若手リーダーに聞く! コロナ禍でのネット活用方法・今後の農家の在り方とは
2021/03/24
【インタビュー後編】人々の生活を大きく揺るがした新型コロナウイルス。若手リーダー3名が「新型コロナ」「ネット」をキーワードに、コロナ禍におけるネットの活用方法やコロナとの付き合い方、今後の農家の在り方について語り合った。
▶︎インタビュー前編『若手リーダーに聞く! withコロナ・ネットの影響で日本の農業はこれからどうなる?』はコチラ
対談メンバー
・JA全青協会長 田中圭介さん
・農林水産省 渡辺一行さん
・4Hクラブ会長 首藤元嘉さん
コロナ禍でネットの力を
どう生かす?
渡辺 ネットは商品の売買だけでなく、情報発信やコミュニケーションのツールとしても使うことができます。コロナ禍におけるネットの活用方法について、ぜひお聞かせください。
田中 JA青年部では、生産物を販売する仕掛けとしてSNSを用いる動きが広がっています。例えば、福岡県糸島市のJA青年部では、SNSの力を借りることで「ちかっぱ糸島ドライブスルー」というイベントを成功させました。
「ちかっぱ糸島」は毎年恒例の収穫祭なのですが、新型コロナの影響を考えると人がたくさん集まる状況は避けるべきなので、2020年はドライブスルー式で地元の野菜セットを販売したんです。事前に周知し予約も獲得できた点は、大きなメリットになりました。
渡辺 確かに、販売を促進するうえでSNSは優秀なツールになりえますね。農水省でもSNSを使った情報発信に力を入れており、なかでもSNS発信プロジェクト「BUZZ MAFF(ばずまふ)」は、好評をいただいています。当プロジェクトは、農水省と国民の皆さんの間にある距離感をなくすことを目的とした、多様な情報を発信するプロジェクトです。
田中 イチ視聴者として、「BUZZ MAFF」の動画は面白いと思います。仲間内でも“あれは反則だろう”という声が挙がっています(笑)。
JA全青協でもJA全中広報部と連携して、全国にあるブロックのなかで選ばれた生産者に、「農Tuber」として農業現場の様子を発信してもらう取り組みを行っています。同じ農家であっても、生産品目が違うと作業内容などが異なるため、他の生産現場の様子は新鮮に映りますね。
他にも、これまで各青年部においてPR動画を作成する活動をしてきました。来年度から、より切磋琢磨していい作品を作ろうという想いからコンテスト化し、「JA全国青年大会」で優秀なPR動画を作成した組織を表彰する予定です。
また、ネット上での勉強会も開催するようになりました。毎月第3月曜日、外部から招いた講師のレクチャーのもと、JA全青協の有志が専門的な内容を学んでいます。
首藤 4Hクラブでも、ネット上での勉強会やセミナーが開催される機会が増えてきました。従来のクラブ活動は、交流や飲みニケーションが大半を占めていたのですが、新型コロナの流行により顔を合わせる機会が減ったため、代わりにネット上で学び合う風潮が強くなってきましたね。
毎月末に開催している研修会では、とくに輝いているクラブ員に登壇してもらい、自らの経営について語ってもらっています。全体的に交流の質が変わり、農業経営者としてより高みを目指していく意思が高まっていると感じます。
渡辺 JA全青協、4Hクラブともに、ネットのメリットを生かしつつコミュニケーションの密度を上げているようですね。コロナ禍にありながら、切磋琢磨しながら経営の質を高めていることが分かります。
各団体で実施されているネットでの取り組み
JA全青協
農業の現場を面白く紹介する「農Tuber」が活躍する「アグリンch」が公開中だ。
4Hクラブ
毎月月末に「エヴァンジェリスト研修会@Zoom」を開催。クラブ員でない農家も、参加可能だ。詳細は「全国農業青年クラブ連絡協議会」の公式HPに記載されている。
農林水産省
「BUZZ MAFF」というプロジェクト名のもと、動画を1日1本のペースで公開中。農林水産省職員がそれぞれのスキルや個性を活かし、国内の農林水産物と農山漁村の魅力を紹介している。
コロナとどう
付き合っていく?
渡辺 新型コロナは、未だ収束が見えない状況です。今こそ「withコロナ」について考える必要があり、そのあたりの意見もうかがいたいと思います。
首藤 新型コロナウイルス自体よりも怖いのは、社会に蔓延する同調圧力です。足並みがそろわない人を見つけ出して攻撃するなどの“狂気”に対してしっかりと声を挙げながら、皆にとって理想的な社会を作っていくことが今必要だと思います。
田中 新型コロナの影響で行動に制限がかかるシーンが多くありますが、工夫しながら挑戦することで、JA全青協でも様々な活動が実現されています。
直面する課題を解決するためにトライアンドエラーを繰り返していく自助、個人で問題が解決しなければJAグループと共に解決策を考える共助、それでもダメだった場合は、公助として行政に対して声を挙げるという活動を、コロナに関わらず長年にわたって続けてきています。
コロナという厳しい状況にあっても、まずは自分達で何ができるかを考えて、活動をストップしないことが重要ではないかと思います。
今後、
農家はどうあるべき?
渡辺 この先、新たなウイルスの流行のほか、自然災害や人災が起こらないとは言い切れません。さらなる有事が発生した場合の対処方法については、継続的に考える必要があるでしょう。
首藤 新型コロナという致死率の低いウイルスが流行した結果、世間では大きな混乱が起きました。将来、より毒性の強いウイルスが流行った場合、あっという間に様々な社会システムが崩壊するのでは、という懸念があります。
もしも流通がストップし、地域に食料が入ってこなくなったとしても、家族や地域の人々の食料はまかないたいところです。有事の際も食料を自給できるよう、普段から手立てを打っておきたいですね。
田中 確かに地域における食料の自給率は、ぜひ意識したい部分ですね。地域における生産量を維持するうえで必要なのは、それぞれの地域にある個性を大切にすることです。
また、農家の形態は多様で、大規模経営を行っている農家だけでなく、家族経営を行っている農家、耕作に適さない場所でごく小規模な経営を行っている農家もいます。経営規模などに関わらずすべての農家が存続できるよう、平等に光を当てていくのが大切だと考えています。
渡辺 有事の際、「食」を生み出せる生産者の方々は、とても頼りになるでしょう。また、あらゆる状況が起こりうる点を考慮すると、多様な農家に経営を続けてもらうことが、もっともリスクを分散できる方法だと分かります。様々なリスクに備えるためにも、それぞれの農家を尊重し、サポートしていくのが重要です。
一方で東京のような、生産量と消費量の差がとてつもなく大きい地域もあり、そうした地域を有事の際に守る方法も、別プランとして必要です。
過去に震災や水害が発生した地方へ物資を送った例がありますが、大消費地で有事が起きた場合、より集中して物資を送る必要があるでしょう。従来の方法を応用した、「BCP(Business Continuity Plan)※」を維持し続ける必要があります。
田中 震災や水害といった自然災害は、すでに身近なものとなりつつありますね。私が暮らす久留米市の周辺では、近年はほぼ毎年、大雨被害に見舞われています。圃場が水没し、育てていた農作物が全滅するという被害が4年連続で起きています。
また、昨年は暖冬の影響で生産物の値崩れが起き、リーフレタスを大量に廃棄するという手痛い出来事もありました。気候変動が顕著になってきた結果、さまざまな悪影響がもたらされているのが現状です。
こうした状況を鑑みると、さらなる危機意識をもって自らのフィールドを見直すことが、今、農家たちに求められていると思います。
※BCPとは:企業が緊急事態に遭遇した場合に備えて取り決めておく事業継続計画のこと
SPEAKERS
JA全青協会長
田中圭介さん
福岡県久留米市にて、家族経営でサニー・リーフレタスや白菜などを生産している。2020年5月にJA全青協会長に就任。
農林水産省
渡辺一行さん
大臣官房政策課・国産農林水産物等販売促進チームの企画官。直近では「#元気いただきますプロジェクト」の企画などを担当。
4Hクラブ会長
首藤元嘉さん
愛媛県西条市を拠点とする「株式会社 維里(土と暮らす)」の代表として、有機米などを手がける。2019年7月に4Hクラブ会長に就任。
文:緒方佳子
絵:堀千里
※当記事に掲載されている原稿は、「AGRI EXPO ONLINE」で公開されている三者の対談内容を編集・加筆したものです
AGRI JOURNAL vol.18(2021年冬号)より転載