亀岡盆地の京野菜生産が危機に直面! 原因は「投機目的での農地所有」の蔓延にあった
2020/08/07
明治学院大学経済学部の神門教授によるコラム、「現代農業の本質」。今回のテーマは「京野菜生産の危機」。なぜ伝統料理に不可欠な食材がなぜ危機に直面してしまったのだろうか。原因は投機目的での農地所有が蔓延していることにあると指摘する。
京野菜の悲嘆
京都盆地は固有の地質、水質、気候に恵まれ、それが京野菜という伝統料理に不可欠な食材を誕生させた。しかし、都市化の波にすっかりのみこまれたいまの京都盆地では農業はきわめて限定的だ。
代わって、隣接で自然条件が京都盆地に似ている亀岡盆地が京野菜の主産地となった。京野菜は栽培が難しいが価格が高く、営農の意欲と能力に富む農業者に向いている。亀岡盆地は京野菜生産の約8割をしめるともいわれる。
だが、その亀岡盆地の京野菜生産が危機に直面している。営農目的ではなく、投機目的での農地所有が蔓延しているからだ。農地は環境保護などの面で好ましい効果を持つため、農外転用が規制され、その代わりに資産税の優遇などの恩典を受ける。
ところが、この転用規制は、政治力次第で骨抜きになりやすい。そして、ひとたび転用となれば、農地価格は営農目的での価値の百倍近くにはねあがることも珍しくない。そうなれば農地所有者は濡れ手で粟の巨利を得る。
亀岡盆地は京阪神の大都市に近いことから、鉄道の延伸計画など土地の投機話がしばしばわいてきた。そのつど、営農の体裁だけを整えて税制優遇などを享受し、やがては開発計画に乗じて農外転用でお金儲けをしたいという発想が農地所有者の間に強まっていった。
そういう投機に憑かれた農地所有者たちは、いざ開発計画が具体化しそうな際に備えて、京野菜の生産者など営農継続を希望して開発に抵抗しそうな者を亀岡盆地から予め追い出そうとする。
亀岡盆地の投機熱を一気に炎上させたのが、本年2月オープンのサッカースタジアムだ。保津川と山陰線に囲まれた一面の優良農地が、スタジアムやそれに関連する施設のために転用された。スタジアム建設用地取得だけでも14億円が投入されている。
交通能力増強の工事も進行中で、これが京都のベッドタウンとしての宅地開発の呼び水になる。こうして投機熱はますますあおられ、亀岡盆地での京野菜生産は難しくなる一方だ。
いわば京野菜の犠牲のうえで建設されたスタジアムだが、新型コロナウイルスの影響でイベントができない。しばらくは「無用の長物」だ。
PROFILE
明治学院大学
経済学部経済学科教授
神門善久
1962年島根県松江市生まれ。滋賀県立短期大学助手などを経て2006年より明治学院大学教授。著書に『日本農業への正しい絶望法』(新潮社、2012年)など。
AGRI JOURNAL vol.15(2020年春号)より転載