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農業経営者必見! 熱中症対策が改正労働安全衛生規則で強化、現場に求められる対応は?

農業経営者にとって、熱中症対策は単なる安全管理を超えた経営課題となっている。2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、事業者に熱中症対策が義務化された。義務化された要件から緊急時の対応方法まで、農業現場で必要な熱中症対策を解説する。

<目次>
1.死亡や後遺症のリスクも深刻 事業者が対応すべきことは?
2.現場における対応
体制整備と周知
手順作成と周知
熱中症のおそれがある作業者に対する処置の例
3.段階別に見る熱中症のポイント
事前準備
作業中①
作業中②
応急処置

 

死亡や後遺症のリスクも深刻
事業者が対応すべきことは?

農林水産省の統計によると、令和5年の農作業死亡事故者数では熱中症による死亡者が37人に上り、全体の15.7%を占めた。この数字は年々増加傾向にあり、農業現場の深刻な課題となっている。消防庁の統計では、令和6年の夏季において、農業・漁業・水産業での作業中に熱中症によって救急搬送された人数は2322人と直近5年で最多を記録した。

熱中症の危険性は死亡リスクだけではない。症状が進行すると脳にダメージを与え、頭痛、めまい、倦怠感などの後遺症が長期間継続する可能性がある。予防や早期の処置が重要だ。

改正労働安全衛生規則では、労働者を雇用するすべての事業者に熱中症対策が義務化された。この背景には深刻なデータがある。熱中症死亡災害(令和2~5年)の100件を分析した結果、78件が「発見の遅れ」、41件が「異常時の対応の不備」によるもので、初期症状の放置や対応の遅れが重篤化の主因となっていることがわかった。

出典:厚生労働省 パンフレット「職場における熱中症対策の強化について

今回の改正では、熱中症の自覚症状がある作業者や熱中症のおそれがある作業者を発見した人がスムーズに報告できる体制の整備が義務化された。報告を受けるだけでなく、職場巡視バディ制の採用ウェアラブルデバイスの活用などが例に挙げられる。

また、熱中症の重篤化を防止するため、熱中症のおそれがある作業者を把握した際の措置や手順を定める必要がある。緊急連絡網や搬送先の連絡先を従業員に共有し、作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送などの実施手順を作成する。体制の整備、作成した手順書などは必ず関係者に周知しよう。

現場における対応

熱中症対策が義務化となるのは、「WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施」が見込まれる作業。農作業の多くがこの条件に該当する。

熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけ、その状況に応じて迅速かつ適切に対処することにより、熱中症の重篤化を防止するため、以下の「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務づけられる。

体制整備と周知

①「熱中症の自覚症状がある作業者」
②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」

が、その旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

手順作成と周知

①「作業からの離脱」
②「身体の冷却」
③「必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること」
④「事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地など」

など、熱中症の症状の悪化を防止するための措置に関する実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

熱中症のおそれがある作業者に対する処置の例

フロー1

フロー2


出典:厚生労働省 パンフレット「職場における熱中症対策の強化について

※あくまでも参考例であり、現場の実情にあった内容で作成すること

段階別に見る熱中症対策のポイント

効果的な熱中症予防は、作業の流れに沿って段階的に行うのがポイントだ。事前の準備から緊急時の対応まで、具体的な方法を確認していこう。

事前準備

暑さに慣れる身体づくり

夏の農作業を安全に実施するには、身体の準備が欠かせない。気温が高くなる前の時期から、ストレッチやウォーキング、入浴などで少しずつ暑さに慣れる活動を始めよう。作業直前に冷たい飲み物や冷やしたタオルで体温を低下させ、作業中の体温上昇を抑制するプレクーリングも対策の1つだ。

作業中①

こまめな休憩と水分・塩分補給

高温下での長時間作業を避け、こまめな休憩と水分・塩分補給をすることも重要だ。涼しい日陰で作業着を脱ぎ、体温を下げよう。水分補給は、のどの渇きを感じる前に行う。20分おきに毎回コップ1~2 杯以上を目安に、こまめに摂取しよう。塩分などの電解質と糖質を含んだアイスラリーや経口補水液がおすすめだ。

作業中②

熱中症対策アイテムを活用

今、農業現場で利用されている熱中症対策アイテムを紹介する。空調服(ファン付き作業着)は深部体温の上昇を抑制する効果が実証されている。濡らしたインナーを内側に着用するとより効果的だ。ネッククーラーも首回りを冷やすことで体感温度を下げることができる。スマートウォッチなどのウェアラブル端末には、体表温度とその熱の流れから身体の状況を判断し、光・音・振動でアラートを発信できるものもある。作業中に装着することで、体の異常をより早く察知できる。

応急処置

「熱中症かな?」と思ったらすぐに対処を

正しい応急処置の知識の習得も必要だ。熱中症の代表的な症状は、汗をかかない、体が熱い、立ちくらみ、吐き気、頭痛、脱力感、判断力低下などがある。症状を感じたら、作業を中断し安全な場所へ移動、応急処置として涼しい環境で衣服をゆるめて体を急速冷却、水分・塩分を補給する。改善しなければ医療機関を受診する。軽度な症状でも急速に重症化する可能性があるため、少しでも異常を感じたら迅速な対処が必要だ。

≪CHECK!≫

熱中症警戒アラートを活用し、予防体制を構築しよう

コストをかけずに今日から始められる熱中症対策がある。熱中症警戒アラート(熱中症警戒情報)を活用して、作業スケジュールを調整しよう。
環境省のLINEアカウントに登録すると、前日17時と当日5時に環境省と気象庁から予報として熱中症警戒アラートが発表される。個人のスマートフォンに直接通知が届くため、見逃すリスクが少ない。
アラートが発表された日は、農作業の時間短縮や延期を検討し、作業する場合はより徹底した熱中症対策を講じることが重要だ。このようなツールを活用することで、「いつもと違う暑さ」を事前に把握し適切な判断ができる。
今回の規則改正を契機に、農作業中の熱中症対策を見直そう。現場の実情に合わせた予防方法や熱中症患者の対処フォローをつくることで、従業員の安全と生産性を両立できる。さっそく実践してみよう。


文/佐藤美紀

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