農業従事者のための今日から始めるヘルスケア。「今は繁忙期だから」「これくらいなら大丈夫」――我慢の蓄積が不調の悪化に
2026.09.29
農作業による身体的負荷、屋外での熱中症・紫外線リスクなど、農業従事者が抱える健康問題は多岐にわたる。大きなケガや不調につながる前に、身体を整える習慣を身につけたい。
1.農家を悩ます健康問題
2.我慢の蓄積が不調を悪化させる
3.作業前後のセルフケアを習慣に
農家を悩ます健康問題
近年では、スマート農業機械やアシストスーツなど農業従事者の負担を軽減するアイテムの導入が広まりつつある。しかし依然として、中腰での長時間の作業や重量物の運搬などを行う農作業における身体的負荷は計り知れない。実際に、天候に左右される作業環境や、人手不足などを背景に、身体の痛みや違和感があっても、「今は繁忙期だから」「これくらいなら大丈夫」と、つい我慢して作業を続けてしまう農業従事者の方も多いのではないだろうか。
さらにいま、こうした身体的負荷に追い打ちをかけるのが猛暑による「熱中症」のリスクだ。消防庁の調査※1では、令和7年夏期において、田畑等での作業中に熱中症によって救急搬送された人数が2226人となった。さらに農水省の調査※2では、令和6年の農作業中の熱中症による死亡者は59人に上っている。
また、強い日差しとともに降り注ぐ「紫外線」が、単なる日焼けにとどまらず、将来的に皮膚や目への深刻な健康被害を及ぼすことへの懸念も一段と高まっている。
日々身体を酷使する農業従事者だからこそ、改めて農作業中に潜む健康リスクを正しく理解しておこう。

その1:屋外作業における熱中症・紫外線リスク
●令和7年、田畑等の農作業中に熱中症によって救急搬送された人数は2,226人
●長年にわたる紫外線の蓄積により、皮膚がんや白内障などの健康被害を招くリスクも
その2:慢性的な身体的負荷
●1箱20㎏のコンテナや資材の運搬、中腰での長時間作業など、日々の蓄積で身体に大きな負荷がかかる
※1 消防庁「夏期(5月~9月)における熱中症による救急搬送人員の調査」より 仕事場:田畑、森林、海、川等※農・林・畜・水産作業を行っている場合のみ
※2 農林水産省「農作業死亡事故調査」より
我慢の蓄積が
不調を悪化させる
農業は、日常的に身体を酷使する仕事。たとえば畑での収穫作業や苗の植え付けで長時間の中腰姿勢が続いたり、収穫物や資材の運搬で腕や肩に大きな負荷がかかったり、ハサミや農具を繰り返し握る動作で手や手首に負担が蓄積したりするなど、全身を酷使しやすい環境だ。
こうした動作を、何時間、何日と連続して繰り返し、きちんと休むことが難しい時期もあるだろう。その積み重ねによって筋肉や関節に疲労が蓄積し、やがて慢性的な痛みへとつながっていく。
宇都宮に治療院を開業し、地元のイチゴ農家や米農家も顧客に抱えるミズノ治療院の水野先生は、「農家の方は、痛みがあっても作業を代わってくれる人がいないなど、無理を重ねて症状を悪化させてしまうケースが非常に多いですね」と話す。そして悩みとして多いのが腰痛だという。他に、膝の痛みや変形、手首の腱鞘炎で苦しんでいる人も多いそうだ。
「若いうちは体力があるため無理ができますが、その負担は確実に蓄積しています。40代、50代になったとき、一気に不調として現れることが多い」という。
大切なのは痛みが出る前にきちんと対策、ケアをすること。また、こういったケアは単に身体のためというだけでなく、「自分のベストパフォーマンスを維持するためでもあります」と水野先生。
痛い、辛いという症状が出る前にきちんとケアを行うことは、予防という目的だけではなく、作業におけるパフォーマンスを高く維持すること、すなわち作業の成果を高めるためにも大切なのだ。
今回は、農作業で特に負担が集中しやすい「腰」「膝」「肩」「手・手首」に注目し、不調が起こる原因と、日々意識したいセルフケアを次回以降の記事で紹介する。
作業前後のセルフケアを習慣に
朝(作業前)

作業前はラジオ体操などで全身を動かし、筋肉を温めてからスタート。ケガや痛みの予防につながる。
農作業中

長時間同じ姿勢を続けず、こまめな休憩を。疲労を溜め込まないことが不調予防の第一歩。
夜(作業後)

作業後はストレッチで筋肉の緊張をリセット。その日の疲れを翌日に持ち越さない習慣を。
教えてくれた人
水野彰宏先生

プロバスケットボールチームのトレーナーとして長年活動後、栃木県宇都宮市でミズノ治療院を開業。スポーツ選手のほか、栃木のイチゴ農家や米農家などが抱える身体的不調のケアのニーズにも応える。
HP:www.junk-trainer.com
文/藤田都美子
イラスト/PINO
AGRI JOURNAL vol.40(2026年夏号)より転載
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