足利トマト農家が一丸となり作った地域ブランド、 背景に赤熟もぎりの『王様トマト』。
2022/07/13
樹で赤く熟させる「赤熟もぎり」ができ、流通性にも優れた『王様トマト』。JA足利ではいち早く『王様トマト』の栽培に着手し、地域ブランド化に成功している。市場も高く評価するその魅力とは?
『王様トマト』の栽培に特化し
地域ブランド化に成功した足利市
冬期の晴天が多く日射量が豊富なエリアとして、古くからビニールハウスによる施設園芸が盛んな栃木県足利市。中でもトマト栽培は50年以上の歴史を誇る全国有数の特産地になり、JA足利トマト部では昨年の出荷量約3,500tと目覚ましい実績を上げている。
「あしかが美人」のトマトを出荷調整するJA足利野菜集荷センター。取材当日も数々の農家から赤いトマトがずらりと納品されていた。
同産地の主力品種となるのが、大玉トマトの『麗容』。サカタのタネが開発した赤熟収穫できる『王様トマト』の代表品種だ。
「以前栽培していた品種は4月以降の出荷時に果肉硬度が低下するという問題点がありました。その点、『王様トマト』の『麗容』は赤熟収穫・出荷が可能な上、果肉が硬く、品質劣化しにくいという品種特性が魅力でした。しかも、糖度と酸味のバランスがいいなど食味もよかった。そこで、平成14年に栽培品種を一気に『麗容』へと切り替え、部会全体の統一品種にしたんです」と、JA足利営農経済部の河内秀介さんはそう経緯を話す。
JA足利ではトマトやイチゴ、アスパラガスなど同地主要7品目を「あしかが美人」と命名してブランド野菜として展開している。トマト部が打ち出すのは、もちろん『麗容』。果形・食味とも優れていることから市場評価も高いという。
『アルスプラウト』を活用し
理想とするトマトの味を追求
「『王様トマト』に切り替えたことで、部会全体の収穫量が5%も増えたことも大きかったですね」。こう話すのは、同トマト部の生産者、井上農園の井上章さんだ。
「秀品率が高いので収量が確保できる。手を掛ければ、その期待に応えてくれるトマトなんですよ」。井上さんの農園では、環境制御システム『アルスプラウト』を導入し、理想とするトマトの味を追求しているという。
「DIYで必要な機能のみで構築でき、コストが抑えられると聞いて導入し、今は暖房機や遮光カーテン、灌水などの制御操作に活用しています。『アルスプラウト』は温度や湿度などの環境データも蓄積でき、そのデータを基に作物にとってベストな環境を保ち続けられる点も満足しています。」と、井上さんは笑顔を見せる。
「DIYできる」環境制御システムって?
→ 環境制御システム『アルスプラウト』!
圧倒的な低コストで導入できる環境制御システム。DIYで構築するから必要な機能だけを選び自分好みにカスタマイズできる。「モニタリング」「制御」「クラウド」の3機能を備えており、遠隔操作も可能。ハウス内環境を最適に保つことで、収量増と品質の向上にも役立つ。
●モニタリング・クラウド
ハウス内の温度や湿度といった環境情報や制御設定の情報を収集し、栽培環境の見える化を実現。また、スマホなどで遠隔地からでもハウス内の環境情報を把握でき、いつでもどこからでも制御設定などの確認・変更が可能。
●環境制御
DIYで構築するため、暖房機や灌水、カーテンといった必要な機能だけを選んで自分好みにカスタマイズできる。簡単な制御から思い通りの制御まで、幅広い環境制御設定が可能に。
『かれん』を主要品種に切り替え
食味と収量の向上を目指す
同JAでは、品質の向上を目指し、足利特有の土壌特性に適した肥料の開発を行うほか、さらに高品質のトマト栽培を実現するため、毎年試作を繰り返していると河内さんは話す。
「一昨年から品種が大きく変わり、新たに『王様トマト』の『かれん』の栽培をスタートさせました。『かれん』は黄化葉巻病対策として導入したものですが、秀品率が高く、果肉の硬さなど優れた点が多く、地域全体の品質も向上しています。
なかなか『麗容』に代わる品種ができなかったのですが、今後は『かれん』を主力品種にし、さらなる食味の向上や収量の増加を目指していきたいと思っています」。
『かれん』を産地全体で栽培する地域はまだ少ないことから、来期作は7割まで作付量を増やすことで、高品質なトマト産地の座を確立していきたいと河内さんと井上さんは胸を張る。
「ガブリと丸かじりすれば、トマトのうまみとコクが溢れ出すような力強い味わいのトマトを作っていきたい。『王様トマト』は発色のよさも魅力の美人なトマトですが、その見た目以上の風味を生産者の技術力で実現していきたいですね」。
取材したのは……
左:井上農園 井上章さん
右:JA足利 営農経済部 河内秀介さん
井上さんは高校・短大で農業を専攻後に渡米。施設園芸を学んだ後、就農。現在は89aの圃場で先進的なトマト栽培を行う。
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写真/松尾夏樹
取材・文/野上知子
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