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J-クレジット活用で持続可能な稲作経営を! いち早く取り組んだ中干し期間延長で感じたこと

環境負荷を下げながら副収入を得ることができる制度が、J-クレジットを活用した「中干し期間延長」である。今年から早くも「中干し期間延長」に取り組んでいる秋田県の水稲経営者を訪ねた。

4年前にリターン就農
このままではマズい!

日本有数の米どころ秋田県の南部に位置する横手市は、東は奥羽山脈、西は出羽丘陵に囲まれた横手盆地にある。横手盆地の中央から西部には、奥羽山脈系を水源とする雄物川が流れ、その流域の肥沃な土地には水田が広がる。盆地だから典型的な内陸性気候であり、暖候期は温暖。日照に恵まれ気温の寒暖差が大きい。おいしいお米を作ることができる条件に満ちた土地である。

そんな横手市で63haの水田を管理しているのが、農事組合法人みずほの代表理事を務める熊谷賢さん。半導体メーカー勤務から4年前に実家に戻り就農。現在は水稲を63haと枝豆を6ha、他にハウス栽培で椎茸を栽培しているが、主力はお米だ。

秋田が誇る「あきたこまち」を40haと「サキホコレ」を3ha、それに耐倒伏性が強い秋田県産地品種銘柄の「ちほみのり」を6ha、「ハイブリッドとうごう4号」を14ha栽培している。売り先はJAが6割、「ハイブリッドとうごう4号」はすべて豊田通商に出していてこれが3割、残りの1割は直売所や近隣のレストランやスーパー、ECであるという。そんな熊谷さんが大切にしているのは、本特集にピタリと合致する“持続可能な稲作経営”であるという。


「ハイブリッドとうごう4号」は豊田通商が提供する多収品種。「種籾は高価ですが収量はずば抜けて高い。ご覧のとおり穂が長いのが特徴です。味も良く、パックご飯や業務用米として使われています。豊田通商が買い取ってくれるから安心感もあります」(熊谷さん)。

「就農当初は、栽培に関しては素人同然でしたから、学ぶことばかりでした。一方で会社員の経験から、うちに限らずですが、稲作経営はこのままではマズいと感じました。それは“持続可能性が極めて低い”ということです。近隣を見渡しても、離農者が後を絶ちません。農地の集約化が進んでいて、私も可能な限り引き受けていますが、今のやり方のままでは限りがあります。一方で農家は、社会からの厳しい視線を意識せねばならない時代になっています。環境への負荷を下げる努力が求められています。残念ながら私が就農したとき、そうした機運がうちにもありませんでしたね」と、熊谷さんは苦笑いしながら語る。

農事組合法人みずほ 代表理事 熊谷賢さん

そこで熊谷さんは早速動き始めた。今年からドローン直播へのチャレンジを開始。春作業の労働集中を緩和し、苗作りや田植えに掛かる電気や化石燃料等を削減した。一方で、環境負荷の低減を目指して、市内のラーメン店「節屋かつら」から出汁ガラ(煮干し・鰹節の残渣)を引き取り椎茸菌床とともに熟成させて有機堆肥を生産、これを枝豆に施用している。来年からは、近隣市の食品会社「栄田フーズ」から豚骨・鳥骨残渣を引き取り、籾殻や竹炭と混ぜ合わせた有機肥料を作る他、浄化槽に溜まる汚泥を椎茸菌床とともに熟成させて、無機肥料の削減に役立てる計画である。



稲作経営と地球に優しい!
中干し期間延長に挑戦

そんな熊谷さんが2023年に新たに始めたのが「中干し期間延長」だ。「中干し期間延長」とは、水田から発生する温室効果ガスの一種(メタン)の排出を減らすことで地球環境負荷低減を目指す取り組みであり、J-クレジット制度を活用して「中干し期間延長」を行うことで副収入を得ることができる。(「中干し期間延長」の詳細はこちら!

「初めて聞いたとき、非常に良い制度だと思いましたね。『中干し期間延長』は温室効果ガス削減に効果があるから地球に優しい。その上で副収入が得られるわけですから、それは稲作経営の助けにもなる。当組合は、最初に声を掛けてくださったフェイガーさんのプロジェクトに参加する、プログラム型を選びました。プログラム型は手続きが極めて簡単ですし、生成されたクレジットの販売はプログラム主催者が行ってくれます。クレジット販売額から手数料は引かれますが、手間を考えれば納得できました」。

J-クレジット制度を活用した「中干し期間延長」には、熊谷さんのようにプロジェクトに参加する(プログラム型)か、自身単独でプロジェクトとして認証を受ける(通常型)かを選ぶことになるが、オススメはプログラム型。小~中規模の農業生産者であっても、比較的容易に参加できる。

「実際に行うことも、それほど多くの手間は必要としません。確実に中干し期間を延長すること、それを証明するために水位を測定すること、それと事前に過去2年間に実施した中干し期間を証明すること、くらいです」。


地域により多少の違いはあれど、稲作経営者なら必ず提出しているであろう栽培管理記録簿。J-クレジットを活用した『中干し期間延長』に取り組むには過去2年分が必須となる。

水位の測定とその証明には、熊谷さんはプログラムを主催するフェイガーが特別に提供してくれたという水位センサーを活用した。過去2年間に実施した中干し期間の証明に役立ったのは、なんとお父様の3年手帳である。熊谷さんのお父様は、過去2年+当年の出来事を記載できる3年手帳を、栽培管理メモにも活用しており、そこに確かに中干し期間が記述されていた。


熊谷さんのお父様の3年手帳。2021年と2022年の6月23日に「中干しに入る」と記載がある。これで過去2年分の中干し開始日が特定できた。なお、フェイガーによると、地域の平均的な中干し期間を参考として過去2年間分の中干し期間を証明することができる場合もあるという。

「中干し期間延長」による収量減については、事前にJAの指導員に相談したところ「問題ないはず」と説明を受けたという。実際、高温が続いた今年も、平年通りを維持できると熊谷さんは見込んでいる。


2023年の中干し期間の実施、記録、証明には、水位センサーを活用した。水位センサーを使っていなくても、物差し+写真で証明できる。

最後に、下世話な話ではあるが最も気になる、「中干し期間延長」による収入をうかがった。

「当社では、栽培管理方法が細かく決められている『サキホコレ』をのぞいて、すべての田んぼで『中干し期間延長』を行いますから60haになります。そして当社に入るのは、フェイガーの説明では195万円になります。1haあたり3万円以上とのことですので、当社にとっては無視できない金額です。社員に還元したり、より環境への負荷が低い栽培方法に向けて投資したりと、持続可能な水稲経営を実現するために、大切に使います」。

<まとめ>
J-クレジット活用で感じたこと(農事組合法人みずほ 熊谷さんの場合)

●うちの場合、60ha取り組むことで195万円の副収入が手に入る。これは経営者目線では、決して見過ごすことのできないメリットです。社員に還元したり、新たな投資に使うことができる。経営の持続可能性を高めてくれる制度ですね。

●地球環境に優しい取り組みに参加する、そのこと自体が大切です。これからの水稲経営は、自分だけは儲かりました、では通用しません。地域と地球の未来を見据えた栽培管理を行う。それが大切だと、改めて感じました。

●思いの他、手間が掛からなかった。確実に中干し延長を実施し、記録する。ほぼ、それだけです。私のようにプログラム型で参加すれば、わからないことはプログラム管理会社に相談できるから安心です。

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株式会社フェイガーが全国の水稲生産者の
カーボンクレジット活用をサポート


株式会社フェイガーは、農業生産者向けに、脱炭素に貢献する農法のカーボンクレジット化をサポートするサービスを実施。2023年9月には、フェイガーによる『中干し期間延長』プロジェクトがJ-クレジット制度で承認された。従来、煩雑かつ膨大な事務作業を要していた農家の「脱炭素の取り組みの記録」「認証機関に申請」「信頼性のあるカーボンクレジットとしての承認」「企業向けの販売及び金銭を得る」といった一連の流れを、最小限の手間で実現する。

取材に同行してくれたCOOの高井佑輔さんは北海道大学農学部を卒業後、東南アジアで計5年間、農業に携わっていた経験を持つ、いわゆる農業側の人。熊谷さんも「農業を知る高井さんだから信用できた」と太鼓判を押す。プロジェクトにご興味を持たれた方は是非、コンタクトしてみてほしい。

株式会社フェイガー 
TEL:080-6190-5626(農業担当者直通) 



取材協力

農事組合法人みずほ

秋田県横手市で、63haの水稲生産をメインに、枝豆の生産販売、椎茸のハウス栽培を行う。持続可能な稲作経営の実現に向けて試行錯誤を続けている。


取材・文:川島礼二郎
写真:伊藤靖史

AGRI JOURNAL vol.29(2023年秋号)より転載

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