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【植物工場ビジネスの概要を徹底解説】おすすめの栽培品目は? ビジネス成功に重要なのは”適した育種”

植物工場ビジネスについて、基礎的な内容から最新動向まで幅広く解説する本企画。第4回は、JPFA 植物工場研究会の名誉会長の古在豊樹氏と同研究会理事長の林絵理氏に植物工場に適した栽培品目についてお話を聞いた。

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<目次>
1.おすすめの栽培品目は? 露地・ハウス栽培との差別化が有効
2.機能性成分を植物に持たせる
3.商品化や高付加価値化など 植物工場に適した育種を

 

おすすめの栽培品目は?
露地・ハウス栽培との差別化が有効

大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例調査(一般社団法人日本施設園芸協会) によれば、令和3年における太陽光型植物工場の栽培品目は76%がトマト類、レタス類や葉菜類が10%、その他が14%を占めている。

図 令和3年における太陽光型植物工場の栽培品目

一方、令和3年における人工光型植物工場の栽培品目は86%がレタス類、イチゴが5%、残りがレタス以外の葉菜類やハーブ、苗などが占める結果だ。

図 令和3年における人工光型植物工場の栽培品目

トマト類は草丈が高くなるため、人工光型植物工場においては効率的な生産ができず栽培品目として選ばれづらい。また、強い光を必要とする根菜類・果樹類・穀類などを育てるにはランニングコストが嵩みすぎるため、栽培品目として選ばれる例はほとんどない。草丈が低く垂直方向に積み上げた栽培棚で効率的に生産でき、低い光強度下でも生育する栽培品目が好まれている。今後は、どのような栽培品目を育てるのがおすすめなのだろうか。

「たとえば、わさびは大きくなってから収穫して、肥大した根茎をすりおろして食べますよね。大きくなった葉は捨てられてしまいます。ところが、小さいころの葉っぱがすごく美味しいのです。このような、今までは捨ててしまっていた部分に注目して、まったく別の商品として販売することで露地・ハウス栽培と差別化をして販売するのが良いでしょう」(古在氏)

機能性成分を
植物に持たせる

また、人工光型植物工場においては照射する光の波長や養液中の栄養素を変化させることで、植物中の成分を変化させることができる

たとえば、腎臓病患者用のカリウム含量を抑えたトマトやレタスや、抗アレルギー作用・抗アルツハイマー病効果をもつロスマリン酸の含有量の多いシソなどの生産が可能だ。
露地・ハウス栽培では天候や病害虫に影響を受け、生産量や含有成分が安定しないことも多いが、人工光型植物工場では一定の成分を含んだものを安定生産できるのだ。このような、機能性成分を含有した植物の生産は、露地・ハウス栽培との差別化として有効だと古在氏は語る。

さらに、機能性を持つ植物の一つである漢方の原料もおすすめだと言う。

「漢方の原料は輸入に頼っている状態で、国内での安定生産に需要があります。また、漢方では植物の根の部分を原料として使うことが多く、葉などの他の部分は捨ててしまっています。根だけでなく葉からも機能性成分を抽出できるように環境制御できれば、採算性は大きく変わってくるのです」

 



 

商品化や高付加価値化など
植物工場に適した育種を

植物工場ビジネスを成功させるためには、既存の品種を今までとは違う発想で商品化したり、高い付加価値をつけて販売したりするなど工夫が必要なことがわかった。しかし、そもそも、既存の品種を人工光型植物工場で育てることに限界があると古在氏は語る。

「現状、人工光型植物工場では、露地栽培・ハウス栽培用に作られた品種をそのまま使用しています。それらの品種は露地・ハウスでよく育つように育種(品種改良)されたものであり、人工光型植物工場でよく育つように作られていません。だから、無理やり環境を制御して品種に合わせなくてはいけなくなるのです。無理やり環境を合わせたところで、露地・ハウスで生産する効率・収量・品質に敵うわけがありません。植物工場ビジネスを成功させるためには、植物工場の環境に適した品種を育種しなくてはいけないのです。植物工場の性質を把握したうえで、植物工場に特化した作物を効率的に生産する必要があります

露地栽培・ハウス栽培に適した作物の育種をするにあたっては、一般的には7年から10年ほどの歳月が必要だとされている。
自然環境下においては、多くの作物は気温や湿度の影響を受け、1年に1度しかでは育てられない。そのため、育種に時間がかかるのだ。ところが、とくに人工光型植物工場においては、室温と湿度を制御できるため、1年に何度も同じ作物を育てることができる。
そのため、育種の効率化が図れるのだ。第3回で紹介したフェノタイピング技術と融合して、高速育種への取り組みも進んでいる。では、植物工場向けに、どのような品種を育種すれば良いのだろうか。

「露地・ハウス栽培の作物の場合は寒さに強く・害虫への耐性があるなど、天候を始めとした外部要因を考慮した育種が必要でした。ところが、人工光型植物工場ではそれらの外部要因に配慮する必要がありません。そのため、消費者の傾向や流行に合わせた育種をすべきだと考えます。たとえば、世界的な脱炭素社会の構築への取り組みを考慮して、従来の品種よりも省エネルギーで育てられるものが好まれるでしょう」(古在氏)

植物工場ビジネス成功のためには、今までとは違う発想で作物を育てること、植物に新たに機能性を持たせること、適した品種を育種する必要があることがわかった。栽培品目についても、まだまだ改善と改良の余地がある。次回は、植物工場業界の動向について引き続き古在氏と林氏にお話をいただく。
 



 


取材・文/巖朋江

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