緑肥を活用したカーボンファーミングは 土づくりと脱炭素を両立して「新たな武器」になる

近年、「カーボンファーミング」という言葉を耳にする機会が増えてきた。土壌や植物を通じて大気中の二酸化炭素を吸収・固定することで、農業そのものを気候変動対策に位置付けようとする取り組みだ。なかでも比較的取り組みやすく効果が見えやすい手法として注目されているのが「緑肥」である。

<目次>
1.カーボンファーミングとは?緑肥が担う“炭素貯留”という役割
2.緑肥のメリットとは?土づくりと脱炭素を同時に実現
3.水田での実証:5地域・各10ha規模 二酸化炭素固定と収量増を実現する
4.どんな緑肥があるのか?目的で選ぶイネ科とマメ科
5.効果を引き出す使い方 すき込みタイミングがカギ
6.費用対効果と今後の可能性 J-クレジット採用がカギを握る

 

カーボンファーミングとは?
緑肥が担う“炭素貯留”という役割

そもそも、カーボンファーミングとは、一体なんなんだろう。横文字が苦手な筆者は、考え込んでしまった。

教えてくれたのは、本分野の第一人者、Green Carbon株式会社事業企画本部ESG事業部 事業部長 広報室長の井家良輔さんだ。同社は本社を東京都千代田区に置き、北海道や新潟など農業が盛んな地域に拠点を配す。東南アジアを中心に約10カ国でも事業を展開して、大規模なカーボンクレジット創出プロジェクトを進めている。

Green Carbon株式会社事業企画本部ESG事業部 事業部長 広報室長の井家良輔さん

同社はカーボンクレジットのディベロッパーとして、創出から販売までを一気通貫で支援する。さらに、国内外の約50の大学等と連携し、植物や微生物の研究開発にも取り組んでいる。

「カーボンファーミングとは、大気中の二酸化炭素を土壌に取り込んで、農地の土壌の質を向上させ、同時に温室効果ガスの排出削減を目指す農法のことです。一般的には、土壌中の有機物を増やすことで炭素を貯留する営農手法全般を指します。緑肥のほかにも、不耕起栽培や有機物施用、被覆作物の導入など、カーボンファーミングには様々な手法がありますが、緑肥はそのなかでも『育てて、すき込む』という分かりやすさが特徴です」(井家さん)

1.有機物の生産・補給は、土づくりに役立つ 2.緑肥への養分の蓄積・補給が減肥に役立つとともに、有機物補給による有用生物の活性化も減肥に役立つ 3.有害生物の制御効果も期待できる *下層土の改善や有用生物の活性化、有害生物の制御は、堆肥よりも緑肥の効果が大きいことが多い(農研機構「緑肥利用マニュアル」より転載)

確かに緑肥は、カーボンファーミングと表現しなくても、既に使っている農業生産者も少なくないはず。緑肥は土づくりと化学肥料を減らす効果がある。かつての日本の水田では、収穫後の水田にレンゲが植えられていた。あれこそが緑肥だ。

「その通りです。現場への導入ハードルが比較的低い点も、緑肥がカーボンファーミングの手法として注目されている理由です。緑肥は昔からある技術ですが、今は緑肥が持つもう一つの機能が注目されているのです。土づくり資材としてだけでなく、炭素を貯める手段の一つとして評価され始めているのです。

例えば、緑肥としてソルゴーやクローバーを育ててすき込むと、土中の有機物が増えて、土が柔らかくなります。これは従来から知られている効果ですが、その過程で緑肥は大気中の二酸化炭素を土に取り込んでいる。そこに価値を見出そうというのが、カーボンファーミングの考え方なんです」(井家さん)

緑肥のメリットとは?
土づくりと脱炭素を同時に実現

緑肥のメリットは多岐にわたる。まず農業生産者の観点で外せないのが、土づくり効果だ。土壌の団粒構造化を促進して、土壌の物理性(保水性・排水性など)を高める。また、肥料成分(NPK)を供給すること、保肥力を高めること、も緑肥の効果としてあげられる。

もう一つ見逃すことができないのが、下層土に対する効果だ。緑肥の根が土壌深くまで張ることで、機械では難しい深さまで耕す深耕を、少ない労力で実施できる。さらに、雑草抑制や風食・水食から土壌を守る、といった効果も期待できる。

「一方、脱炭素の観点では、土壌炭素の増加という形で二酸化炭素を固定できる点が評価されます。後でお話ししますが、私達が行った実証試験では、緑肥導入区では土壌炭素量の増加が確認されており、単なる理論にとどまらず、実効性が確認できています。

実際に測ってみると、数年単位で炭素は増えていきます。ただし、1年で劇的に変わるものでは継続することが前提になります。逆に言えば、続ければ確実に土は良くなり、炭素も貯まる。その両方を同時に達成できるのが緑肥の強みです」(井家さん)

水田での実証:5地域・各10ha規模
二酸化炭素固定と収量増を実現する

2024年、同社は緑肥の専門家である茨城大学の小松崎将一教授、雪印種苗、農業生産者と協力して、新潟・千葉・愛知・岡山・熊本の5地域で実証を実施した。冬の水田休耕期間を活用して緑肥を導入。土壌をボーリング調査のように30cm程度を採取して、炭素量や成分を分析して、緑肥あり/なし(対象区)の比較試験を行った。

土壌を採取する小松崎教授

「炭素貯留量を分析したところ、緑肥区では炭素貯留量の増加が確認されました。緑肥あり区は、平均約10t/haの炭素貯留があり、対象区と比較して約5t/haを上乗せできていました。ただし、バイオ炭と異なり炭素は一部が大気へ戻るため、長期的な評価が必要です。

そのうえで、収量への影響も調査しました。愛知を除く4地域でデータを取得したところ、3地域で収量増加が確認できましたが、千葉では減収でした。この原因は解明せねばなりませんが、総じて増収傾向にある、と確認できました。要因としては、緑肥による窒素供給と土壌改良効果が貢献したと考えています」(井家さん)

どんな緑肥があるのか?
目的で選ぶイネ科とマメ科

ご存知の方にとっては今さらだろうが、緑肥として利用される作物についても、基礎から教えてもらおう。

イネ科ではソルゴーやエンバク、マメ科ではクローバーやヘアリーベッチなどが代表的で、それぞれ特性が異なります。例えばマメ科は窒素固定能力に優れ、施肥量の削減につながります。一方、イネ科は根量が多く、土壌物理性の改善に寄与しやすい。どれを選ぶかは、目的次第です。窒素を入れたいのか、土をほぐしたいのか。それによって適した種類は変わります。

農研機構「緑肥利用マニュアル」より転載

それと、地域の気候や作型も重要です。夏に入れるのか、冬に入れるのか、で選択肢は変わりますし、後作との兼ね合いも考えないといけません。この辺りは現場の農業生産者が詳しいと思います。」(井家さん)

緑肥の導入を検討する場合は、農研機構が無償でオンライン公開している「緑肥利用マニュアル」がオススメだ。緑肥の効果・使い方・種類と特徴などを把握できる。

効果を引き出す使い方
すき込みタイミングがカギ

井家さんは「使い方についてもポイントがあります」と教えてくれた。播種時期やすき込みのタイミングを誤ると、期待した効果が得られない場合があるのだ。一般的には、開花前後でのすき込みが推奨されることが多い。これは緑肥の分解性と炭素量のバランスが良いためだ。

「最適なタイミングより早くすき込むと、緑肥は早く分解されますが、土壌中の炭素量が十分に増えません。逆にすき込みのタイミングが遅すぎると、炭素貯留量は増えますが、分解が遅れてしまい、次作に悪影響を与えかねません。このバランスを取る必要があります」と説明してくれた。

費用対効果と今後の可能性
J-クレジット採用がカギを握る

気になるのは、費用対効果だ。緑肥の種子代と作業コスト、播種とすき込みに動かすトラクターの燃料費と人件費が発生する。一方で、土づくり効果は確実かつ長期的に効いてくる。さらに、肥料成分を供給できるから、肥料費の削減という形でも回収できる。

これまで緑肥の肥料効果が分かりにくかったが、今まさに農研機構が「緑肥の肥料効果の見える化」に取り組んでいる。遠くない将来、緑肥の生育具合を空撮して土壌の肥料成分を分析、それに応じて可変施肥する、という時代が来る。

もう一つ重要な点がある。同社は農水省等と連携して、緑肥利用を農業生産者の新たな収益源にしようとしている。カーボンクレジットとの連動が議論されており、J-クレジットの方法論として採用される、と期待されているのだ。

「農業生産者の方の間では、J-クレジットの方法論として、『バイオ炭』と『中干し期間延長』が知られていると思います。当社では、そこに緑肥利用が加わる可能性を模索しているのです。今は、それに向けてデータを積み上げている段階で、先に紹介した実証は、その一つです。これが認められれば、緑肥の価値は一気に変わります」(井家さん)

冒頭で、緑肥普及の課題は「やり方がわかりにくいこと」だ、と説明した。どの時期に、何を播くのか、いつすき込むのか……こうした農業生産現場で必要なノウハウが、十分には整理でていないのだ。

ところが、同社は「Agreen(アグリーン)」というプラットフォームを開発している。これはカーボンクレジットのシミュレーションから申請、販売までを一括で管理できるシステムであり、既存の方法論について、既に1,000人以上の農業生産者が利用している。

グリーンカーボンでは「Agreen(アグリーン)」に緑肥を組み込み、一気通貫のサポート実現も目指している。

「当社では将来的には、この『Agreen(アグリーン)』に、緑肥を組み込むことを検討しています。地域、作物、圃場条件などを入力すると、最適な緑肥や作業タイミング、期待される炭素貯留量や経済効果まで提示できる仕組みを目指しているのです」(井家さん)

これが実装されたら、農業生産者にとって心強いはず。緑肥導入への障壁が下がるだけでなく、新たな収入(クレジット販売収入)をシミュレーションできるようになる。井家さんからのアドバイスを、本稿のまとめとしたい。

「農業は生産活動ですが、そのうえで地球環境・地域環境の維持・保護に寄与する側面を持っています。緑肥利用をJ-クレジットの方法論に加えるとは、緑肥の効果を『見える化』して評価する仕組みを整える、ということ。それができれば、農業生産者さんにとって、緑肥の利用が新たな収入源になるのです。緑肥は素晴らしい技術ですから、まずは効果を知ることや、無理のない範囲で始めてみてほしいです」(井家さん)

DATA

取材協力・画像提供:グリーンカーボン 
参考:Agreen(アグリーン)
参考:農研機構, 緑肥利用マニュアル


取材・文/川島礼二郎

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