バイオスティミュラントの研究者に聞く! 「植物を元気にする」の裏にある効果は?
2022/02/02
バイオスティミュラントは非生物的ストレスを緩和して植物を元気にする新しい資材だ。そう聞いてもピンと来ない人が多いはず。そこで今回は、とあるバイオスティミュラント製品の開発に携わった研究者に解説していただいた。
バイオスティミュラントの効果は?
バイオスティミュラントとは、「植物の活力を高め、植物に本来備わっている力を利用することで、さまざまなストレスの影響を緩和させて健全な植物の生長をサポートする物質」のこと。植物が本来備えている免疫力を高める作用や生育を促進する作用を持つ資材だ。
2021年1月、バイオスティミュラント(以下、BS)を学術的に研究し、議論する場を設けることを目的として、『生物刺激制御研究会』が設立された。これまで本誌に登場していただいたバイオスティミュラント協議会は主にBS製品のメーカー企業で構成される団体だが、この『生物刺激制御研究会』はアカデミア=研究者が設立して、学術的・科学的な議論を行っている。
さて、農業生産者の関心事は「BSは本当に効くの?」「いつ散布するの?」といった実務面と、「どうして効くの?」という効果の裏付けだろう。生物刺激制御研究会の代表を務める岡山県農林水産総合センター 生物科学研究所の鳴坂義弘先生の研究の一部が、まさにその解になる。鳴坂先生に話を聞いた。
「高等植物は、温度・乾燥・塩害・病害虫といったさまざまなストレスに対応する防御応答機構を備えています。植物は移動してストレスから逃れることができませんから、その生育場所で生存するために獲得した機能です。この機能は常に働いているわけではなく、ストレスに晒されたとき、速やかに発揮されます。これは高等植物に特有の大変重要な機能ですが、防御機能を働かせるとそれにエネルギーを使ってしまい、生長を抑制してしまうのです。分かりやすく言えば、植物が使えるエネルギーが100あるとして、防御に50使ってしまったら、生長には50しか使えない。植物の生長とストレスに対する防御応答は、トレードオフ(二律背反)の関係にあるのです」。
高等植物はストレスに対する防御機構を備えている。それを機能させることで防御能力は高まるが、そのためにエネルギーが使われてしまい、生長は抑制されてしまう。
この原則を考慮すると、BSを与えることでストレス耐性が高まったとしても、生長の阻害が大きければ収量を減じてしまう、ということになる。ストレス耐性を高めつつ生長を阻害しないようにするのは、非常に難しいバランスだ。
「農業生産の現場で役に立つBSを生み出すには、植物のストレス耐性と生長のトレードオフの関係を打破する技術が必要だということがお分かりいただけたと思いますが、私が片倉コープアグリと共同開発したBS製品『ストロングリキッド』は、そのストレス耐性と生長とのバランスをとることに成功しました」。
バランスの良い
微量要素の組み合わせが
生長と防御の両方を助ける
ストロングリキッド(以下、ストリキ)は2021年に市販されたBS資材だ。マンガン・ホウ素・鉄・銅・亜鉛といった植物の生育に必要な微量要素とベタインや有機酸をバランス良く配合し、光合成・代謝・生長の効率を高める。環境ストレスや病気に負けない体づくりに役立ち、健全な作物の生長を助ける効果があるという。鳴坂先生が詳しく解説してくれた。
「植物の生育には、多量要素(窒素・リン酸・カリ)と中量要素(カルシウム・マグネシウム・硫黄)、『ストリキ』に配合されているような微量要素が必要です。この微量要素は一般的には肥料として販売されていますが、学術的には、それを葉面散布することでさまざまなストレスに対する防御力を高める効果があることが知られています。しかし、微量要素はその名前の通り、植物は微量しか必要としません。そのため、量や濃度などによっては葉の褐変や生育障害などの薬害を生じ、増収には結びつかない場合もあります。
『ストリキ』は複数の微量要素をバランス良く配合することで、防御力を高めつつ生育阻害を発生することがない、という極めて珍しい性質を獲得しています。さらに、塩害・温度ストレスなどの環境ストレスから植物を守る効果をもつベタインを加えており、実際に乾燥ストレス耐性が高まったことを確認しています。ですから簡単に言えば『ストリキ』は健康で強い作物を作ることができるのです。こう話すと私が一人で『ストリキ』を開発したようですが、実際は片倉コープアグリが私の処方を基本に、保管性やコストを考慮して、農業生産者さんが手に取り、使いやすい形に仕上げてくれました」。
片倉コープアグリで製品開発に携わった谷口伸治上席主任研究員によると、『ストリキ』は継続して散布することで、乾燥などさまざまなストレスに対する耐性の向上に加え、イチゴをはじめ、ナス・キュウリ・バレイショなど幅広い作物で収量増などの生育促進効果が認められているという。JAを通じて購入できるので、ご興味を持たれた方は最寄のJAにお問合せいただきたい。
植物に対する微量要素の働き
イチゴ炭疽病菌の感染行動
イチゴ苗(品種:女峰)に500倍に希釈したストリキ(0.1%界面活性剤添加)を葉面散布して3日後にイチゴ炭疽病菌を噴霧接種し、7日後の菌の感染行動を観察した。水処理では付着器から侵入菌糸の形成(感染)が認められたが、ストリキ処理区では付着器のみ、または葉上に菌糸のみ(付着器形成なし)が観察された。
イチゴ挿し苗の活着に対する効果
出典:農文協『最新農業技術 土壌施肥 vol.14』農山漁村文化協会(農文協)、2021年
イチゴ親苗(品種:おいCベリー)に1週間おきに500倍に希釈したストリキ(0.1%界面活性剤添加)を3回葉面散布した。採苗時には1000倍に希釈したストリキ(0.1%界面活性剤添加)にどぶ漬けして挿し苗した。挿し苗から1週間後の根の伸長を観察した。ストリキ処理区と対照区(無処理)の各50株を調べたところ、対照区は1枚でも葉のしおれがある株は28株、ストリキ処理区はしおれはなかった。
製品概要
『ストリキ』は微量要素複合肥料として販売されている。葉面散布することで微量要素を補い、さまざまなストレスに対して強い健康な生育を促してくれる。
1kg/ボトル
500~1000倍に希釈して葉面散布
お話を聞いた人
岡山県農林水産総合センター
生物科学研究所・岡山県立大学客員教授
鳴坂 義弘 先生(理学博士)
病害ストレスや環境ストレスに対する植物の応答機構の解明、環境に優しい病害防除法の開発、植物の生長と防御応答間のトレードオフの解明、それにバイオスティミュラントの開発などを行っている。
問い合わせ
文:川島礼二郎
AGRI JOURNAL vol.22(2022年冬号)より転載
Sponsored by 片倉コープアグリ株式会社