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生産者の取組み

産官学連携で地域人材を育てる! 徳島でスタートした「施設園芸アカデミー」の受講生に聞く

徳島県では、誠和と県立農業大学校などが協力して座学・実習の講座を開設し、地域農業を支える人材を育成している。どのような教育が行われているのか、現場の声を中心に紹介していきたい。

産官学連携で
徳島県が研修をスタート

地域を支える人材を育てる産官学連携が行われているのは徳島県だ。施設園芸機器メーカーである誠和が徳島県阿波市に最先端の環境制御型施設『トマトパーク徳島』を建設することを契機に、徳島県、阿波市、徳島大学等7者により、「産官学連携による次世代型実証事業の実施に関する連携協定」を締結した。この協定に基づき、施設園芸の時代を担う人材育成を行うため、徳島県が2020年に開講した研修が『施設園芸アカデミー』である。

デルフィージャパンから専門家を招き、現場研修は受講生の栽培ハウスのほか、『トマトパーク徳島』で実施する実践的な内容。座学では植物生理や栽培管理、最新の環境制御の理論を学ぶことで、地域に根ざした人材育成が実現し始めている。

研修でも活用される
最先端の施設園芸拠点

誠和の『トマトパーク』と聞けば、一般的には『トマトパーク栃木』を思い浮かべるだろう。敷地面積 約18,000㎡の広大なスペースを活かした最先端の施設園芸を体感できるトマト栽培施設である。施設園芸における世界最先端の「試験・研究」、様々な情報を公開する「視察・見学」、そして次世代の農家を育てる「教育・研修」の3つを軸として運営されている。

本稿で登場する『トマトパーク徳島』は、端的に言えば、その西日本拠点の位置づけである。西日本でのトマトパーク設立は、西日本におけるトマトの高収量栽培技術の実証と研究開発に取り組むと共に、次世代の担い手育成に寄与したい、と考えていた誠和にとって、一つの悲願であった。

施設園芸アカデミーでは、トマトパーク徳島でも研修を実施する。

そんな『トマトパーク徳島』が栽培を開始したのは2020年のこと。栽培面積1 .1ha、間口8m、軒高5.5m、柱間4m、トラス構造のハウスである。農場長の猿山さんによると、栃木の『トマトパーク』は軒高6.0mだが、対候性とコスト面との兼ね合いで軒高5.5mにされているのだとか。

トマトパーク徳島 農場長 猿山さん

「短期的には収量50t/10a達成が『トマトパーク徳島』の目標ですが、将来的には安定した収量実績と、それに基づいた安定経営を目指しています。

ご存知の方も多いと思いますが、日本では業務用トマトはほとんどが輸入品です。これを日本産に変えていきたい、という想いがあるんですよ。それを実現するには、日本の施設園芸が飛躍的に進歩せねばなりません。ここトマトパーク徳島は、その進歩に寄与して、徳島の施設園芸発展にも貢献していきたいですね」(猿山さん)。
 

誠和では自治体との連携を進めています!
徳島県「施設園芸アカデミー」のように、その場所、その自治体に合わせた講習・研修内容をカスタマイズします。誠和のノウハウをあわせて、地域の農業経営者育成をサポートしませんか?
TEL:0285-44-1751


徳島の農業人材を育成する
施設園芸アカデミー

『施設園芸アカデミー』に話を進めよう。説明してくれたのは、徳島県農林水産総合技術支援センター高度技術支援課 課長補佐 三木敏史さんだ。

徳島県農林水産総合技術支援センター高度技術支援課 課長補佐 三木敏史さん

「農業生産者のニーズや技術レベルに合わせて、スマート園芸入門コースとスマート園芸実践コースとをご用意しています。入門コースは環境制御技術に関心がある生産者さんが対象です。データに基づいた栽培と管理の基礎を学ぶことができます。入門コースは、さらに総論クラスと各論クラスに分かれておりまして、前者は施設栽培における環境モニタリングや植物生理に基づき環境制御技術の基礎を、後者は特定の品目(令和3年度ではキュウリ)について学びます。入門コースは年3回講座が開催されます」。

まずは入門コースについて、聴講生の話を聞いてみよう。笹田尚史さんは、弟の貴弘さんとともに、令和3年度の入門コースの総論クラスを受講していた。キュウリ3.5反をメインに、サツマイモ、アボガドなどを生産している農業生産者だ。

施設園芸アカデミーの入門コースの令和3年度の受講生、笹田貴弘さん(左)、笹田尚史さん(右)

「2年前に脱サラして、両親の後を継ぎました。これまでは両親の経験に基づくやり方を学んできました。が、父と母は、とにかく休みなく、手間を惜しまず、という感じで……。もちろん両親のことは尊敬していますが、自分の代になった時にどうやって生き残っていこうか、と悩みました。そう考えれば、どうしても収量を上げたい、それに労働効率を上げて効率化したい。そのためにどうすれば良いのだろうかと、植物生理学の本を読むなどして、徐々に勉強を始めました。そんなとき、ちょうど『施設園芸アカデミー』の入門コースが開講されることを知って、思い切って弟とともに応募しました」(笹田さん)。

入門コースの座学の様子。データに基づいた栽培と管理の基礎を学べる。

「本を読んだだけでは理解できなかった部分も、講師の方が順を追って説明してくれるので、理解できるようになりました。もちろん、まだまだピンと来ない部分もありますが、環境制御の重要性や、環境制御の考え方が分かってきたので、今後さらに勉強を続けていけば収量増、効率化を実現できると感じています。素直に、講座に応募して良かった、と思います」(笹田さん)。

より深く農業経営が学べる
実践コース

『施設園芸アカデミー 実践コース』について、再び、徳島県農林水産総合技術支援センターの三木さんに説明していただこう。

すでに環境測定装置を導入している農業生産者さんを対象にしているのが実践コースです。座学と現地指導とを組み合わせることで、より深く、実践的に学ぶことができるんですよ。作期を通じて、その時々に必要な事柄を学ぶことが大切ですから、7月から翌年3月までに月1回、合計8回、講座を開催しています。実際のところ作期=農繁期ですから、聴講者さんにとっては大変だと思いますが、今注意すべきことやしなければならないことが分かるメリットは大きいと考えて、このスケジュールにしています。実践コースでは、自分のハウスが実習のフィールドとして使われることもあるんですよ」。

取材当日に実習フィールドになったのは、30年ほどトマトを栽培している原田稔さんのハウス。さらに収量を増やしたいと思い、初心にかえる気持ちになって夫婦で実践コースに申し込んだ。

ご自身のハウスで講師からアドバイスを受ける原田さん(写真左)

「ハウス内環境のデータの見方を学ぶことは、驚きの連続でした。これまでも植物の状態を見ながら環境を制御していたつもりでした、間違えている場合が多々あることが分かりました。単にハウス内環境を理想の状態にするだけでは上手くいかない。“植物の状態をデータを見ながら判断して管理する”ことの大切さを、座学と実習で学びました。今日は私のハウスがフィールドになったので、私が日頃行っている栽培管理の是非を専門家から教わることもできました。徐々に収量も増えて来ており大変満足しています」

実践コースの受講生の一人として原田さんのハウスを見学していた山下拓郎さんは、講師による説明やアドバイスを、とりわけ熱心に聞き入っていた。

「他の受講生のハウスを見学できる、というのは、本当に勉強になります。同じ地域でトマトを栽培しているのですから、受講生はライバルでもあるわけです。そんな方々のハウスが実際にどうやって運用されているのかを、専門家による解説やアドバイス付きで見ることができるんですからね」

令和3年度の実践コース受講生、山下拓郎さん

「この『施設園芸アカデミー』は、座学で学んだことと、実際に聴講生がハウスで行っていること、その両方をリンクさせて教えてくれるのが、優れているところです。専門家のアドバイスは、良く聞いていると、案外、栽培管理の基本であることが多い。環境制御というと、どうしてもデータばかり見てしまいがちですが、植物の状態を見る、ということが大切なのだと、あらためて感じます

実は、私を含めた今期の聴講生の数人は、この『施設園芸アカデミー』が始まる前から自費でデルフィージャパンのコンサルティングを受けていたんですよ。それが今では、県が主導して誠和が協力して、という形になったのですから、徳島の農業生産者にとっては絶好のチャンスなんです。私達、生産者が力をつけて、徳島をトマト産地として盛り上げていきたいですね」

専門家のアドバイスを熱心に聞き入る受講生。

聴講者の一人によると、徳島県は『施設園芸アカデミー』の聴講者を丁寧にフォローアップしているようだ。月に一度の講座で学んだことを、自分のハウスで実践できているのかを、時には聴講者のハウスを訪問して確認して、アドバイスもしてくれるのだという。

講習や講座にありがちな机上の学問に終わらせまいとする、徳島県の意気込みを感じる。誠和と徳島県、それに熱心な生産者による取り組みが実を結び、近い将来「施設園芸の徳島県」と呼ばれるようになる日が来るのではないだろうか。

令和4年度の「施設園芸アカデミー」受講生募集!

スマート園芸入門コース
●研修期間:令和4年7月~令和5年1月・3回
●受講料:1,500円
●募集人数:15名程度
●場所:阿波市役所会議室ほか
●応募資格:次の①の者で,②又は③を満たす者
 ①令和4年4月1日現在で満18歳以上の者
 ②徳島県内で就農又は就農を予定している者
 ③徳島県内の農業法人等の従業員等

スマート園芸実践コース <トマト>
●研修期間:令和3年7月~令和5年3月・8回
●受講料:4,000円(別途クラウド利用料月額3,000円が必要)
●募集人数:15名程度
●場所:受講生の栽培施設、阿波市役所会議室ほか
●応募資格:次の全てを満たすこと
 ①令和4年4月1日現在で満18歳以上の者
 ②徳島県内のトマト栽培者、または農業法人などの従業員
 ③環境測定機器を導入又は導入予定であること

スマート園芸実践コース <きゅうり>
●研修期間:令和4年7月~令和5年2月・4回
●受講料:2,000円
●募集人数:15名程度
●場所:受講生の栽培施設,南部総合県民局<阿南>会議室ほか
●応募資格:次の全てを満たすこと
 ①令和4年4月1日現在で満18歳以上の者
 ②徳島県内のきゅうり栽培者、又は農業法人などの従業員
 ②環境測定機器を導入又は導入予定であること


自治体連携についてのお問い合わせ

株式会社誠和 教育事業課
TEL:0285-44-1751


写真/松尾夏樹 取材・文/川島礼二郎

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