『みどりの食料システム法』のメリットは? 認定制度を分かりやすく解説!
2022/12/05
持続可能な食料システムを構築するために策定された『みどりの食料システム戦略』が発表されてから1年が経過し、いよいよ現場が動き始めた。農水省の担当者に『みどり戦略』の概要から、それに則った活動をすることで得られるメリットについて語っていただいた。
農業生産と環境配慮の両立
『みどり戦略』の目的とは
令和3年に農水省から『みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)』が発表された。「持続可能な食料システムを構築するために策定された」という。農林水産省大臣官房みどりの食料システム戦略グループ課長補佐の伊藤圭さんが教えてくれた。
「背景にあるのは様々な課題です。大規模自然災害や地球温暖化といった自然環境問題や、生産者が減少することで生産基盤の脆弱化や地域コミュニティの衰退が各地で問題となっています。一方でSDGsや環境を重視する国内外の動きは加速しています。これら諸課題にイノベーションで対応して、食料・農林水産業の生産力向上と持続可能性を両方高めよう、という意味です」。
ここで注意したいのは『みどり戦略』は環境一辺倒ではなく、農業生産そのものの持続性を確保することが念頭に置かれていること。極論でいえば、農業生産を辞めてしまえば農業に由来する環境負荷は減少するが、それは誰も求めるものではない。環境への負荷は低減させつつも環境と農業生産の現場を持続可能にする。そのためにイノベーションが求められている。
環境に配慮する
農業生産者を支援
『みどり戦略』では2050年までに以下の目標を挙げている。
■農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
■化学農薬使用量(リスク換算)50%低減
■化学肥料使用量30%低減
■有機農業の面積割合を25%(100万ha)に拡大
この長期目標を実現するために9月から『みどりの食料システム法』が開始された。同法で注目すべきは、食料システムについて、生産者のみならず、食品産業や機械・資材メーカー等の事業者、消費者、そして流通から販売・消費に至る食にかかわる全員=日本在住者全員が関与している、と表現していること。
これら関係者=日本在住者全員の連携や努力、果たすべき義務が記されている、そのうえで革新的な技術の開発、その新技術の活用を行うことで先に記載した目標をクリアしていく、と書かれている。これが『みどりの食料システム法』の基本理念だ。
この基本理念をもとにして、国や都道府県・市町村といった地方自治体が必要な施策を策定し、実施する責務を有する、と『みどりの食料システム法』では規定している。特に同法では、地方自治体が策定した『基本計画』に則って環境に配慮しながら生産に取り組む農業生産者と、そのために役立つ資材や機械のメーカーなどを、税制と金融面で支援する。これが具体的な支援策となる。
出典:農林水産省 大臣官房みどりの食料システム戦略グループ資料より、編集部作成
この『基本計画』は、農業生産者の計画を都道府県が認定する上で前提となるもの。10月末に滋賀県が全国に先駆けて公表し認定申請の受付を開始したが、今年度末までにおおむねの地方自治体の基本計画が策定される見込みという。そのため、農業生産者の認定が全国に本格的に始まるのは来年度からになる見通しだ。
環境負荷低減への取り組みで優遇
みどり戦略の計画認定とは?
続いて、伊藤さんが認定制度について教えてくれた。
「認定の仕組みは大きく2つ、
①農業生産者向けの計画認定(環境負荷低減事業活動実施計画)
②機械・資材メーカー等の事業者向けの計画認定(基盤確立事業実施計画)
があります。
まず②について、特に化学肥料・化学農薬の使用低減に寄与する資材の供給を行うとして国から認定された資材メーカー等は、設備投資を行う際に税制上の支援を受けられます。また、機械メーカーは、(後述する)都道府県知事の認定を受けた農業生産者が設備投資を行う場合の税制特例の対象機械とすることが可能です」。
以下は2022年11月1日、農水省が「みどりの食料システム法に基づく基盤確立事業実施計画の認定について」と題したリリースに掲載し、認定されたメーカーとその製品・サービス(みどり投資促進税制の対象機械)である。
・三菱マヒンドラ農機:再生紙マルチ田植機、ペースト施肥田植機
・オーレック:水田用除草機
・ルートレック・ネットワークス:自動潅水施設装置
・山本製作所:色彩選別機
・アイケイ商事:堆肥製造機械(固液分離機及び自動撹拌機)
・佐久浅間農業協同組合 全国農業協同組合連合会長野県本部 佐久市:ペレット堆肥の製造と広域的な流通
上記の認定は第1弾であり、11月30日には第2弾が発表された。今後も続々と発表していくというから、機械・資材メーカーの方は是非、この制度をご活用いただきたい。
「環境負荷の低減に取り組む農業生産者が使えるのは、(上述①の)環境負荷低減事業活動実施計画の認定です。先にお伝えした通り、地方自治体が策定した基本計画に沿って環境負荷低減に取り組む農業生産者が計画認定を申請して都道府県から認定されると、税制と融資の優遇を受けることができます」。
環境負荷低減に取り組むとは、具体的には、
■土づくり、化学肥料・化学農薬の使用低減の取組を一体的に行う事業活動
■温室効果ガスの排出の量の削減に資する事業活動
■別途、農林水産大臣が定める事業活動(環境中への窒素・リン等の流出を抑制する飼料の投与等・バイオ炭の農地への施用など)
などがあげられる。これから基盤確立事業実施計画が認定される企業が増えることで、税制特例が使える機械が増えるはず。適宜ご確認いただきたい。
具体的に、どのような税制・金融の優遇が受けられるのか、それと認定を受けて機械を購入する際の注意点を伊藤さんに教えていただいた。
「特に化学肥料・化学農薬の使用低減に取り組む農業生産者が計画認定制度に基づいて対象設備を新たに導入する場合、機械は32%、建物は16%の特別償却ができるようになります。例えば、約700万円の機械を購入したとすると、通常は毎年100万円を7年間で償却します(定額法の場合)。認定を受けた場合には、取得価格の32%をさらに特別に償却できるため、資金面で厳しい設備を導入した当年に700万円×32%の224万円分を上乗せできるのです。
このほか、日本政策金融公庫等の無利子融資で、資金繰りを支援しています。ご注意点は、対象の設備を購入するタイミングです。基本的に“都道府県から計画が認定された後に購入する”、とお考えください。詳しくは是非、最寄りの地方自治体や地方農政局等までにお問い合わせください」。
出典:農林水産省 大臣官房みどりの食料システム戦略グループ
最後に、今後の進め方について伺った。
「持続可能な食料システムの構築の肝は、データを活用し作業の省力化や資材の投入量を最適化させるスマート農業技術等のイノベーションを創出するとともに、消費者の理解浸透にあると考えています。一朝一夕に解決する課題ではありませんが、国としても、技術開発や環境負荷低減の取組の「見える化」などに着実に取り組んでまいります」。