『稼げる農家』をつくるために、JAがすべきこと
2021/06/04
アフターコロナの農業と将来のJAの在り方について、幅広な視点からの問題意識・解決すべき課題を中央大学教授の杉浦宣彦氏に聞く連載。緊急自体宣言下で視察した中に見た「頼られるJA」になるための課題とは?
農家からの支持率の高い
JAの特徴は?
農協改革を機に、また最近では、国民の食の安全性に対する関心度の高まりもあり、週刊誌などでも農業に関する記事が比較的コンスタントに見られるようになっています。
とりわけ、某経済週刊誌については、毎年のように農協特集を組み、農協の危険度ランキングなどを公表しています。記事内容やランキング結果に対して違和感がある部分はあるものの、様々なデータに基づいて独自の観点で出されたそれらのデータに関して、何か取り立ててケチや文句を言うつもりはありません。
逆に、トップの方にランクされているJAの名前を見ていると、確かに納得のラインナップという感じもしないわけでもありません。なぜならば、それらの地域を訪問した時を思い出すと、JAに対する組合員の方々からの支持が高いことを筆者も訪問時に感じたところが多いからです。
支持されている最大の理由は、特にトップランキングのクラスのJAは、コメの価格の維持に成功しているところが多いのが特徴なのではと推察できます。また上位クラスのJAはすべてコメに限らず、地元産出の農作物のほとんどを集荷できているJAであり、市場にJAから積極的に売り込むなどして、全体の出荷量を増やしています。
そして戦略的に大消費地である首都圏や関西圏でのシェアを握り、しっかり組合員の農家に儲けを渡せているところが多いように思います。企業との連携などにより組合員や地元住民の利便性を意識した経営を行っているところの支持が高いのも頷けます。
今年3月にJA愛知みなみやJAあいち海部などにもうかがいましたが、両JAともに市場の変化に対して敏感に職員が対応し、農家への助言・指導などを行っています。「将来的にどのような作物を作るのがよいのか」など、生産部会と協力しながら、組合員である農家の利益の維持やより稼げる仕組みを模索しているところで、一定の支持を地元農家である組合員の方々から得ている状況を垣間見るよい機会となりました。
農家が「稼げる」ために
JAがやるべきことは何か
上記のようなことは農業が盛んな地域だけでなく、都市・都市近郊型JAでも言えることのように思います。
上記のランキングを見ても、支持率が低いところは当然のことながら、営農事業よりも信用事業に力を入れているところが多いです。営農指導員がいても、栽培品種などについて多少のアドバイスしているものの、「どのような品種の農作物が消費者や近隣の飲食店などで支持されている(売れる)ものになっているかのマーケットリサーチ」や、「直売場以外の売り先とのつなぎ」まで行うような都市型JAは少ないように思います。
先日もある都市型JAの職員のご紹介で、大学のゼミの学生を連れて、トマト農家で収穫体験を兼ねたお手伝いをする機会がありました。
農家のこれからどうやって安定的な農園経営を行うにあたっての悩みに対して、JA側は栽培品種などの相談には乗っているものの、「売り先は(直売場というオプションを除くと)個別の農家の方が自分の足で見つけてくる」というような状況からまだ脱せれずにおり、課題解決の手段が提示には限界がある状況でした。
これでは、本体果たすべき組合員へのサービスが十分にできていないわけですから、JAの役割を果たせていないということになります。本来JAは、「JAに出せば稼げるし、栽培方法や品種についても市場のニーズなどを反映した適切なアドバイスを受けることができる」という、頼られる存在であるべきです。
農産物の売り先開発を含む、稼げる戦略を考えられる、またはノウハウを持つJAになれるように、各JAは職員による積極的なマーケットリサーチや販売方法に関するノウハウの蓄積を進めていくべきだと思います。
一部のJAではネットショップとの連携などを模索しているところもあるようですが、すでに農業関連のネットショップは乱立競争状況にあります。加えて、インターネットでの販売の場合、消費者側がホームページ等を見に行くインセンティブがないとなかなか商売の形として定着しません。
組合員の支持を受けられるかどうかは、他人任せでなく、JAやその職員がどれだけのネットワークと知恵の蓄積を持っているかに左右されます。とりわけ都市型JAについては、まさに消費市場の中、ないしは隣接した形でビジネスを展開しているだけに、本来なら有利に「稼げる農業」の情報を得てくることが可能なはずであり、営農事業についての思考の転換が望まれます。
PROFILE
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦
現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。