ぐ大雨で根元からバッタリと倒れた稲が目立つ。高温障害が発生した昨年より稲穂の数は多いとはいえ、農家の人達は複雑な表情をみせている。

この地域では
60代は若手農家

稲刈り作業をする渡辺雄孝さん(秋田県秋田市)

「今年の夏は30度を超える暑い日が続いたけど、夜間に気温が下がったので稲穂の数が例年よりも多いようだ」と話すのは、秋田市雄和で米を栽培している渡辺雄孝さん。9月14日からの3連休。秋田市周辺では、平年よりも3~5日程度早く稲の刈り入れ作業が本格化し始めた。

9月12日に70歳になった渡辺さん。「この地域では、60代はまだ若手農家と呼ばれている。70歳になってようやくベテラン農家の仲間入りができそうだ」と笑顔をみせる。渡辺さんは7ヘクタールで米を栽培する専業農家だ。このうち、4.6ヘクタールであきたこまち、残りの2.4ヘクタールで加工用の酒造好適米を栽培している。国際競争力を高めるため、渡辺さんは30代のときから農地の大規模化に取り組んできた。

記者が取材に出かけた9月16日は、稲刈りを初めて3日目。あきたこまちの稲を刈り取っていた。10年以上前に整備をして、1区画1ヘクタールに大規模化した田んぼである。「7月下旬から良い天気が続いて、今年は豊作を期待していたが、8月中旬以降の雨で実った稲が一気に倒れてしまった」と残念そうに下を向く。稲が倒れるのは収穫量が多い証拠だが、刈り入れが遅れると品質の劣化が心配されるという。

頻発する異常気象
世界各国で農業生産力が低下

倒れた稲を刈り取る渡辺雄孝さん

今年の夏は、全国各地で米が不足した。スーパーなどの店頭から米袋が姿を消したのである。米が品薄になった原因の1つは、昨年夏の大雨や高温被害による米の不作だ。昨年は夏場の猛暑で米の品質が落ち込むとともに、台風や線状降水帯による大雨で、米などの農作物に甚大な被害が出た。

その一方で、農家の高齢化や後継者不足により、米の生産量が減少している。これに気候変動による異常気象や自然災害が追い打ちをかける形で、米の収穫量が不安定になっていると渡辺さんは考えている。「この夏の米不足は、一過性の出来事ではない。深刻な後継者不足がいよいよ顕在化してきたのではないか」。

親戚の人と倒れた稲を刈り取る

倒れた稲を刈り取るには、手間がかかる。コンバインの手前で親戚の人が木の棒を使って、倒れた稲をひと株ひと株持ち上げていた。記者も稲を持ち上げる作業を手伝ってみたが、30度を超える暑さのなか、わずか数分で汗びっしょりになった。

渡辺さんは高校を卒業後、約5年間カナダへ農業研修に出かけて、大規模な畑作を目の当たりにした。「じゃがいもや牧草の栽培を手伝っていたが、日本とはケタ違いのスケールの大きさに驚かされた」と懐かしむ。しかし、そのカナダでも、農家の高齢化と後継者不足が大きな問題となっている。

この地域では、9月19日夜から72時間に200ミリを超える激しい雨が降り続き、渡辺さんの田んぼでも倒れた稲が水浸しになった。地球規模で頻発する異常気象。世界の国々で広がりをみせる農業生産力の低下。倒れた稲は、もう二度と元には戻らない。相次ぐ大雨でバタッリと倒れた稲は、わたしたちにさまざまなことを訴えかけている。


取材・文/高橋健一

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