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「ローカル5G×スマートグラス×AR」で行う遠隔地からの農業支援は現実になるか?

遠隔地にいる熟練者に、圃場の視界をリアルタイムで共有して指導を受けられたら……。NTT東日本を中心としたグループが、担い手不足や技術継承といった課題解決を可能にする新たな農業技術の社会実装への動きを発表した。

ローカル5G×スマートグラス×AR
リアルタイムで遠隔農作業支援

農業生産者なら誰しも一度は「今この瞬間、ベテランに現状を見て欲しい!」と思ったことがあるはずだ。普及員・指導員に来て貰うには時間が掛かる。電話で説明するのは簡単ではないし、写真を撮って送るのは手間が掛かる。もし生産者が見ている視界を遠くにいる指導者と共有できたら、まるで指導員が横に居るかのようにスムーズにアドバイスを受けることができるはずだ。そんな夢のような遠隔指導が、東京を舞台に実現していた。

向かったのは調布市の NTT中央研修センタ内のNTTe-City Labo。ここでNTT東日本、東京都の政策連携団体である(公財)東京都農林水産振興財団、それにNTTアグリテクノロジーの三者が協力してハウスや映像設備などの環境を整備して、3年間にわたって実証試験を行ってきた。その最新の成果が2022年12月に報道機関に向けて発表された。

成果のなかで注目したのがローカル5Gとスマートグラス、それにスマートグラスAR技術とを組み合わせた遠隔農作業支援である。「NTTe-City Labo」に建てられたハウスでは、実際に農業未経験の60歳代の方が主担当者となり、パートタイマーの補助作業者2名とともにトマトを栽培していた。

主担当者がスマートグラスを装着すると、その見えている視界がリアルタイムで20km以上離れた場所にある東京都農林総合研究センターに飛ばされ、それを研究員が見ながら会話ができる。

提供:NTT東日本

またハウス上部には固定型4Kカメラが4台設置されており、これらは俯瞰的にハウス内を撮影していた。さらに、株の下部などの固定型カメラの死角部分を撮影できる走行型カメラも導入されていた。これらの高画質映像がすべて立川に飛ばされ、指導の参考にされる。取材時には、こんなやりとりが行われた。


作業担当者:株の下部の葉先が黄色くなってきて心配なのですが大丈夫でしょうか?
研究員:マグネシウム不足の症状ですね。ただ、液肥にはマグネシウム成分が含まれていますから、周辺の葉に黄変が拡大しなければ問題ありませんよ。
作業担当者:下部以外の葉は変わりありませんでした。安心しました。


この遠隔指導で鍵となる技術の一つがローカル5G。大容量の映像を遅延なく送信することができるから、ストレスなく遠隔指導を受けることができる。スマートグラスには新機能の搭載を目指して、興味深い技術が投入されていた。新機能とは、生育データ取得の効率化である。ご存知の通りハウス内環境データについては、自動取得されたデータは見やすく表示され、分析されたうえで、ハウス内環境の最適化に活用されている。

ところが植物そのもの=生育データはどうだろう? 作業者がペン+メモ帳を片手に手作業で行うのが一般的だ。このアナログデータはその後、Excelに手入力されることで、ようやくデータ化される形となる。ここを効率化し、データ分析に活用しようという試みだ。

今回発表されたスマートグラス(マイクロソフトの「HoloLens 2」)には、生育データ取得作業(生育調査)の効率化+デジタル化に向けてAR技術が搭載されており、自動計測・集計アプリを活用していた。スマートグラスでの計測は極めて単純。計測したい箇所の両端を指でポイントするだけ、である。これで自動計測され、取得されたデータはクラウドに自動保存される。普及指導員はこのデータを活用して指導できる。これまでの実証により、この仕組みの導入により生育調査業務は28%の時短に成功したという。また、蓄積されたデータをAIで解析して指導にフィードバックすることで、遠隔指導の更なる高度化が期待できる。

 

誰がどのように使う技術?
活用後、期待できることとは

この実証はNTTe-City Labo内(東京都調布市)の面積450㎡のハウスを試験圃場として、350株のトマトを栽培することで行われてきた。面積に対して株数が少ない(一般的な株数の1/3程度)が、これは実証ハウスは通路幅を広く取る必要があるなどの制約があるから。株当たりに換算して計算しなおすと、農業未経験者が主担当者となり週休2日制労働を採用しながらも31t/10aの反収があり、糖度は5~6度であったという。

栽培側視点に立てば「未経験者でも安心して就農できる」、指導者視点からは「訪問回数・時間を大幅に削減でき、指導の効率化と高品質化を実現できる」というのが3社の主張だ。

しかし現実的に、未経験者が東京で新規就農してハウスを建ててローカル5Gを導入する、なんていうことがあるのだろうか?この技術は誰がどこで使うためのものなのだろうか? そのヒントは発表会のプレゼンテーションで示された。

提供:NTT東日本

それは、実証ハウスのような先端農業ハウスを「地域連携による資源循環モデルの核として機能させる」というもの。実際、実証ハウスで生産されたトマトは調布市内のJAや小学校、こども食堂等、様々な場所に流通し、「甘くて、とても美味しい」と高い評価を得ている。小学生への栽培模様の動画配信、郊外学習の受け入れといった食育にも取り組んでいる。

またNTT東日本は実証ハウスに隣接して超小型バイオガスプラントを導入して、圃場の廃棄物や社員食堂から出た食品残渣のリサイクルを開始している。このバイオガスプラントはエネルギーだけでなく液肥が得られる。この液肥を小学校に提供しているのだとか。

現状で達成できているのは資源循環モデルの一部ではあるが、少なくとも先端農業ハウスを核にした循環サイクルをイメージできる。生産者の担い手不足、技術継承といった課題に対し「待ったなし」の状況があるなかで、この取り組みは地方自治体等の主導による地域の課題解決に向けた1つのモデルとして期待されており、具体的な相談も生産者や自治体からNTTアグリテクノロジーに複数来ているようだ。

ローカル5Gを核とした遠隔指導については、例えば地方自治体が導入して新規就農者に提供する、といった使い方も考えられるはずだ。ローカル5Gの設置には数100万円の初期費用と、別途月額利用料が必要なため、経験の浅い個人が簡単に導入できるものではない。現状では、主たる顧客は地方自治体になりそうだ。

「詳細は明かせませんが、今回発表した技術と関係する遠隔営農支援サービスを2023年度中に実フィールドで開始します」とNTTアグリテクノロジー代表取締役の酒井大雅社長。どのようなサービスがリリースされるのだろう? 楽しみに待ちたい。ただし、まだ社会実装には壁があるという。これからローカル5GだけでなくWi-Fiで利用可能なサービスの模索、成果連動型ビジネスモデルの実現可能性を探る、といった試行錯誤が行われる。

 

DATA

株式会社NTTアグリテクノロジー


文:川島礼二郎

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