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福岡と愛知でも開発中! 生育データを活用したイチゴ栽培システム

前回記事で、栃木県がAIとIoTカメラを用いて「とちあいか」の出荷時期などをコントロールする新たなイチゴ栽培システムを開発していることをお伝えした。福岡県と愛知県でも同じように、生育データを活用したイチゴ栽培システムの開発に挑戦している。

福岡県のあまおう栽培支援システムは
普及員の指導ツールとしても使われる

福岡県が2017年から2019年にかけて行ったのが「IoTやAIを活用したイチゴ「あまおう」の栽培支援システム」(以下、「あまおう栽培支援システム」と呼ぶ)の開発1)。イチゴ生産量で栃木県に次ぐ第2位につけている福岡県でも生産者数の減少しており、また産地間での競争も激化している。そのためイチゴ生産者には、環境制御の導入と最適な栽培管理の実践、が求められている。

そこで開発されたのが福岡県の「あまおう栽培支援システム」だ。その目的が面白い。「最適な栽培管理を実践するには、生産者に栽培管理の改善を提示する仕組みが有効」と福岡県は考えた。「あまおう栽培支援システム」は、普及員がイチゴ生産者に指導するためのツールとなることが前提なのだ。

生育結果に対するコメント(左)とチャート例(右)(提供:福岡県農林業総合試験場)

具体的には、ハウス内環境データに加えて生育データも活用して総収量を予測。生育診断も行う。普及員はその結果に基づいて、イチゴ生産者に栽培管理の改善を提案する。システムはMicrosoft Excelで構築されており、福岡県農林業総合試験場が公開している研究報告には「環境モニタリングシステムに実装すると携帯端末で利用できる」とある。公開情報からは、生育データの取得にカメラに関する記載はない。ただし、環境データと生育データから診断して提案する部分にAIが使われているはずだ。

さらに福岡県は、この「あまおう栽培支援システム」をアップデートした。国際競争力強化技術開発プロジェクトとして令和3~5年度にかけて行われた「総収量予測と栽培指導が可能な栽培支援システムのイチゴ産地での実証と出荷予測が可能な営農支援モデルの開発」2)がそれだ。プロジェクトには、福岡県農林業総合試験場のほか、ソフトバンク、JA全農ふくれん、JAみづま、などが加わった。

このプロジェクトでは産地での実証=社会実装を視野に入れて、ソフトバンクが提供する「e-kakashi」3)が使われた。「e-kakashi」はハウス内環境を見える化できるうえ、収集したデータをAIブレーンが加工して「今なにをするべきか」を提案してくれるサービスだ。プロジェクトの目的は①イチゴ栽培支援システムの産地での実証と構築②出荷予測モデルの開発、の2点。

出荷予測モデルの予測精度を示す。予測収量の二乗平均平方根誤差は頂果房において28.3 g、第一次腋果房において26.3 g。予測 精度は十分に高いといえる。(提供:福岡県農林業総合試験場)

その結果、②の出荷予測モデルはWAGRIに「イチゴの出荷予測モデルAPI」として搭載された4)。「e-kakashi」を使うことで、果房ごとの1果目の開花日、果実重量などから収穫日や総出荷重量を予測できるようになった。これは大きな成果と言える。

もう一方の①イチゴ栽培支援システムの構築についても、ちょうど2024年3月7日、同じくWAGRIに「あまおう栽培支援システム」5)として搭載された。WAGRIのウェブサイトには「簡易な生育調査」と記載されているので、生育データの取得にはカメラは使われていないと思われる。
生育データの活用による出荷(収量)予測は多くの地域・作物で試みられているが、どれもまだ普及にまでは至っていない。今後の福岡県の普及活動に期待したい。



愛知県は「愛きらり」の生育データ分析に挑戦
スマート農業実証プロジェクトも進行中

(提供:愛知県)

イチゴ生産量で第4位につけている愛知県でも、生育データ分析に取り組んでいる。そのうちの一つが、愛知県独自のICT活用課題解決支援事業「AICHI X TECH(アイチ クロス テック)」に採択されて行われた実証実験「イチゴ新品種「愛きらり」の特性を、クラウドカメラ等で解明したい!」6)だ。

「愛きらり」は愛知県とJAあいち経済連が共同出願して2023年9月に登録されたばかりの新品種。果皮も果肉も赤くツヤがある、果実が大きく果形の揃いが良い、収穫期間を通じて糖度が安定して高く甘さがある、とされ、2024年秋からの本格販売が予定されている。

一方で、新品種を安定して出荷するには、品種特性に合わせた栽培管理が必要となる。そこで行われたのが上記の実証実験。実施主体は伊藤忠テクノソリューションズで、ソラコムが提供するクラウドカメラサービス「ソラカメ」を活用して生育分析を行った。愛知県内の6つの圃場に設置したカメラで株や葉の大きさ、果実の大きさ、色づき、数などの生育データを記録。さらに出荷実績、環境データと生育データを照合することで、収穫期間中の最適な栽培環境を導き出す、というもの。

(提供:愛知県)

この愛知県における取り組みも、「普及員(または指導員)が栽培管理を提案すること」で、県全体での高品質な「愛きらり」出荷を目指すことを目的としている。そのため実証により得られた成果として、「カメラ設置により2カ月に1回だった調査を、旅費や移動の負担なく高頻度で実施可能となった」ことがあげられている。
一方でサービス化に向けては「導入初年度はデータ収集、定量化・可視化の準備期間として設定し、翌年度以降での比較分析が効果的」とされている。

これとは別に愛知県は、令和5年度スタートのスマート農業実証プロジェクトとして「JA西三河いちご部会における生産から販売のデータ駆動一貫体系の実証」7)にも取り組んでいる。こちらの目標は①局所環境制御と高効率なヒートポンプによる燃油使用量25%削減、②選果機等によりパック詰め作業の労働時間を20%削減、③経営収益の5%改善、であるが、ここでもカメラを導入して出荷量予測に取り組んでいる。

生育データ活用による出荷量予測モデルの構築と普及は容易ではない。ただ、実現できれば有利販売に直結する。愛知県の取り組みも、今後も継続してウォッチして行きたい。

DATA

(1) IoTやAIを活用したイチゴ「あまおう」の栽培支援システム, 福岡県農林業総合試験場
(2)総収量予測と栽培指導が可能な栽培支援システムのイチゴ産地での実証と出荷予測が可能な営農支援モデルの開発, 農研機構
(3)e-kakashi, ソフトバンク
(4)イチゴの出荷予測モデルAPI, WAGRI
(5)あまおう栽培支援システム, WAGRI
(6)AICHI X TECH(アイチ クロス テック), イチゴ新品種「愛きらり」の特性を、クラウドカメラ等で解明したい!, 愛知県
(7)JA西三河いちご部会における生産から販売のデータ駆動一貫体系の実証, 農研機構



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