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専門家が解説! 最近よく聞く「需要予測」と「生産予測」はどうやって行うの?

農業と人工知能(AI)の組み合わせで、農産物の生産予測や需要予測といった「予測」に関する研究が盛んに行われ、実際のシステムにも機能が追加されている。需要予測と生産予測の意味合いや、望まれている活用について、流通経済研究所・折笠俊輔氏が解説する。

需要予測と生産予測による
需給バランス調整

豊作貧乏――という、嫌な言葉が農業にはあります。これは、自分が豊作であっても、周囲の農家や地域全体も豊作だったりすると、需要と供給のバランスが崩れて、卸売市場での取引価格などが大きく下落し、利益が出なくなってしまうことを表すものです。
特に野菜と果物は、卸売市場において、その時の世の中が欲しい量に対し、商品の数が不作などで少なければ、高くても欲しい人が買うために価格が上昇し、逆に世の中が欲しい量よりも多くの商品が供給されてしまうと価格を安くしないと売り切ることが難しくなるため、価格が下落するというメカニズムを持っています。

ここで価格が下がるのを防ぎたいと思った場合、いくつかの方法があります。事前に将来の生産量を予測することができれば、出荷のタイミングまでに需要を高めるような取り組みを小売業などが実施できるかもしれません。例えば、スーパーで特売をしたり、調味料などと組み合わせて販売したり、といった取り組みです。あるいは、作付けや種をまくタイミングで、将来の時期ごとの需要量(スーパー等が仕入れたいと思う量)が分かっていれば、その需要量に合わせて作付けのタイミングを調整することができるかもしれません。同じ時期に集中しないことで、生産量が需要量を上回らないように調整できる可能性があります。

このように、これから出来てくる生産量と、これからの需要量が予測できると、事前に需要と供給のバランスをとることが可能となり、供給過多による農産物の価格の大幅な下落や、供給不足による価格高騰に対応することができるかもしれないのです。



 

需要予測と生産予測の技術

では、どのように需要予測と生産予測をするのでしょうか。
基本的には、今ある情報から将来の予測を行います。例えば、需要予測であれば、来店客の増減に影響する「天気の情報」、今までの農産物の販売実績や関連する商品の「売上動向」(白菜の需要予測をするために、鍋の素などの商品の動向を使うなど)、「昨年同時期の情報」などをインプットとして使い、統計的な処理やAI(人工知能)を使って、将来の需要を推計します。生産量も同様に、降水量や累積日射量などの「気象情報」や作物の「生育状況」、「害虫の発生状況」や「昨年の実績」を使い、将来の生産量(出荷量)を推計します。

この時、どれくらい先の未来の予想をするのか、が重要です。明日の予測をしても、需給バランスを調整する時間が無いかもしれません。打ち手につながらない予測は意味を持たないのです。生産者側、需要者側(買い手側)、それぞれが対策を打てるリードタイムを持って予測できることが理想です。そのため、生産量などは1週間単位で予測を出すような仕組みとなるでしょう。週ごとの生産量の見込みが、今週から数週間後まで数字で見えるような仕組みです。こうした「予測機能」は、実際には、生産者には生産管理システムなどに組み込まれるような形で提供されることになるでしょう。

なお、当然ながら未来になるほど、正確に予測することが難しくなります。皆様も明日の収穫量はある程度、正確に予想がつくと思いますが、180日後の収穫量を正確に予想するのは難しいでしょう。AIなどを使っても、それは変わりません。



 

需給調整のカギは、
事前にどれだけ情報を提供できるか


つまるところ、需給バランスを調整して、価格の下落や高騰を防ごうと思った時、需要者側(買い手)と生産者側(売り手)の双方で、対策を取っていくことが必要です。そのために必要なものは、予測の情報も含めた事前の情報の共有です。事前にお互いの情報が分かっていれば、取れる打ち手の幅が広がっていきます。需要者側は、出荷量が多くなる場合は需要を高める策を打つ、出荷量が少なくなる場合は代替となる商品でカバーするなどの対応ができますし、生産者側は冷蔵庫などで出荷のタイミングをずらす対応などができるでしょう。この事前の情報共有を強化していくことは、今からでもできるものです。取引先とのお互いの情報共有、できていますか?

需要予測、生産予測は、そうした情報共有の中で利用したときに、最も使えるデータの1つであると言えます。

筆者プロフィール

公益財団法人 流通経済研究所

主席研究員 折笠俊輔氏


小売業の購買履歴データ分析、農産物の流通・マーケティング、地域ブランド、買物困難者対策、地域流通、食を通じた地域活性化といった領域を中心に、理論と現場の両方の視点から研究活動・コンサルティングに従事。日本農業経営大学校 非常勤講師(マーケティング・営業戦略)。

 

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