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生産者の取組み

自社の魅力はどうすれば伝わるのか? ブランディングを始めるときの農家の心得

独自の視点とノウハウで、農業にまつわるデザインやブランディングを手掛けるコトリコの江藤梢さん。徹底的なヒアリングと二人三脚のブランディングが好評だ。農業ブランディングのヒントについて話をうかがった。

ロゴをつくること
=ブランディングではない

農家さんが、ご自身の一番輝く部分をきちんと社会に認めてもらったり、評価されたりするようなお手伝いができたなと思えたときは、この仕事にとてもやりがいを感じますね」。

こう語るのは、株式会社コトリコの江藤梢さん。グラフィックデザイナーとして活躍していた江藤さんは、食を入口に農業に関心を持ち、一時は農家を目指したことも。その後、ある農家のデザイン関わったことをきっかけに、農業に特化したデザイナーとして活動することを決めたという。そんな江藤さんが、多彩な依頼のなかでもっとも得意とするのが“ブランディング”だ。

トマト農家の『ファーム柳沢』のブランディング事例。IT技術を駆使して作る甘い完熟トマトの魅力を、販促物に落とし込んでいった。

高齢化や人材不足、耕作放棄地など様々な問題がある農業界において、問題を打開するためのひとつの救いになりうるのが“ブランディング”だと考えています。誤解している方も少なくないのですが、ロゴをつくること=ブランディングではありません。対象物をブランドとして確立させ、いつまでもファンの方々と共に成長し合う関係性を築くことはブランディングの目的です。

ブランディングやマーケティングの観点を持っていないと、たとえロゴだけ作ったとしても、望んだ効果が出ない、ということもあります。ご依頼いただいた農家さんには、まずブランディングの流れを理解していただくことも多いです」。

『ファーム柳沢』のロゴは、直線を活かしたスタイリッシュなデザイン。「宝石のような真っ赤なトマト」というキーワードから、ロゴもダイヤのような形に。

ブランディングとは、商品やサービスの本質的な価値について、生活者に共通のブランドイメージを認識させていくこと。つまり、ブランディングをするためには、商品を作っている生産者自身がどんなこだわりや思いを持ち、どんな特徴の商品を作り、どんな人に届けたいと考えているか……など、農家自身の詳細な棚卸しが必要になる。そのため江藤さんはブランディングの際、ワークシートを用いながら、徹底的なヒアリングを行っているという。


必要なのは、
徹底的な棚卸し

「ご自身のこと、これまでのことをじっくり振り返っていただき、価値を再構築し、ブランドを確立させるのが目的。そのため農園の特徴、歴史、課題などを徹底的にインタビューしてお聞きしていきます。

そして、ワークシートに沿って、現在、過去、未来や理想を可視化していきます。無口な方、PRが苦手な方も農家さんには少なくありませんが、世の中に同じ農家さんはいないので、価値や魅力、希少性など、他にはない特徴が必ずどこかにある。それをブランドの大きな軸として見立てて、テーマカラー、テーマ書体、テーマイメージなどコミュニケーションルールを決めていきます。

ブランディングの工程において、デザインは一番最後。ブランドとして確立させ、ずっと使い続けていけるためのプランを立て、販促物に活かしていくことを大事にしています」。

江藤さんが活用しているワークシートの1ページ。わかりやすく順序立てて、現在過去未来を可視化できるようなシートになっている。

ブランディングの初期目標は、「『○○といえば、○○』というように、ひとことで言えるような形」だという。自分の個性や良さは、意外と自分ではわからないもの。より客観的に本質を探り当てることができるのは、デザイナーというプロの技ならではといえるだろう。

「ブランディングとは、将来への投資活動の1つ。自分でやるのかプロに依頼するのか、どこまで深くやりたいのか、スタッフにも共有するのか……。時間の確保、お金の使い方、自分自身と向き合うこと、すべてに対して覚悟を明確にするということが、ブランディングに取り組むための第一歩かな、と思います。

プロに丸ごとブランディングを相談するのが理想かもしれませんが、たとえば、予算や時間がないというのなら、テーマカラーを決めることから始めてもいい。それだけでも外からの反応は変わってきます。覚悟を持ち、自分がすべきことを明確にすることで、道が開けてくるはずです」。


東京奥多摩町の『四季の家』ブランディング事例。地産の野菜を使った新商品の開発にあたり、商品名からパッケージの仕様、ホームページ制作まで、一括してブランディングを江藤さんが手掛けた。

農家の思いを汲み取り、並走してくれるデザイナーの存在は、農家にとって強力なサポーターそのものだ。江藤さんいわく、「私が主導権を握るというよりは、農家さんにハンドルを握ってもらって、その道案内を要所要所で私がさせていただき、その方が本当に求めているゴールに導くお手伝いをするというスタンス」だという。まずは気軽に相談してみることから、進むべきゴールへの道筋が見えてくるかもしれない。

教えてくれた人

江藤梢さん


東京にあるデザイン会社「株式会社コトリコ」代表。ブランドデザイナー、キャリアコンサルタント。地域・農業中心に、ブランディング、デザイン、研修セミナーなどを国内外で展開。東京NEOFARMERS! 広報担当。農水省「農福連携ブランドセミナー」(2020年度)主催。


文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

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