“農Tuber”が目指す! 農薬を使わない、付加価値のある米作り
2023/03/06
紙マルチ田植機の使用面積は
20年間で20倍になった
紙マルチ田植機で田植した田んぼ。有機栽培の最大の障壁となる雑草対策に有効な機械として取り入れる生産者は少なくない。
これほどに地域農業と地域そのものの持続可能性に危機感を抱く林さんだが、かつての林農産は「農薬まみれで、自身の健康すら損ねかねない状態だった」という。今でこそ林農産の収益の柱は紙マルチ田植機を活用した無農薬栽培米だが、先代の時代は来る日も来る日も、朝から晩まで農薬を撒き続けた。当時のJAは、面積あたりで農薬使用量を推定して置いて行く慣習があり、「それを使うのが当たり前だった」と林さんは振り返る。この過剰な農薬が林さん自身に効いてしまい、食欲不振に陥り、体調が優れない日々を過ごした。これを切っ掛けに農薬を使わない農法を模索し始めた。
「もちろん農薬を減らす、あるいは使わない、という栽培は簡単ではありません。土作りをしないと、すぐに病気が出てしまいます。ですから最初は土作りに力を入れました。次に問題になったのが除草剤でした。たった20aの草取りに3ヶ月掛かりっきり……もうお手上げでした。丁度そのタイミングで紙マルチのメーカーである三洋製紙からセールスメールが入ってきて、コンタクトしてみたのです。当時は紙マルチで高付加価値米を栽培する意味を誰も理解していませんでしたし、そもそも300万円もする高価な田植機ですから、社員には、また社長の道楽が始まったか……と白い眼で見られました(笑)。そこを『お試しだから』と説き伏せて実演機を借りて、20aで始めました」。
こうして当時は石川県では誰も使っていなかった紙マルチ田植機の実演機を借りることができた。この実演機の効果が絶大だった。そして翌年、新車の紙マルチ田植機を購入。今年は4.2haと、20年掛けて20倍にまで使用面積を拡大させてきた。
「農薬・除草剤を減らす、あるいは使わない栽培をするなら、今や紙マルチ田植機一択と断言できます。私もそこに辿り着くまでに色々と試行錯誤しましたが、他の方法は上手くいきませんでした。当社にとって紙マルチ田植機は救世主です」。
紙マルチ田植機の利用拡大は
米が売れることが後押し
林さんは「野々市は紙マルチ銀座です」と誇らしげに語る。
紙マルチ田植機の利用拡大を後押ししたのは、無農薬栽培米の強い商品力である。
「米価が下落しても直販の無農薬栽培米は確実に売れてくれます。JAの3倍・4倍の値段でも売れるんです。そもそも私が実演機を使い始めた2003年には、県内に紙マルチ田植機は1台しかなかった、と聞いています。当時はコシヒカリ中心でも米価が高かったから、高付加価値化を目指す必要もありませんでした。ところがコシヒカリ伝説が崩れて、一部の農業生産者は、コストダウンではなく高付加価値化に生き残りを賭けたのです。僕の紙マルチ田植機やYouTubeを見て、多くの人が続いてくれました。僕はオープンシェアだから聞かれたら何でも教えちゃう(笑)。この近所に5台は紙マルチ田植機が動いています。各法人さんが、それぞれ5~数10haで紙マルチ田植機を使っています。今では野々市は『石を投げたら紙マルチが破れる』というくらいの『紙マルチ銀座』なんです」。
ライバルが増えると商売上は大変なのではないか、と聞いてみると、それよりもメリットの方が大きい、と笑顔で教えてくれた。田植え作業中に紙マルチが足りなくなった際に融通し合うといった直接的なメリットがあるだけでなく、情報交換することで栽培技術も年々向上しており、野々市は高付加価値米の一大産地を形成しつつあるのだとか。
食育を通じて地域での米文化継承を行いつつ、紙マルチ田植機を利用した持続可能な高付加価値米作りを行う林さん。その夢はきっと叶う。200年後、300年後も野々市に豊かな田園風景が広がっているはずだ。そこには、今よりももっと多くの紙マルチが敷き詰められているに違いない。
みどりの食料システム戦略
投資促進税制の対象機械
紙マルチ田植機
発売開始から25周年を迎えた、三菱農業機械の『紙マルチ田植機』。田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで雑草を抑制する。農薬を極力使わない=安心安全な米作りをサポートする田植機である。国が推進する「みどりの食料システム戦略」において、環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進に貢献する機械として、投資促進税制の対象に選ばれている。
取材協力
株式会社林農産
代表取締役
林浩陽さん
8年前には、息子の夢太さん(写真左)が結婚を機に林農産に合流した。「それまで手を出せていなかったSNSを駆使して、更なる集客を実現してくれました」と林さんはご満悦だ。
<林農産WEBサイト>www.hayashisanchi.co.jp
問い合わせ
取材・文:川島礼二郎
AGRI JOURNAL vol.26(2023年冬号)より転載
Sponsored by 三菱マヒンドラ農機株式会社