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ロボット農機の進化で現場はどう変わる? 遠隔操作&監視の実証進む

多くの農業生産者が利用している農業機械の直進アシスト機能。2014年に始まった内閣府直轄の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期の「次世代農林水産業創造技術」で、プログラムディレクターを務めた北海道大学の野口伸教授に伺った。

農業機械のスマート化
開発の最新動向を聞く

2017年にクボタが有人監視下での無人自動運転作業と、作業者1人で無人機と有人機を使用した2台協調運転作業とが可能な「アグリロボトラクタ」を発売。その動きに各社が続き、魅力的な農業ロボットの商品化と多様化が同時進行した。野口教授によると現在は、さらなる効率化を目指して、ロボット農機の使い方に関する開発が進んでいるという。

「私達が主に取り組んでいるテーマは2つあります。1つ目は、遠隔操作・監視。自律走行だけではなく、離れた地点から複数台の農業機械を操作して作業を監視する、という高難度な実証に取り組んでいます。もう1つが、ロボット農機にアームを付ける、という挑戦です。こちらはトラクターや田植機、コンバインといった農業機械本体だけでなく、作業機を賢くしよう、という取り組みです」(野口教授)。

農業機械の
自動化レベル


何kmも離れた場所から遠隔操縦する様子。これが実現すると、圃場間移動や最初の外周作業のために人が現地にいなくて済むようになる。

ロボット農機は農水省が設置した「スマート農業の実現に向けた研究会」が設定した農業機械の安全性確保の自動化レベル(概要)で見ると、レベル2=使用者の監視下での無人状態での自律走行まで実現している。直進自動操舵機能を搭載したモデルは国内4メーカーから出揃い、さらにトラクターのみならず、田植機とコンバインにも搭載されるようになった。現在は次の目標であるレベル3「無人状態での完全自律走行」の実用化に向け、研究開発が進められている。

LEVEL1:達成
使用者が搭乗した状態での自動化(市販済)
● 使用者は農機に搭乗
● 直進走行部分などハンドル操作の一部等を自動化
● 自動化されていない部分の操作は、全て使用者が実施

LEVEL2:達成
使用者の監視下での無人状態での自律走行(市販済)
● ロボット農機は、無人で自律走行(ハンドル操作、発進・停止、作業機制御を自動化)
● 使用者は、ロボット農機を常時監視し、危険の判断、非常時の操作を実施
● 基本的に、居住地域から離れた農地など、第三者の侵入可能性が著しく低い環境等で使用

LEVEL3
無人状態での完全自律走行(研究段階)
● ロボット農機は、無人状態で、常時全ての操作を
● 基本的にロボット農機が周囲を監視して、非常時の停止操作を実施(使用者はモニター等で遠隔監視)



遠隔操作&監視の実現で
農業が飛躍的に効率化

遠隔操作・監視の実証が行われているのは北海道。2019年6月28日〜2024年6月30日までの5年間、北海道大学はNTTグループ、岩見沢市などと協力して、世界最先端のロボット技術と情報通信技術を活用して世界トップレベルのスマート農業を実現すべく、実証を行っている。

「複数圃場にある複数の機械の遠隔操作・監視を行う、その課題となっているのは、低遅延な無線伝送と高速大容量通信です。本学のロボット技術にNTTグループが持つネットワーク技術を融合しよう、という試みです。農業機械は市販のロボットトラクターを改造して使っています。安全性確保のための2Dライダーを、また車両前後にはフルHDカメラを搭載しており、映像はNTTのネットワーク技術(ローカル5G伝送)でFull-HD画像(地上分解能は2mm程度)を遅延300msで送ることができます。この映像を遠く離れた監視室のオペレーターが見ながら、農業機械を遠隔操作・監視しています」(野口教授)。


監視室では複数台が正常に作業していることを確認している。異常があれば遠隔操縦で対応する。

農業機械が動いているのは北大研究農場と岩見沢西谷内農場の2ヶ所。各農場で2台の遠隔監視用ロボットトラクターが作業している。監視室は岩見沢市に置かれているが、監視室から圃場の距離はそれぞれ37kmと7km。監視室の役割は「鉄道会社の指令室」をイメージすると良いだろう。常に1台の機械を追い掛けて操作するというより、不具合が発生しないか監視している、といった様子だ。

離れた場所での実用性を高めるため、ロボットトラクターには自律モードだけでなく、遠隔操作モードが搭載されている。例えば、畑の隅までの作業、公道走行による移動(安全性の確保)、不整形な小区画での作業などは、監視室で画面を見ながら遠隔操作が可能となっている。この遠隔操作はハンドル操作だけでなく、農作業に必要な作業機械の操作もリモートでできる。すなわち遠隔で作業できるトラクターである。

「1人のオペレーターが複数台の農業機械を遠く離れた場所から遠隔操作・監視する時代が、見えてきているのです。それが実現すると、圧倒的に効率化するだけでなく、例えば、作業請負サービスや農業機械のシェアリングといった新しいビジネスが生まれる可能性が出てきます。リモートで農業ができるとなると、遊休地や耕作放棄地を耕作できるようにもなります」(野口教授)。

リモート農業に関しては、野口教授らのグループは北海道浦臼町にロボット監視室を設置して、浦臼町のぶとう農園(鶴沼ワイナリー)、石川県のぶどう農園(能登ヴィンヤード)、高知県の柚子農園(土佐北川農園)という離れた場所にある3農園での遠隔操作・監視にも挑戦している。

そこで使われている作業車は、北海道大学が中心となって開発した電動車(EV)だ。そのモーター・バッテリーにはトヨタのハイブリッド自動車「アクア」のリユース品が使われているという。これは長らく野口教授が唱えていた「農作業に充分な性能を持つ適価な作業車がないと社会実装は難しい」という持論を具現化したもの。野口教授の社会実装に向けた強い意志を感じる点である。この作業車が遠隔操作・監視下で、下草刈りと可変施用による精密農薬散布、収穫物の運搬を担っている。


トヨタの乗用車『アクア』のモーター&バッテリーをリユースした果樹園用作業車(EV)。下草刈、散布、運搬と多用途で使える。社会実装を見据えて適価な作業車を目指している。

 

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