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「環境に優しい」と「儲かる」は両立できる? 農業AIブレーン『e-kakashi』に迫る

栽培環境の見える化を取り入れる農業生産者は増えた。しかし、その見える化は増収に繋がっているだろうか? ここでは「環境に優しい」と「儲かる」を両立する注目のサービスをご紹介しよう。

目的に応じて見える化する
だから『e-kakashi』は儲かる

スマート農業に興味のある農業関係者なら必ず一度は、『e-kakashi』の名前を聞いたことがあるはずだ。IoTセンサーで田畑やビニールハウスといった屋内外の圃場から収集した環境データを植物科学の知見を取り入れたAI(人工知能)で分析。その結果を最適な栽培方法として提案することで農業従事者の判断を支援するサービスだ。

近年、施設栽培のみならず水稲や露地でも、『e-kakashi』利用者からの「儲かった!」という声が聞かれる。しかし、資材価格は高騰しており、人手不足も深刻なため、人件費も上昇基調にある。それに反して農作物の価格は据え置かれたままである今、新たな設備を導入して本当に利益がでるのだろうか? そんな素朴な疑問に答えてくれたのは開発・販売元のソフトバンクで『e-kakashi』事業責任者を務める戸上崇さんだ。

ソフトバンク株式会社​ CPS技術企画部 担当部長 e-kakashi事業責任者​ 博士(学術) 戸上 崇さん

「おっしゃる通り厳しい状況ですから、「儲かる」と言われても信じられませんよね(笑)。でも、そんな今だからこそ『e-kakashi』を導入する意味があるのです。そもそも『e-kakashi』は一般的に考えられているような「見える化ツール」ではありません。農業生産者が抱えている課題を解決する。そのために開発したサービスです。もちろん『e-kakashi』も見える化は行いますが、それは目的があってのこと。大切なのはその後。取得したデータを農業AIブレーンに取り込むと、生育ステージにあわせた栽培管理として実際に何をすべきかを提案できる点にあるのです」。

そう語ると、戸上さんは施設栽培での事例を紹介してくれた。それはイチゴ『あまおう』の産地である福岡県の宗像市でのこと。当地では、ベテラン農家と若手農家の収量の差が大きいこと、また技術の継承と次世代の人材育成、という課題があった。そこで総務省の「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」を活用して、宗像市・福津市の22名の圃場に『e-kakashi』を設置した。『e-kakashi』を活用して行った取り組みのひとつは、ベテランと若手のハウスの夜間温度の比較である。

「イチゴにとっての理想的な夜間温度は科学的にわかっています。測定値をみてみると、ベテラン農家の夜間温度は理想値に近く、若手は低い傾向にありました。夜間も保温対策をすることで、ベテラン農家は植物に良い環境を作り出していたのです。これに気づくことでどのようにベテラン農家は理想値に近づけているのか、そのノウハウを若手にも共有しましょうとなる。このように科学的根拠に従った栽培を行うことで若手の収量は上がり、同時にベテランの暗黙知が栽培技術として継承されました」。

2021年10月にリニューアルした『e-kakashi』のサービス

また、トウモロコシやレタス、キャベツの収穫適期見極めに成功した露地野菜生産者の事例も教えてくれた。

「どうしたら収量が上がるか、人員手配やスケジュール管理を改善する方法はないか苦慮していました。レタスやキャベツが裂球してしまうと廃棄率が高くなることも課題でした。そこで土壌体積含水率を計測して潅水タイミングを、また計測データの分析から収穫適期を予測することで、ベストタイミングでの防除と収穫作業、それに人員手配も行うことができました。さらに、キャベツのチップバーン(巻き込み)やレタスの乳管破裂といった内部障害、トウモロコシの未熟/過熟もなくなり、出荷した作物のクレームゼロも達成したんです」。

前者の例では、導入初年度から売上目標を達成したうえ、導入2年目には一反(約10a)当たりの売上が前年比で平均約80万円増収という確かな結果を生み出した。後者の例では、初年度の投資額約47万円、収益が約118万円となり投資を初年度で回収できたという。翌年以降はランニングコストのみとなり、利益率はさらに向上すると期待される。

 

植物の声を聞くことで
儲かると、環境に優しいを両立

『e-kakashi』が「儲かる」サービスであることは理解できた。では「環境に優しい」についてはどうなのだろうか?

「少し技術的な話になりますが、『e-kakashi』では取得したデータを農業AIブレーンに読ませている、とお話しました。そこで何をしているかと言うと、植物の生育モデルと環境データを比較しているのです。桜の開花予想をご存知ですよね? あれは2月1日以降の1日の最高気温の合計が600度に達すると開花する、という桜の生育モデルを活用したものです。日本の農業界には優秀な研究者が沢山いて、長年ノウハウを蓄えています。様々な作物について、環境データと植物の生育の関係が分かってきている。それを当社ではモデル化して『e-kakashi』に組み込んでいるのです。さらに課題に応じて現地のベテラン農家さんの経験則を組み込むなどして、より利用者の方にあった提案を農業AIブレーンがはじき出すことができます。これを私達は『植物の声を聞く』と表現しています。それぞれの環境で植物が何を欲しているのかを把握しているんです」。

「植物の声を聞く」仕組み

植物の声を聞くことで最近、新たな発見があったと戸上さんは語った。それはキャベツ栽培におけるチップバーン対策の事例。一般的にはキャベツのチップバーンはミネラル(カルシウム・ホウ素)欠乏が原因とされているが、潅水管理(適切なタイミングでの給水)だけで症状が治まったのだという。この生産者はベテランであり、これまでは追肥で対応していたのだが、実はミネラルは足りていたそう。水が不足していたため、ミネラルを吸うことができなかったのではないかという気づきを得ることができた。『e-kakashi』を使うことで施肥の適正化による肥料の削減が可能になる手ごたえを感じているそうだ。植物の声を聞くことで、水や肥料を適切なタイミングで行うことができるのだ。さらに病害虫アラート機能を活用することで、農薬にも応用できるのではないかと期待される。

「植物の声を聞くことで、品質が上がり、収量が増える。減肥や減農薬、省エネルギーを実現し、人の配置を効率化することができる。そうすることで利益が増えると同時に、環境に優しい農業の両立が目指せるのです」と戸上さんはまとめてくれた。

ハウス栽培から水稲・露地まで
個人や法人にも利用者が広がる

『e-kakashi』は2015年にリリースされた。当初は地方自治体や研究機関に限定してサービスが提供されていたが、2021年10月に機能拡充&リニューアルを受けた。このリニューアル時に、端末にソーラーパネルとニッケル水素電池を搭載して、外部電源への接続が不要な完全独立駆動式に刷新された。これにより水稲・露地野菜などでも使いやすくなった。また蓄積してきたノウハウを投入したことで汎用性も高まったことから、農業法人や個人に向けて広く販売されるようになった。

戸上さんによると、利用形態は様々なようだ。食品会社が『e-kakashi Analytics』を導入して契約農家がハードウエア、『e-kakashi Navi』、『e-kakashi Note』を導入。食品会社が指導ツールとして、契約農家が栽培管理や指導を受けるためのツールとして利用するケースや、地方自治体が導入して地域の農業生産者が利用するケース、そして最近では農業法人や個人の農業生産者が利用するケースも増えて来ているという。「環境に優しい」と「儲かる」を両立する『e-kakashi』。資材価格が高止まりし作物価格が上がらない今だからこそ、是非、知っていただきたいサービスだ。


 

DATA

ソフトバンク株式会社

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