生産物の認知度と信頼性を上げる! 香川県4Hクラブ会長が語る“ブランド化”の重要性
2020/08/05
“うどん県”なる愛称で親しまれている香川県は、国内でもっとも面積が小さい県でもある。青果物の大量生産は物理的に難しいため、県内の農家はさまざまな工夫をもって営農しているよう。香川県4Hクラブの会長をつとめる白井悠貴さんも、創意を感じさせる農家の一人だ。
メイン画像:「香川県4Hクラブ」の会長・白井悠貴さん
マイナス要素がかすむほどの
活躍ぶりをみせる若手農家も
台風をはじめとする自然災害が少なく、気候も温暖な香川県では、農業が盛んに行われている。地理上の大きな問題点として耕地面積が小さいことが挙げられるが、県内の農家は少々珍しい方法のもと、このデメリットのカバーに努めている。白井さんがこう説明してくれた。
「香川県の農家の多くは、年中畑を活用しています。稲刈りが終わるやいなや同じ圃場で野菜を栽培しはじめたり、半年の間に圃場を3回くらい回転させたりと、とにかく休耕期間をつくらない姿勢が目立ちます。1ヘクタールの土地に対し、3ヘクタール分くらいの作付けを行なっているイメージですね。圃場一つあたりの活用度が高いので、他県の農家さんにはよく驚かれます」
地域内ではおのずと、少量多品目を手がけるスタイルが一般的となる。各農家の作物が集まる集荷場には、ブロッコリーやレタスなど地域性の強い野菜をふくむ、多彩な品種が集まるのだとか。
なお、事業の多角化にふみきった農家が多数見受けられる点も、県内の農業界における特徴だ。香川県4Hクラブにも、工夫に富んだ事業を展開する農家が所属しているという。
「例えば、6次産業化にかなり力を入れているメンバーがいます。牛乳をジェラートやチーズに加工し、実店舗を構えて販売するなど、積極的にフィールドを拡大していますね。また、長年にわたり地域の文化継承に取り組んでいたメンバーが、地域内の企業と提携し、郷土料理のレストランをオープンさせた例もあります。
ほかには少々珍しいですが、物流に特化した事業を展開した例も。本業である生産・栽培を行いつつも、商社と提携して物流会社を設立し、地域農家の作物を流通させる事業をはじめたメンバーがいます」
耕地面積が少ないことは、営農するうえでのハンディだ。しかし、そんなマイナス要素がかすむほど、若手農家たちのアイディアが際立っている。
香川県西讃岐農業者クラブ定例会の様子
消費者の声から気づきを得て
生産物をブランド化
大学卒業後、アパレル企業などで働いたのち、親元で就農した白井さん。就農当時、実家の農園では野菜とぶどうの双方を手がけていたが、やがて白井さんがぶどう農園のみ受け継ぎ、生産拡大を進めたという。そして2015年には、ぶどうの生産・販売、ぶどう狩り体験の提供を行う「白井の実ファーム」を立ち上げている。
「白井の実ファーム」の圃場の様子
「白井の実ファーム」で生産しているのは、「白い葡萄(しらいぶどう)」の名で商標登録されているぶどう。具体的には、皮ごと食べられる「シャインマスカット」、ジューシーながら果肉が締まっている「藤稔」、そして「ブラックビート」、「ピオーネ」など。メインとなる4品種のぶどうは比較的認知度が高いが、これらのぶどうをブランド化し、「白い葡萄」の名前で売り出したのには、理由があるという。ブランド化にいたるまでの過程を、白井さんはこう話す。
「就農後、一般消費者の方々の意見を聞きたくて、直売所などで野菜やぶどうを販売していた時期がありました。そんななか、消費者の方から『どんな農園で野菜や果物を作っているの?』、『野菜とぶどうの両方を販売しているけど、どちらに特化した農園なの?』といった質問をいただくことが多々あって。
どこでどんなふうに作られたのか分からない野菜やぶどうに、ピンとこない人が一定数いる印象を受けました。やがて、”生産物の認知度と信頼性を上げるためにも、ブランド化をしよう”という考えにいたったんです」
ブランド化に先駆け、メインとなる栽培品目をぶどうにしぼり『白井の実ファーム』を立ち上げているが、これも農園や生産物の認知度を上げるための戦略の一つ。その後、アートディレクターによるディレクション、デザイナーやコピーライターによるホームページやロゴの作成、商標登録などを経て、ぶどうブランド「白い葡萄」が誕生した。
やがて「白い葡萄」を気に入るバイヤーが現れ、百貨店やセレクトショップなどで白井さんが手がけたぶどうが販売されるようになったという。ニーズとアイディアを軸に工夫をほどこすことで、理想の営農は叶うようだ。
PROFILE
白井悠貴さん
1984年香川県生まれ。アパレル企業などで勤務したのち、2014年に親元就農。2015年に「白井の実ファーム」を設立し、ぶどうブランド「白い葡萄(しらいぶどう)」を確立した。2018年より、香川県4Hクラブの会長をつとめている。趣味はキンボールスポーツ。
※記事中の情報は取材時のものです。
DATA
文:緒方佳子