生産者の取組み

“顔が見える”営農を!兵庫県4Hクラブ会長が取り組む、酒米生産へのこだわりとは

「兵庫五国」という言葉があるほど、地域ごとに特色がある兵庫県。県内の4Hクラブに所属する農家は、バックグラウンドも手がける作物もさまざまだ。彼らを束ねるのが、姫路市内のコメ農家、吉田勝博さん。人とのつながりや多様性を重んじながら、農業やクラブの活動と向き合っている。

メイン画像:「兵庫県4Hクラブ」の会長・吉田勝博さん

多種多様な意見がもたらした、
理想のスタイル

はるか昔、兵庫県は摂津、播磨、但馬、丹波、淡路という5つの国々から成り立っていた。国ごとに環境が異なるうえ、独自の文化が形成されたことから、県内ではバラエティ豊かな名物、産物がつくられてきた。現在も各地域では、特色ある産物が生産されている。
 
「4Hクラブの会議の開催時、各地域の農家が集まりますが、彼らが手がけている生産物が本当にさまざまな点に驚かされますね。また、他県のクラブ員が研修のためやってくる場合、希望の見学内容を聞くようにしているのですが、必ずリクエストに応えられるほど多様な産地があります」と、兵庫県4Hクラブの会長・吉田勝博さんは所感を話す。
 


4Hクラブで実施されるイベントの一つに、「農業情報交流会」がある。

 
農家によってバックグラウンドも異なれば、日々向き合っている課題も違う。兵庫県4Hクラブは多彩な”個性”が集まる集団といえるが、吉田さんはそうした多様性を楽しみ、そして重視しているようだ。
 
「自分と異なるフィールドにいる農家の話を聞けるのは、とても貴重なことだと思います。でもなにより気に入っているのが、自分にはない価値観や考え方をもつ人が集まっている点ですね。未知の価値観や考え方は純粋に面白いですし、自分にも新たな気づきをもたらしてくれます。
 
僕自身、4Hクラブで多様な意見に触れるうち、自身の仕事や生産物に対するスタンスを確立することができました。結果、より満足のいく営農につながったと思います」
 
吉田さんが目指したスタイルは、“顔が見える生産、販売”。消費者の顔が見える、つまり直接つながることで、自身のモチベーションがアップするばかりか、経営も安定しやすくなるという。現在吉田さんは、手がけた生産物はすべて、地域に根づいたメーカーや地域住民に販売している。



独立就農後は、
思い描く農業を追求

吉田さんは大学卒業後、養鶏業を中心とした事業を営む企業に就職している。入社後所属したのは、吉田さんの就職と同時期に立ち上がった農業事業部だ。そこでおよそ10年間にわたり、現場の責任者として農業に携わってきたという。
 
「会社にとって農業は新規事業だったので、知識もほとんどない状態からのスタートでした。でも、一つずつ課題をクリアするごとに農作業はもちろん、経営や販売に関する知識やノウハウが身についたのは、大きな収穫だったと思います」と、吉田さんは振り返る。
 
およそ3年前に同社を退職し、現在は自身が管理する農場で、おもに酒米を栽培している吉田さん。独立就農を果たすきっかけとなったのは、後継者がいない地域農家の存在だ。
 
「“引退をひかえた認定農業者の方が、跡継ぎがおらず困っている”という話を人づてに聞いた時、すぐにピンときて。ぜひ自分に継がせてもらいたい、と打診しました。結果、身内ではない人に権利を譲渡する『第三者継承』というかたちで農場を引き継がせてもらうことができました。
 
『第三者継承』に関しては、うちの地域ではほとんど事例がないので、決断してくださったことにとても感謝しています」
 
独立後、もっとも栽培に力を入れてきたのは「兵庫夢錦」をはじめとする酒米だ。地元にある酒蔵「下村酒造」と契約を結び、定期的に酒米を卸しているという。また、「下村酒造」とは単なる“取引先”という関係を越え、独特な結びつきを築いている。
 
「米作りの繁忙期は夏と秋で、冬を迎えると時間に余裕がでてきます。冬場は空いた時間を利用して、『下村酒造』で酒造りを手伝っているんです。反対に、夏季と秋季は、『下村酒造』の杜氏に農作業を手伝ってもらっています。将来的にお互いの仕事をより補えるよう、調整を進めている段階です」
 
また、飲食店の関係者が日本酒を買い求めて「下村酒造」を訪れる場合、なるべく圃場を見てもらうようにしているという。
 
「圃場に来てもらうと、“田んぼの水がすごくきれいで、虫がたくさんいますね”、“こんなにいい環境なら、たしかにいいお米ができますね”といった会話が生まれます。“顔が見える”と、一発で伝わるストーリーがあるんです」
 
“顔が見える”をキーワードにした営農は、さらなる可能性につながりそうだ。
 


4Hクラブのメンバーとマルシェに参加



PROFILE

吉田勝博さん

1985年兵庫県生まれ。大学卒業後、養鶏関連の企業に就職。農業事業部の立ち上げなどに携わったのち、2017年に独立就農を果たす。自社農場で酒米などを栽培するほか、地酒「SAKE079」の開発に携わる。2019年に兵庫県4Hクラブの会長に就任。

※記事中の役職等は取材時のものです。

 

DATA

4Hクラブ(農業青年クラブ)


文:緒方佳子

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