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ノウハウの記録から遊休農地の見回りまでDX化。デジタルツインやAIなど活用の農業サービスが集結

去る12月9日、農業や漁業の課題に立ち向かうキーマンたちが集結する「ALL JAPAN CONFERENCE」が初開催された。ピッチ登壇者の中から農業分野で活躍する3社を紹介しよう。

<目次>
1.地域経済の活性化を目指す!ALL JAPAN CONFERENCEとは?
2.東大大学院生が農業テックで起業!【株式会社きゅうりトマトなすび】
3.農家を悩ませる「もみ殻」を有効活用【株式会社wead】
4.遊休農地を衛星データ×AIで一目瞭然に!【株式会社スペースシフト】
5.先駆的な取り組みを波及させ一次産業を変える契機に

 

地域経済の活性化を目指す!
ALL JAPAN CONFERENCEとは?

イベント当日の会場の様子

2024年12月9日、東京都の港区立産業振興センターで開催された「第1回 ALL JAPAN CONFERENCE」は、自治体と首都圏の事業者を結び、社会課題の解決や新規事業の創出、地域経済の活性化を目指すビジネスマッチングイベントである。

テーマに掲げるのは「農業・漁業のリストラクチャーを目指して」。インフラや流通、担い手不足、地域格差などへの具体的なアクションを共有しながら、日本の一次産業について深く考える機会を提供する。

メインプログラムの事業者ピッチでは、食、農業、漁業の分野でソリューション事業を行う15社が取り組みを発表。5分という短い時間をいっぱいに使ってサービス内容を熱く語りかけた。登壇した3社をピックアップして紹介する。

東大大学院生が農業テックで起業!
株式会社きゅうりトマトなすび

代表取締役CEO 佐々木佑介さん

株式会社きゅうりトマトなすびは東京大学発のスタートアップ企業で、一次産業に特化した研究、ソフトウェア開発、DXコンサルティングを行っている。メンバーは皆、東京大学の博士課程在籍者。「デジタルツイン農業」と「農業特化型LLM(大規模言語モデル)」の2分野が強みだ。

花や実、葉を検出して、着花数、着実数、葉面積の数値化を可能にする。


シイタケの傘や軸の生育シミュレーションも行っている。

デジタルツイン農業は、さまざまなデータを収集してコピーをコンピュータ空間上で再現する「デジタルツイン」の技術を農場に適用し、土地を3Dスキャン&解析をして農家にフィードバックするサービスだ。これにより作物の生育診断や収穫量予測の精度が高まり、農場管理をしやすくする。

Chat GPTのようなテキスト生成AIが農業課題のアドバイザーに。

農業特化型LLMは、いわば農業に特化した生成AI。農場のデータと環境のデータを突き合わせる特許申請中の技術で、生育の分析や農作業のアドバイス、産地全体の状況を教えてくれる。主に自治体や研究機関に使われているという。

農家を悩ませる「もみ殻」を有効活用
株式会社wead

代表取締役 井川桃花さん

こちらは未利用資源を活用した資材を開発している企業。目下取り組んでいるのが、日本で年間200万トン廃棄されていると言われるお米のもみ殻の活用だ。
かつては農家が野焼きなどで焼却していたもみ殻だが、野焼きが禁止された現在は費用をかけて廃棄しなければならない。畑にすき込むのも限度があり、自治体も農家も処分に頭を抱えているのが現状だ。

もみ殻を独自の方法で処理し、堆肥として活用する。

そこで井川さんは、自社で開発した高速分解促進剤「greevy」ともみ殻を混ぜて発酵装置にかけ、堆肥化することを発案

greevyはコーヒーかすや木粉、自然由来の廃棄物などを混ぜ合わせた資材で、これらを組み合わせることで、3年から5年かかると言われるもみ殻の分解をわずか約40時間まで短縮させることに成功した。

生産量の増加のほか、病害対策としても期待ができる。

この堆肥は作物の成長促進・病気対策など農業の効率化、生産量の増加、水はけの向上など、多数のメリットを持つ。圃場検証でも、ねこぶ病の菌密度の半減や土壌のph値が適正になるなどの効果がみられたという

「今後は全国の自治体や農業関連事業者に向けてこの活用事業を提案していきたい」と語った。

遊休農地を衛星データ×AIで一目瞭然に!
株式会社スペースシフト

事業開発部セールスエキスパート 糸井紀貴さん

株式会社スペースシフトは宇宙系のスタートアップで、地球観測衛星のデータを用いて、地上では認識できない地球上の変化を検出可能にするテクノロジーを提供している。農業分野においては、遊休農地や耕作放棄地を探索するサービスを展開している。

色分け表示により、農地の荒廃状況をひと目で把握可能

管理が行き届かない遊休農地や耕作放棄地は、雑草が生えて害虫や病害の温床となったり、林化して荒れ果て、ゴミが投棄されたりするリスクがつきまとう。
そのため自治体や農業委員会、近隣農家が農地を見回って状態を把握し、適切に管理するよう働きかけている。なかなかの労力だ。

スペースシフトは、観測衛星からのデータを独自開発のAIで解析し、遊休農地である確率の高い土地をレベル分けして表示、マップ上で可視化できるソリューションを開発した。

優先的に確認すべき農地が絞りこまれて、現地確認アプリ上に示される。

これを活用することで、見回る場所の優先順位付けや、人員配置、ルート設定を効率化。「見回りのDX」で、自治体や農業委員会の業務をサポートする。

先駆的な取り組みを波及させ
一次産業を変える契機に

本イベントの主催者である港区立産業振興センターによれば、「港区は事業所数では日本一だが、農業はゼロで、漁業はわずか。しかし連携協定を結んでいる全国各地の自治体にはそれらの産業が溢れている。
その一方で地方にはソリューションが出てきにくい現状がある。ならば、その二つを補完し合おうというアイデアから生まれた企画」だという。

地方の農業・漁業が抱える課題は、首都圏の企業が解決してもいいし、別の地方のソリューションを適用してもいい。そのハブになるための企画というイベントの趣旨が興味深かった。

今回のビジネスマッチングによって一次産業が活気づいていくことを願う。


文/本多祐介

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