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線虫害対策と土づくりを両立!『名人レタス』生産者の緑肥活用

線虫害対策として導入した緑肥が大きな効果を発揮し、現在は農薬散布なしでも栽培可能に。比較的少ない労力と輸送コストで圃場に有機物を施用できる緑肥とは?実際に使用している茨城県坂東市の篤農家古矢さんに話を聞いた。

メイン画像:『惚レタス』の収穫風景(4月上旬に撮影)

先人とJAの努力で
栽培体系が確立された

取材させていただいたのは古矢優貴さん。茨城県坂東市(JA岩井管内)において2.3haの圃場で春レタス・夏ネギ・秋レタスを各1haずつ栽培している(作付面積は3ha)。

従業員は古矢さんご夫妻とご両親のみ、という家族経営だ。夏場に供給が減る夏ネギを組み込んだ体系と、市場で高く評価される高品質レタスにより、高い収益性を誇っている。

「栽培体系は私自身ではなく、この土地が代々培って確立したもの。先人とJAの努力の賜物です。JA岩井管内は夏ネギを主体に年間300ha、春・秋レタスは年間400haを作付けしている大産地になっています」。

古矢さんは、JA岩井の独自ブランドである『名人レタス』の生産者20名に名を連ねる篤農家だ。

『名人レタス』と『名人ねぎ』を栽培するのは、平成6年に組織された『野菜名人グループ』。消費者の「安全・安心・健康」ニーズに応えるべく組織されたグループが生産する野菜は、市場で高く評価されているブランド野菜だ。


茨城県は長野県に次ぐ全国2位のレタス産地。なかでもJA岩井の独自ブランド『名人レタス』は市場で高く評価されている。「ネギもレタスも、産地として市場に指定席がある状態ですし、取引価格にも満足しています。先人とJAに感謝です!」(古矢さん)。

『名人レタス』の生産には、肥料メーカーに特注した指定肥料(高品質有機を80%以上含む)が使用されており、土づくり、防除、輪作に配慮し、栽培基準を順守することが求められる。

「経営していくうえでは、L玉が最も高価で取引されますから、秀品率とL玉率をいかに高めるかが重要になります。レタスの生育は、その年の天候や気温、作付けした圃場などにより変わります。そこで過去10年分の出荷データをもとに圃場ごとに秀品率とL玉率を記録して、毎年行う土壌分析の結果と突き合わせして、次作の施肥設計をしています」。

線虫害対策に緑肥を導入
土づくり効果を実感!

もともと有機質肥料を利用して土づくりを熱心に行っていた古矢さんが、なぜ緑肥の利用を始めたのだろうか?

「きっかけは、5年ほど前にあったレタスの線虫害でした。線虫害を抑制する効果があるスーダングラスの『ねまへらそう』を栽培してみました。効果は絶大でした。今は線虫の密度が高くないため、パールミレットの『ネマレット』の栽培のみで、定植前の農薬散布なしでもレタス栽培ができています」。

緑肥の線虫害抑制効果について古矢さんは「線虫は土壌中にいて、パールミレットやスーダングラスの根にも侵入します。レタスの根に線虫が侵入した場合には、卵を産んで増えてしまうのですが、緑肥は増殖させない。だから世代交代ができず、被害を抑制できるのです」と説明してくれた。

▶ 緑肥の基礎知識

「栽培した作物を収穫せずにそのまま田畑にすき込み、次作の肥料にすること」、または「そのために栽培する作物のこと」を緑肥という。

緑肥には、同じ有機物施用に活用される堆肥と比較して施用にかかる労力と輸送コストが低いという根本的なメリットがある。一方で、肥料価格の高騰や土づくりの重要性が再認識されたこと、また緑肥のもつ病害虫抑制効果が注目されたことから今再び、緑肥が広がり始めている。

土づくり効果(有機物施用による「団粒構造の形成=物理性の改善」、根が作土層を広げる)のほか、減肥効果(緑肥の種類によるが、窒素固定・溶脱栄養素の回収、CEC増による「保肥力向上=化学性の改善」、「有用微生物活性化=生物性改善」など)、さらに有害生物の抑制などの効果がある。

では、本特集のテーマである土づくり効果については、どうだったのだろう?

「もちろん実感しています。緑肥をすき込むことで、雨後の圃場に水が溜まることがなくなりました。雨水が速やかに土壌に染みていくのを実感しています(下写真参照)。

以前の土壌だと、圃場を歩いていくと押し固めてしまい、すぐに水たまりができていました。今では、土に触れただけ、歩いただけで、団粒構造ができてフカフカになっているのがわかるくらいです。圃場を見たメーカーの営業担当者さんなどが『良い土ですね』と褒めてくれるくらいです」。


見ただけでも状態の良さがわかる土。「土に触れただけ、歩いただけで、団粒構造ができてフカフカになっているのがわかるくらいです」(古矢さん)。降雨後も水はけが良く、水たまりができづらい(下写真)。


ネギ栽培後の畑半分に緑肥を栽培。最大14mm/時間の雨後でも「緑肥あり」側には水たまりが見られない

「土壌の排水性=物理性」の改善は『名人レタス』の秀品率・L玉率の向上にも役立っているという。線虫害対策として始めた緑肥活用は、『名人レタス』の土づくりを陰から支えていた。

古矢さんが使っている緑肥

ウィーラー
雪印種苗が販売する極晩生ライムギの緑肥。キタネグサレセンチュウ抑制効果があり、秋遅くまで播ける。また、越冬性に優れる。

ネマレット
雪印種苗が販売するイネ科の緑肥。線虫抑制効果と栽培のしやすさを併せ持つ。播種後2ヶ月で出穂し、短期間で有機物量を確保できる。

ねまへらそう
雪印種苗が販売しているイネ科の緑肥。粗大有機物確保に適し、キタネグサレセンチュウを減らす効果がある。

話を聞いた方

古矢優貴さん


ご夫婦とご両親という家族経営の農業を茨城県坂東市で営み、夏ネギと高品質レタスを栽培している。


文:川島礼二郎
撮影:高橋大志 

AGRI JOURNAL vol.35(2025年春号)より転載

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