【熱中症対策の先進事例】「モノ」「仕組み」「人」 3つの軸で従業員を守る「れんこん三兄弟」
2026.05.01
茨城県稲敷市の株式会社れんこん三兄弟は、熱中症対策に先進的に取り組んでいる。5年前から「モノ」「仕組み」「人」の3つの軸で従業員の安全を守っている。代表取締役の宮本貴夫さんに話を聞いた。
1.胴付きゴム長がリスク要因 レンコン栽培の特殊事情
2.【モノ】冷水循環ベストの活用と無料の自動販売機を設置
3.【仕組み】1時間ごとのチャイムで強制給水
4.【人】社員1人に実習生5人 先輩が後輩のために通訳
5.これから取り組む農業法人へのメッセージ
胴付きゴム長がリスク要因
レンコン栽培の特殊事情
胴付きゴム長で作業する従業員(写真提供 れんこん三兄弟)
れんこん三兄弟は約42haの蓮田で年間600トンのレンコンを出荷している。従業員40名のうち14名が外国人材。収穫は7月から翌年3月までの約9カ月間で、植え付けや管理を含めると通年で水田に入る仕事が続く。
代表取締役の宮本さんは「レンコンの水田は、みなさんがイメージする沼より田んぼに近くて、ひざ立ちで作業できる深さです」と語る。通気性ゼロのウェーダー(胴付きゴム長)を着て作業するため、作業着自体が熱中症のリスク要因になる。背負式の動力散布機を使う追肥作業も負担が大きい。
肥料を背負って飛ばす機械は重く、しかも機材のベルトとクールベストのパイプが身体を圧迫して痛みを発するため、ベストを着たまま作業ができない。このように身体に負荷がかかる作業で冷却アイテムが使えないという悩ましい状況がある。夏場の作業では、よりこまめな水分補給と休憩で対応するしかないという。
熱中症対策に取り組むきっかけは5年前。出荷場で年配の従業員が熱中症とみられる症状で突然座り込む出来事があった。ほかにも重症には至らないものの、夏場に体調不良を訴えるケースがたびたび発生し、それ以来、熱中症対策を段階的に拡充してきた。
【モノ】冷水循環ベストの活用と
無料の自動販売機を設置
夏場に着用している冷水循環ベスト(写真提供 れんこん三兄弟)
最初の一歩は、扇風機の台数を増やし、飲み物を会社支給にすることから始まった。そこから徐々にアイテムを拡充していった。
身につけるアイテムになかで評判が良いのが、冷水循環ベスト(クールベスト) だ。冷却された水をポンプでベストのチューブ内に循環させ、身体(特に背中や脇)を直接冷やすものだ。出勤する人数分を共用で準備している。「着用する前に比べたら、体感の暑さがかなり抑えられていると従業員が話しています」(宮本さん)。
従業員が自由に飲める無料の自動販売機を設置(写真提供 れんこん三兄弟)
飲料の提供も徹底している。主要な休憩施設に無料の自動販売機を1台設置し、従業員が自由に飲めるようにしている。新たな休憩施設にも大型の冷蔵庫に飲料を冷やして常備し、遠慮なく飲める環境をつくっている。後述する強制給水タイムと組み合わせて効果を発揮している。
【仕組み】1時間ごとの
チャイムで強制給水
1時間ごとに給水タイムを確保(写真提供 れんこん三兄弟)
「飲んでもいいですよ」では、従業員は面倒くさがって飲まない。そう気づいた宮本さんは、1時間ごとにチャイムを鳴らし、全員が一斉に作業を止めて水分補給する仕組みを導入した。
「誰かが作業していると飲みづらい」という声を聞いて、全員一斉に止める方式に変えた。チャイムはタイマーでセットし、社員が呼びかける必要もない。作業のリズムに休憩が組み込まれた形だ。
もう一つの大きな仕組みが、サマータイム制。夏場は朝5時出勤にシフトし、気温が上がる前の涼しい時間帯に作業を前倒しする。気温を常にモニタリングし、その日の気象状況に応じて作業時間を変更する体制も整えている。
2025年6月に施行された熱中症対策の義務化については、「法制化する前から実施している取り組みを継続強化しています」と宮本さん。従業員への伝え方も硬い話はせず、「みなさんが快適に仕事してもらうために必要なものを会社で用意しています。一緒に頑張りましょう」と呼びかけている。国の制度に追従するのではなく、働く人たちのための取り組みという位置づけが、現場への浸透を後押ししている。
【人】社員1人に実習生5人
先輩が後輩のために通訳
インドネシア出身の外国人材が活躍している(写真提供 れんこん三兄弟)
同社の従業員40名のうち14名が外国人材(技能実習生11名、特定技能実習生3名、全員がインドネシア出身)だ。70歳以上の日本人従業員も在籍しており、年齢・文化・言語が異なるメンバーで仕事を進めるためにはコミュニケーションが欠かせない。
社員1人が実習生5人程度を担当し、業務の進行と健康状態を管理する。外国人実習生は運転免許がないため、社員と必ず行動をともにすることから、この体制が構築された。先輩の実習生が後輩に母国語で通訳する体制も自然に出来上がっており、月1回の面談では通訳を介して体調を含めた生活上の不安も聞き取る。
インドネシア人の従業員は、日本の夏は湿度が高いため母国よりも過酷だと体感的に理解しているという。「彼らは、真面目に仕事に取り組んでくれています。だからこそ、自分たちがブレーキ役になって体調を管理する必要があるのです」と宮本さんは語気を強める。
これから取り組む
農業法人へのメッセージ
徹底した対策を続けてきた同社だが、まだ課題も残る。必要性を痛感しているのが、母国語に翻訳した熱中症対策のマニュアルだ。現在は日本語で伝え、月に1回の面談で通訳を介して補足しているが、母国語の書面として常備する段階には至っていない。それに加えて、宮本さんは出荷場へのエアコン導入も検討している。売り上げとのバランスが取れれば、夏場に時短勤務の導入を検討したいと考えている。
最後に、これから熱中症対策に本格的に取り組む法人経営者へのアドバイスを聞いた。
「まずは会社として、休憩時間をこまめに設けることから始めてみてはいかがでしょうか。作業の流れが途切れないように休憩を組み込む工夫が、最初の取っ掛かりになると思います」(宮本さん)。
お金をかけずに始められる「こまめな休憩」からスタートし、資金に余裕ができたら必要なアイテムを少しずつそろえていく。段階を踏んだ進め方こそ、熱中症対策を継続するカギになると宮本さんは強調している。
DATA
取材・文:佐藤美紀
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