母親の故郷で就農、環境制御とBS資材で独自ブランドのミニトマトが全国表彰
2026.08.19
第5回全国ミニトマト選手権(日本野菜ソムリエ協会主催)で、宮城県大崎市の株式会社まやまのさとうファームが銀賞を受賞した。栽培を担うのは、就農5年目の横山莉子さん。環境制御ハウスにバイオスティミュラント資材を組み合わせ、独自ブランドで販路を広げている。
1.母親の故郷に移住 環境制御ハウスで養液栽培
2.水を絞り、肥料を濃くする 根にストレスをかけて甘くする
3.バイオスティミュラント資材で 食味と品質の向上を目指す
4.「リコズトマト」 商品名の由来は
5.審査評価を来季の栽培へ 地元でも知名度広がる
母親の故郷に移住
環境制御ハウスで養液栽培
宮城県に移住してトマトを栽培する横山莉子さん(写真提供 まやまのさとうファーム)
横山莉子さんは東京・北区出身。宮城県大崎市にある母親の実家で子どもの頃から農作業を手伝ってきた。進路を決めるとき、「自分がどのような仕事を続けられるのか」を考えて農業を選んだ。高校卒業後、宮城県の農業大学校に進学する。その後、栃木県の研修施設で1年間学び、環境制御システムを使った栽培管理を身につけた。
就職先として、母親の実家の農園を選んだ。叔父の佐藤喜則さんが経営する「まやまのさとうファーム」で、横山さんはミニトマトと中玉トマトを任された。環境制御システムを導入したハウスで養液栽培を管理している。研修で学んだ最先端の技術が、その土台にある。
水を絞り、肥料を濃くする
根にストレスをかけて甘くする
遮熱ネット、保温カーテンで温度を管理している(写真提供 まやまのさとうファーム)
ミニトマト栽培に力を入れ始めたきっかけは、買い物客の反応だった。道の駅や直売所に出すと、「おいしいね」と声をもらう。それがうれしくて、もっとおいしいものをつくりたくなった。
「水の量を減らし、肥料の濃度を高めて、根にストレスを与えています」(横山さん)。ただし、絞れば絞るほど良いわけではない。株が弱れば元も子もないのだ。「しおれがひどくならないように、カーテンを使ったり、温度を調節したり」と、木の状態を見ながら手を入れる。
難しいのは、水やりの量と、天候に応じた管理だという。「細かくやらなければいけない部分を、適切に判断するのが難しい」。研修どおりにはいかないことも多く、天候の変化に合わせて調整を重ねている。
バイオスティミュラント資材で
食味と品質の向上を目指す
導入している環境制御システム(写真提供 まやまのさとうファーム)
横山さんが新たに導入したのが、バイオスティミュラント資材(BS資材)だ。
酢とアミノ酸は市販の製品を使い、光合成細菌とフルボ酸は自社で培養する。光合成細菌は花数を増やして木の状態を整え、フルボ酸やアミノ酸は食味と品質の向上を狙う。いずれも、薬剤散布のタイミングで一緒に散布する。
BS資材の存在は、一緒に働くスタッフから聞いた。ほかの生産者の話や農業メディアの記事を参考に、「やってみよう」と考えた。
効果のほどは、まだ見極めている段階だ。「実際にどう変化があったのか、数値で語れる段階ではない」と、横山さんは慎重に言う。それでも、手応えはある。「コンテストの評価がだんだん上がっているのも、BS資材が関係しているのかなと思っています」。
「リコズトマト」
商品名の由来は
直売所に並ぶ「リコズトマト」(写真提供 まやまのさとうファーム)
差別化の柱に選んだのが、ブランド戦略だ。「リコズトマト」という名前は、デザイナーと相談して決めた。横山莉子さんの名前、リコピンの「リコ」、外国語で「おいしい」を意味する言葉― それらを重ねている。
狙いは、直売所で買い物客の目に留まること。少し目立つ、かわいらしいデザインにしてもらい、手に取って、食べて、リピートにつなげる。価格は180gで348円(税込)。「スーパーに並ぶミニトマトより高めの価格設定ですが、その分、手をかけて育てていますし、ラベルにもこだわっています」と笑顔をみせる。
当初のターゲットは、子育てを終えて余裕のある世代だった。ところが実際に手に取ってくれたのは、子どもの弁当に入れる母親が多かった。小さい子どもでも食べやすいからだ。「いろいろな方に食べていただけるんだなと思いました」。狙いは外れたが、その分、客層は広がった。
販路は、岩出山の道の駅やスーパー、自社の直売所が中心。加えて、仲卸を通じて他店にも置く。
審査評価を来季の栽培へ
地元でも知名度広がる
ミニトマトのハウス(写真提供 まやまのさとうファーム)
横山さんは、ミニトマトとラージトマトの全国選手権に3年前から出品を続けている。「審査員の評価を聞いて、それを栽培にどう生かすのか。プロの野菜ソムリエに食べてもらって、それでは今度はこうしてみよう、と考えます」。
今回の講評は具体的だった。「噛むごとにあふれる甘い果汁」「歯切れのよい果皮」「噛んだ途端に弾ける」「うま味と酸味のバランス」「もっと食べたくなる一粒」、そう評価された。
この評価は、横山さん自身の見立てとずれていた。「絞っている分、皮は若干硬いかな」と、本人はそこを弱点のように考えていた。だが審査員は、その皮の歯切れのよさを強みに挙げた。「皮にもうま味が入っていると思うので、全体でバランスが良いのかな」。自分では弱点と思っていたことが、外から見れば強みになる。
受賞の反響は、地域からも届いた。銀賞の獲得をきっかけに、周囲から「おめでとう」と声をかけられるようになった。直売所からも「ここに置いてください」と言われることが増えた。「すごくうれしく思います」。
次は、その名前を広げる番だ。「これからは大崎市のほかの地域や宮城県、いろいろな地域の人に知ってもらって、食べてもらえるようにしたい」。地元の直売所で築いた土台を、どこまで外へ伸ばせるか。
環境制御システムで味を安定させ、BS資材で上積みを探り、ブランド戦略で差別化する。コンテストの評価は、次の栽培へ生かす。
横山さんは就農5年で、ここまで築き上げた。まやまのさとうファーム代表で、叔父の佐藤喜則さんは、「一人でも多くの人が、大崎市で農業をしたいと思える環境を整えたい」と話す。大崎市の担い手づくりは、横山さんの一粒から少しずつ広がり始めている。
DATA
取材・文/佐藤美紀
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