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「一人でも多くの人に農業で成功してほしい」 愛媛県4Hクラブ会長が失敗から得た財産とは

今回スポットを当てるのは、愛媛県4Hクラブの会長、長野洋平さん。松山市内にて地域最大規模となる農園「株式会社OCファーム 暖々の里」を営む、ビジネス感覚に長けた農家だ。農園を軌道に乗せるまでの苦労話、数々のエピソードから学んだ教訓をお話いただいた。

メイン画像:「愛媛県4Hクラブ」の会長・長野洋平さん

就農直後に経験した失敗が
今では“財産”に

愛媛県の中央部に位置する松山市は、瀬戸内海に面した街。長野洋平さんが拠点とする大浦(旧北条地区)は、市内でもっとも海に近いエリアの一つだ。海の影響を受けて温暖な気候が形成されており、冬場も霜が降りることがほとんどない。農業の好適地といえることから、みかんをはじめとする様々な青果物や米が栽培されている。
 


「株式会社OCファーム 暖々の里」で管理するキャベツ畑

 
洋平さんは、大浦市で兄の隆介さんとともに「株式会社OCファーム 暖々の里」という農業法人を営んでいる。同社が設立されたのは、2007年4月のこと。行政からの勧めのもと隆介さんが立ち上げ、その1年後に洋平さんが取締役として加わったという。同社に加わった当時の洋平さんは、学校を卒業したばかりの23歳の青年。また、隆介さんも26歳という若さだった。血気盛んな青年二人による農業経営は、どのような展開をみせたのだろう。
 
「結論からいうと、派手にコケましたね(笑)。会社を設立した当初から圃場の面積をどんどん拡大し、それに合わせてスタッフも農機も増やしていきました。圃場を拡大すればするほど、周囲の人々に『すごいね』、『よくやっているね』と褒められ有頂天になってしまったこともあり、経営状況をしっかりと把握できていなかったんです。リターンをあまり考慮せずに投資を続けた結果、赤字がどんどん膨らんでいきました。そして会社を設立してから2年ほど経つ頃には、経営、家計ともに“火の車”に。融資を受けている銀行から『すぐに事業撤退すべきだ』と勧告されるほど、ひどい状態でした」
 
これをきっかけに、危機感にかられた隆介さんが経営の勉強を開始。経営計画書の作成などをとおし、会社の基盤づくりに注力したという。こうした努力が実り、やがてスーパーとの長期取引、学校給食への供給など、圃場の面積に見合った大規模な契約を結べるように。そして経営再建をはじめてからおよそ3年が経過した頃、業績が改善され、黒字転換にもみごと成功したという。
 
就農した矢先に降りかかった大きな試練。一連の出来事は、洋平さんにどのような影響を与えたのだろう。 
 
「会社が窮地に陥るまでは、型どおりの営業や農作業など、必要最低限の仕事しかしていませんでした。でも大きな挫折と苦労を味わったのをきっかけに、仕事への心構えが変わりましたし、取引先と向き合う姿勢もより真摯なものになったと思います。ごく早い段階で失敗を経験したことが、今では“財産”となっています」
 


長野洋平さん(右)と、兄の隆介さん(左)


一人でも多くの人に
農業で成功してほしい

500名近くの若手農家が所属する「愛媛県4Hクラブ」。クラブの会長を務める洋平さんは、近年の地域内における動向について、こう話す。
 
「愛媛県は、農業に適した風土に恵まれている県です。また、圃場や住まいを比較的安価で借りることができます。こうした環境に惹かれ、IターンあるいはUターンして就農する人が、県内では多く見受けられるようになりました」
 
県内の新規就農者のなかには、柑橘類の農家を目指す人が多くいるそう。しかし、柑橘類の栽培期間は長く、木を植えてから収穫にいたるまでに5年ほどの年月がかかってしまう。必要に駆られて野菜の栽培を始めるも、研修で柑橘類の栽培方法しか学ばなかったために上手くいかず、困り果ててしまう農家も少なくないという。
 
「柑橘類の栽培は、新規就農者にとってハードルの高いものです。柑橘類の農家を目指す方へのサポートの仕方を、さまざまな方面から見直す必要があるのでは、と思っています」
 
こうした意見が飛び出すのは、新規就農者が地元に根づくことを願っているから。また、「一人でも多くの人に農業で成功してほしい」とも話す。最後に、就農を志す人へのメッセージをいただいた。
 
「農業には大きな可能性がありますが、中途半端な気持ちで参入すると、痛い目に合うはずです。ぜひ、『誰よりも成功したい』という思いのもと、農業に向き合って欲しいですね。また、現状維持に尽力するのではなく、新しい試みや事業にも積極的にチャレンジしてほしいと思います」



PROFILE

長野洋平さん

1985年愛媛県生まれ。大学と農業系の専門学校を卒業後、2008年に「株式会社OCファーム 暖々の里」の取締役に就任。以降、おもに現場管理を担当する。2019年より「愛媛県4Hクラブ」の会長を務める。

※記事中の役職等は取材時のものです。

 

DATA

4Hクラブ(農業青年クラブ)


文:緒方佳子

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