【レポート】バイオスティミュラントの国際的潮流と日本市場の展望
2026.05.19
日本バイオスティミュラント協議会は、世界のBSの第一人者であるパトリック・ブラウン教授(カリフォルニア大学デービス校)らを招き、BSの科学的根拠と普及の展望を議論する講演会を開催した。
パトリック・ブラウン教授が見る
日本市場の潜在力
近年、世界規模で急激な気候変動が進んでいる。とりわけ夏季の極端な高温や深刻な乾燥といった「非生物的ストレス」は、農業生産にとって甚大な脅威となっている。既存の農薬や肥料の枠組みだけでは安定した食料生産を維持することが困難になりつつある中、植物の自然な生理プロセスをサポートし、環境ストレスへの耐性を高める新資材「バイオスティミュラント(以下、BS)」が、農業を支える解決策として注目を集めている。
日本バイオスティミュラント協議会は、2018年の発足以来、BSの国内における認知度向上と、正しい使い方の浸透、国内外の法規制に関する周知を目的に活動を続けてきた。
協議会は産官学が連携してBSを取り巻く課題を多角的に議論する場として「バイオステュミュラントを知る~バイオスティミュラントの国際的潮流と日本の最前線~」と題した講演会を開催。国内外のBS界を代表する専門家が集結し、講演とパネルディスカッションが行われた。
また、来賓として挨拶した農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課長 木村 崇之氏は、BSは「みどり戦略」における重要な技術の一つであるとし、BSを始めとした新しい資材の開発・普及、これらに対する投資の促進を図るため、農業環境政策の喫緊の課題に対する政策の方向性を、今年の夏頃に「みどり加速化GXプラン」で取りまとめたいと話した。
来賓として挨拶した農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課長 木村 崇之氏
基調講演に登壇したパトリック・ブラウン教授は、講演会前に行われた記者説明会にて、日本市場の現状を米国同様「ベビーステップ(歩み始めたばかり)」の段階にあると指摘した。すでに法規制の整備と導入が進んでいるスペインやフランスといった欧州諸国、あるいはブラジルと比較すると、市場形成は途上段階にあるという。
しかし教授は、日本市場の将来性について極めて高い期待を寄せる。「日本の植物生理学や園芸学、ホルモン、植物成長調整剤などにおける知見は非常に優れています。さらに日本の園芸生産は非常に専門化されています。こうした背景を考えると、日本の市場はバイオスティミュラントにとって「ほぼ完璧な市場」と言えるでしょう。将来は非常に明るいと見ています」(ブラウン教授)。
国際的潮流と
バイオスティミュラントの本質
基調講演に登壇したパトリック・ブラウン教授
ブラウン教授の講演は、BSの本質を解きあかすものであった。その主な内容は以下の通りである。
定義と規制を巡る国際的潮流
現在、BSの定義は欧州(EU)と米国で異なる。EUでは農薬としての規制を避けるため「植物の栄養吸収プロセスを刺激する肥料」という枠組みを採用しているが、米国では「植物の自然なプロセスをサポートする物質」という、より広い植物生理学的な定義を採用している。EUでは、植物の生命プロセスにポジティブな影響を与えるBSの働きを持つ資材も、現在の定義上は「農薬」に分類されてしまう場合が生じているという。
科学的な研究や普及を促進できるように、EUでは農薬やBSの定義について修正する動きがあることがBrown教授から紹介された。
気候変動に対応するためのソリューション
全ての種子は本来、100%の「生物学的潜在能力(ポテンシャル)」を持っているが、実際の農業現場では非生物的ストレス事象により、世界全体の収穫量はそのポテンシャルの30%程度に留まっているという。
「緩やかな気温上昇であれば、より耐性のある品種を開発する『育種(ブリーディング)』戦略で対応できるかもしれません。しかし、育種は長期的な取り組みです。突発的な『極端な事象』を管理するためには、育種とは別のソリューションが必要です」(パトリック・ブラウン教授)。
教授は、気候変動による極端な気象事象に対応するためには、BSによる「植物と環境の相互作用の調整(モジュレーション)」が必要不可欠だと説明した。
農業のパラダイムシフトと日本の役割
ブラウン教授は、BSを「将来のストレスに備える保険」と捉えるべきだと述べた。気候予測に基づき、ストレスが来る前にオンデマンドでBSを使用する体制は、農業における大きなパラダイムシフトとなり得る。ジベレリンの発見など、植物成長調整の研究において長い歴史を持つ日本こそが、科学に基づいたBSの活用をリードすべきであると結んだ。
今回の講演会では、BSが単なる補助資材ではなく、気候変動下で農業の生産性を最大化するための戦略的ツールであることが改めて示された。科学的根拠に基づくガイドラインの整備と、産官学のさらなる連携が、日本の農業を次なるステージへと押し上げる鍵となるだろう。
また、日本バイオスティミュラント協議会のウェブサイトでは、講演会の講演録も公開されているため、ぜひ参考にしてほしい。
DATA
日本バイオスティミュラント協議会ウェブサイト
解説:バイオスティミュラントってなんだ?|日本バイオスティミュラント協議会
取材・文/アグリジャーナル編集部
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