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生産者の取組み

『ユートピアアグリカルチャー』が挑戦する、 環境再生型・放牧酪農のお菓子作り

環境危機を前に、諸外国では牛が悪者扱いされることも……。そんな現状を受け目指したのは、リジェネラティブ農業の考えを取り入れた放牧酪農だった。お菓子の製造・販売を行うユートピアアグリカルチャーの挑戦とは?

あらゆる観点から優れている
放牧酪農の魅力

牛のげっぷに含まれるメタンガスなど、畜産業が地球温暖化の一因になっている――。気候変動をはじめとする環境問題への意識が高まる昨今、そうした認識が周知の物になりつつある。

諸外国では、政府の規制も進み、このまま行くと牛を飼えなくなるんじゃないかというほどの状況。牛が悪者になっていて、酪農家も減る一方です。人々も肉や乳製品を食べなくなり、培養肉や植物性代替肉の需要が高まっています。アメリカで目の当たりにしたのは、そんな現状でした。そうしたなか、牧場を始めて本当にいいのだろうかとはじめは悩んだのですが、あらゆる観点でみても持続可能な放牧なら、本当に価値があるものを作れるだろうという結論に至りました」。

そう語るのは、北海道にて、放牧による乳卵製品とお菓子の製造・販売を行う株式会社ユートピアアグリカルチャーの代表取締役・長沼真太郎さんだ。

株式会社ユートピアアグリカルチャーの代表取締役・長沼真太郎さん。放牧への挑戦の根底にあるのは、お菓子作りの探究心だという。

長沼さんは2013年に焼きたてチーズタルト専門店を展開する『BAKE』を創業。人気のスイーツブランドを続々と生み出し、約4年間で100店舗以上に拡大するなど成功を収めた。

その『BAKE』の株式を譲渡し、退任後、海外の最先端を勉強すべく、シリコンバレーに一年間滞在。帰国後、新たに立ち上げたのが、「22世紀に続く酪農とお菓子の環境作り」をミッションに掲げる同社だった。放牧酪農をブランドの軸に据えた理由は、「一番はお菓子の美味しさのため」だったという。

「お菓子屋として原材料にこだわりたいと考えた時に、最もよく使う牛乳やバターを作るために牧場運営を目指すことは自然の流れでした。放牧の牛乳は、とにかく味がいいのが特徴。青草を食べた牛の生乳は、ビタミン、カロチンが豊富で、風味が良くなります。牛乳の状態だとよくわからないが、加工するとそれが顕著になる。春には草の味、秋は濃厚な味わいになるなど、季節ごとの餌や環境の変化で乳質や味わいに違いが出るのもおもしろいんです」。

ほかにも、アニマルウェルフェアの観点から牛にとってよりよい環境であること、労働時間が短くなり働き手の負担が大幅に減ること、放牧乳は不飽和脂肪酸を多く含み健康的であることなど……。知れば知るほど、放牧酪農はメリットが多かった

そして、2018年の渡米中、現地で話題になっていたリジェネラティブ農業という新しい考えに出会ったことも、放牧酪農への思いを大きく後押ししたという。

放牧酪農を拡げる一環として、ユートピアアグリカルチャーでは、牛をGPSで管理するテクノロジーを開発するアグリテックにも投資している。今後、山地酪農に活用する計画も。




 

悪いのは牛ではなく育て方。
土壌の炭素吸収率を上げる酪農へ

「動物と共生しながら、地球を回復させる。サステナブルなだけでなく、リジェネラティブであることがこれからは主流になっていく。循環型の放牧酪農ならリジェネラティブ農業を目指すことができるのではないか、と。

広い敷地で牛を放牧すると、ふん尿が堆肥になります。肥料成分や有機物を含む堆肥は、牧草へ養分を与えるだけでなく、土壌に微生物を増やす力もある。そして、微生物がたくさん育てば、土壌中にメタンガスや二酸化炭素などの温室効果ガスを吸収し、隔離することが可能になります。土壌の再生という側面から見ると、悪いのは牛ではなく育て方だったんです」。

牧草を食べた牛が排泄したふん尿は、土と混じりあい、微生物を増やして土壌を豊かにする。

まさにいいことづくめの放牧酪農。その唯一のデメリットは乳量が落ちることだったが、自社で加工・製造・販売までを行うユートピアアグリカルチャーの生産規模なら、必要充分な量を確保できると判断。そうして、循環型の放牧酪農を目指し、2019年に牧場運営をスタートした。

現在は、北海道日高町にて約80頭の牛を飼い育て、完全放牧にむけ取り組んでいる。注目すべきは、放牧運営の標準化を目指し、北海道大学農学部との共同研究によってあらゆる項目を数値化しているという点だ。

放牧牧場として運営している「日高牧場」。広い敷地に約80頭の牛が放牧されている。

餌、牛、糞、土壌において、栄養素(窒素)がどのように循環しているのか。あるいは、牧場で発散される二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスが、地中にどれだけ吸収されているのか……。放牧の導入にハードルとなる運営ノウハウと乳質の安定に向け、産学連携の研究を進めているのだという。

リジェネラティブ農業を目指すうえで、まずは第一ステップとして単純に牛を放牧することで土壌の炭素吸収率がどれだけ上がるのかを数値化したいと考えています。そして、第2ステップとして、畜産と農業をかけ合わせていくことをやっていきたい。畑もやりたいですし、牧場に鶏など他の動物を入れることもチャレンジしたいと考えています」。

ユートピアアグリカルチャーが目指す循環の仕組み。平飼い卵の生産にも挑戦し、現在は約5000羽を飼育。お菓子製造で余ったスポンジ屑やクッキー屑も餌にし、さらに糞を肥料として牧場に撒く循環飼育を目指す。

 

大きな可能性を秘めた
山地酪農への挑戦

放牧酪農を軸にしたリジェネラティブ農業を実現するうえで、長沼さんが実際のフィールドとして大きな可能性を感じているのが、山林だという。

「日本の国土の7割が山ですが、今はあまり活用できていません。日本でもごく僅かに山地放牧の事例がありますが、単純に酪農でももっと活用するべきだと思います。機械が入れないような山でも牛なら入れますし、放置されている山林を活かすことで経済的合理性も生まれます。

また、手入れされずに放置された山は、鬱蒼として十分な太陽光が届かず、二酸化炭素の吸収能力を最大限に発揮できないと聞きました。牛が森を歩き回ることで、腐葉土を蹴散らし、ふん尿によって表層土に栄養が行き渡る。牛を入れることで森が活性化され、ドラスティックに山が変わっていく可能性もあるんです」。

日高牧場の運営を行う工藤さん。労働者の負担が少ない放牧酪農の仕事は、ワークライフバランスに優れた職業だと話した。

目指すのは、放牧によって牛がのびのびと育ち、土壌が回復し、美味しいお菓子が生まれる循環の実現。そのビジョンを叶えていくうえで、今後、各地に仲間を増やしていくことも視野に入れているという。

「酪農で独立するには、非常にお金がかかります。放牧なら安く経営できるとはいえ、それでも1~2億という初期投資は必要です。そのため、独立したくてもできない人は、たくさんいるはず。

そのため、ニュージーランドでは一般的な牧場経営制度である『シェアミルカー制度』を採用したいと考えています。我々が土地の購入と設備投資をし、実際に運営する方にはリスクを抑えながら経験を生かしてもらう、というものです。理想の放牧を仲間と共に拡げていけたら」。

リジェネラティブな未来に向けた、ユートピアアグリカルチャーの挑戦はまだ始まったばかり。今後の展開に引き続き注目したい。

ユートピアアグリカルチャーから生まれた初のスイーツ「チーズワンダー」。オンライン限定販売ながら、好評を博している。

 

DATA

株式会社ユートピアアグリカルチャー
北海道沙流郡日高町字豊郷916-6


文/曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

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