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農産物物流の変革を 産業連携による農産物出荷・価格形成の新手法を考える―後編―

“サステナブルなJA”を目指して、幅広な視点からの解決すべき課題を中央大学教授の杉浦宣彦氏に聞く連載。前回に引き続き、農産物物流の現状、そしてJAと他産業との連携について具体例を紹介しながら考える。

メイン画像:丸全昭和運輸 江別倉庫の様子

前編の記事はコチラから

運送会社の現場を視察

過日、茨城県東海村の茨城港常陸那珂港区にある丸全昭和運輸株式会社の常陸那珂倉庫を訪問する機会をいただきました。ここは甘藷や大豆、またコメ(備蓄米もかなりありますが)の保管に利用されているところです。2,850坪の土地に9倉の定温庫があり、ちょうど伺ったときは、保管していた甘藷が出たばかりのころ。大豆やコメが貯蔵されていましたが、すでに農産物の保管場所として、多くの企業やJAからも引き合いがあるとのことでした。また最近は、すぐ横の土地を取得し、さらなる貯蔵施設の拡充も検討されているようです。


常陸那珂倉庫での甘藷の貯蔵状況

茨城港常陸那珂港区は、高速道路によって東京方面へのアクセスが便利です。また、北海道などへの船便が1日2便もあるため、逆に本州の農作物を北海道へ出荷する際もタイムリーに行えます。しかも、倉庫のあるひたちなか市、東海村の周辺地域は、関東を代表するコメやイモ、そのほかの野菜、果物の産地であり、それらをストックしておく場所としても農産物物流の戦略的拠点になりえます。この場所に数か月の貯蔵が可能な農産物倉庫があることは、単なる備蓄のための意味を超えるのです。

倉庫の中には、様々なJAからのコメや大豆が保管されています。単協レベルでは、取れすぎの場合などに保管がおぼつかないことによって大幅な価格下落が発生してしまうことがありますが、複数のJAでこのような民間運送会社の設備を利活用すれば、JA側の方でもタイムリーな出荷とそれに伴う価格形成のためのバーゲニングパワーを持てるきっかけになるのではと考えます。

また、前回にも書きましたが、丸全昭和運輸は、北海道の江別倉庫のエチレン貯蔵庫で、2018年から一部のお菓子メーカーと連携し、JAふらのなどで生産された、ポテトチップス用の馬鈴薯を保管しており、馬鈴薯が入らない時期は、他の葉物野菜の保管に活用できないかも検討されているようです。


農産物物流に新しい波を

従来から、農産物物流における運送手段は、各JAや全農、各県の経済連などが重要な問題として取り組んできた課題です。しかし、電子商取引の増加に伴う運送業者の急速な拡大が、かえって合理化の話へと結びつき、今後の物流手段の確保は深刻さを増すと予想されています

たとえば、JR貨物の北海道の玉ねぎ列車廃止の動きなどに代表される運送・物流コストと合理性の問題、また、数年後に到来するとされている2024年問題(ドライバーの人材不足や労働時間の制限によって発生するとされるさまざまな問題のこと。物流に従事するドライバーの収入減少や物流会社の利益減少につながるだけでなく、物流会社を利用する側の利用料金負担増にもつながると考えられている。)などが指摘されています。これでは、せっかく生産しても、消費地に持っていけないということになりかねません。

生産者側が価格をつくっていくために、また、消費者が欲しい時期に欲しい農作物をほしい形で(カット済である、一次加工することで保存期間が長くなっているなど)手にはいる仕組みを構築するためにも、保管倉庫ならびにそれに隣接した加工施設の存在が重要になってくるでしょう


農産物流通の効率化へ向けた
仕組みづくりを

そのうえで、それらの施設を運営している企業とのネットワーキング・連携関係と、各施設それぞれの状況を一目で確認できる仕組みが必要だと考えます。先ほど書いたように、合理化が進む運送業界では、すでにハブアンドスポークシステムが普及しています。これは、「ハブ」と呼ばれる拠点に一旦全ての荷物を集約し、拠点別に振り分けてから各拠点に向けて配送する仕組みのことです。

JR貨物の玉ねぎ列車の問題にしても同じです。産地近隣からの列車の仕立ては難しくとも、複数の産地JAでハブに該当する地点に運送業者と保存倉庫を持つ。そこである程度の期間保存したうえでタイムリーに鉄道や大型トラックで出荷することで「ごく短期間に大量に」ではなく、「年間を通じてないしは比較的長期間」な出荷を実現することができます。運送会社側にとってもより合理的な方法で大都市圏への運搬が可能になるかもしれません。

そのことが結果として、市場の価格の変動を見ながらの効率よい出荷を可能にするとも考えられます。さらに、ある程度ハブで集中的に管理すれば、オンライン上でどれだけのストックがあるかが分かるようになります。これはスーパーや仲買業者、食品加工業者にとっても貴重な情報となりうるはずです。

ウクライナ紛争に代表されるような世界情勢の不安定化が進行する中、海外からの食糧輸入も大きな影響を受けるはずで、どの程度の国消地産が可能か問われている時期だと思います。ただ生産を伸ばすだけでなく、国内の農産物流通の効率化へ向けた様々な試みも進めていくべきでしょう

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

杉浦宣彦


現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。

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