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アニマルウェルフェアに配慮した循環型酪農へ。有機認証取得の鈴木牧場が目指すもの

2021年夏、生乳・牛肉・鶏卵という3項目の有機認証を取得した北海道・十勝の鈴木牧場。慣行農業から循環型農業へと転換し、アニマルウェルフェアに配慮した酪農に取り組む4代目・鈴木敏文さんに話をうかがった。

北海道・十勝エリアの広尾町に、ある「日本初」を達成した牧場がある。約120頭の牛とともに循環型農業を実践する『鈴木牧場』だ。この鈴木牧場では、2021年8月に、生乳・牛肉・鶏卵という3項目の有機認証を取得。ひとつの牧場がこれら3項目の有機認証を取得したのは、日本国内で初めてのことだ。

慣行農業から循環型農業への転換を果たし、有機認証取得達成まで果たしたのは、鈴木牧場の4代目・鈴木敏文さんによる奮闘の成果といえるだろう。転換への大きなきっかけになったのは、2008年と2010年に家畜伝染病のサルモネラが発生したことだったという。

「罪のない牛を淘汰してかわいそうな思いをさせたという思いがあったし、その後も病気に追われる毎日で、これから40年は続く酪農人生、こんな状況が続くのは嫌だと本気で思ったんです。かわいそうな思いをさせる牛が一頭でも少なくなるような酪農経営をしたい、と酪農の仕事に本腰が入った瞬間でした」。

そんな折、獣医師である妻・なつきさんの助言が、指針となったという。「牛を健康的に飼うためには、治療ではなく予防。予防が最大の治療だよ」。

獣医師の妻・なつきさんと二人三脚で牧場運営を行う。

目指したのは、そもそも、牛が病気にならないような飼い方。そのためにできることは何でも挑戦しようと、膨大な文献や資料を読み漁り、改善策を実践。同時に、農業改良普及センターの指導員に相談するなかで、3つの柱を立てたという。

1つは乾乳期の飼養管理の改善2つめは良質粗飼料の向上、そして3つめがカウコンフォート(牛舎内における牛の快適性)の向上だった。5年ほどかけて改善していった結果、乳量、繁殖成績などあらゆる効果を実感。その成果とノウハウをまとめて発表し、2015年には、全国青年農業者会議 畜産経営部門 最優秀賞(農林水産大臣賞)という栄誉ある賞も受賞した。しかし、そうした成功を手中に収めながらも、鈴木さんは追い求めている農業と何かが違う、と感じていたそうだ。

「人の健康に貢献する、健康な食べ物を生み出すこと」をモットーとする鈴木牧場。その4代目・鈴木敏文さん

「牛の目が疲れているというか、輝きがないというか、成績が上がっても自分が思い描く牛の健康とは何か違うな、と。乳量も38kgと多かったですが、身体を酷使しているせいか毛艶も良くなかった。近代酪農をお手本にしていると、エンドレスなんですよね。配合飼料もサプリメントもたくさん与えていたけれど、絆創膏のように、次から次へとひたすら穴を塞いでいる感じが嫌だなと思ったんです」。
 



 
そんななか、新たなヒントをもたらしてくれたのが、牧場周辺に生息する雄々しいエゾシカの姿だった。白銀の世界に覆われ、餌が枯渇する北海道の厳冬期。そんな過酷な環境でも野生のエゾシカは痩せ細ることもなく、精力に満ちあふれている。もちろん、サプリメントや配合飼料に頼る機会はない。そうした自然の姿にこそヒントがあるのではないか、鈴木さんはそう考えたのだ。

「自然のエゾシカの生態をそっくり牛に置き換えることは難しいけれど、本来の牛の姿である“草食動物”としての力を発揮させてあげられないかな、と。人間が管理しないと牛が日々生活できないというのも、よく考えたら変ですよね。それに、本来の姿を引き出してあげるほうが、きっと世話をする人間も楽だな、と思ったんです」。

土壌改良を重ね、無化学肥料・無農薬で育てた牧草。マメ科の植物が生えるようになり、土壌が年々豊かになっているという。

そうして新たに取り組んだのが、牧草地の土壌改善だった。化学肥料や農薬1年ごとに3分の1ずつ減らし、3年かけて使用ゼロを達成。化学肥料の代わりに、牛のふん尿を発酵して作った堆肥を牧草地で循環させ、有機栽培を実現した。すると、以前は配合飼料を好んで食べていた牛たちが、真っ先に牧草を食べるようになったという。実際に鈴木さんが試食してみても味の違いは明白で、従来の牧草は強いえぐみを感じるのに対し、有機栽培の牧草は甘みがあって美味なのだそうだ。

牛の糞尿が良質な堆肥になっていく。鈴木さんいわく、「堆肥は宝物」。

「有機栽培の牧草を与えると、毛艶が良くなり、目の輝きにも変化が見られ、実際に疫病も少なくなりました。配合飼料を減らす分、乳量は減りますが、化学肥料や農薬を使わず、余計な畑仕事もなくなるので経費削減に繋がり、利益率も変わらなかった。それに、精神的負担がなくなったことも大きかったですね。牛たちが健康だと、世話をする自分たちも安心して暮らせるんです」。

放牧を始めたことで、つなぎ飼いでは見られないような牛本来の行動も見られるようになったという。「生き生きと楽しそうにしている姿を見ると、嬉しくなります」と鈴木さん。



さらに、牛たちの健康を考えるうえで取り入れたことのひとつが、放牧だ。通年、牛舎につなぎ飼いしていた牛たちを、時間を決め、舎外放牧するようにしたのだ。今年中には、牛たちが自由に寝起きできるフリーバーンの牛舎を新しく建築し、従来のつなぎ飼いから転換する計画で、自由にのびのびと牧草地の牧草を食む放牧酪農にもさらに力を入れていくという。

自分の意思で行動を決められることが、動物にとって一番の幸せであり、尊重だと思います。牛の健康を第一に考えて飼っていますが、本当に行き着くところは幸せなんじゃないか、と。健康で幸せな牛からおいしい牛乳をわけてもらい、それをいただくことで人間の幸せや健康に繋がっていく。アニマルウェルフェアに配慮した循環型農業でこそ、それが実現できると考えているんです」。

鈴木牧場が目指す循環型農業。地域資源を活かしたサステナブルな牧場経営を志す。

SDGsへの関心が高まる昨今、そうして生産された“幸せな牛乳”を、「飲みたい」という消費者は増えつつある。そうしたニーズにも応える形で、鈴木牧場では、2022年秋に乳加工施設を新たに建築する計画だ。牧場の有機生乳を低温殺菌し、瓶詰めにしてオーガニック牛乳として販売する予定だという。

他にも、平飼いで育てた有機鶏卵、牧場生まれのオスの子牛を牧草だけで育てたオーガニックグラスフェッドビーフ、牛たちのミネラル補給に欠かせない地元の海水でつくった自家製塩など。循環型農業のなかで育まれるオリジナルのオーガニック商品が、続々と生まれ続けている(これらの商品は、オンラインストアにて一部販売中)。

「今後は、塩づくりの際に発する排熱と湯気を活用し、ビニールハウスで野菜の有機栽培も計画しています。自分にとって“オーガニック”とは、“命を繋いでいくもの”。健康な動物や植物の命を次の世代につなぐものが、オーガニックだと考えているんです。その恵みの中心にあるのが、牛であり、堆肥。その宝物を活かしながら、持続可能な農業、社会に貢献していきたいと考えています」。

牧場から海までは約2km。十勝の森の恵みにあふれる海水を煮詰めて作る、自家製塩「十勝の塩」。牛たちの良質なミネラル補給にも欠かせない。

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DATA

十勝広尾 鈴木牧場
北海道広尾郡広尾町紋別16線14-5


文/曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

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