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多様なニーズに応える新品種イチゴ 農研機構と民間企業の共同開発に注目!

イチゴは生食されるだけでなく、菓子やケーキに使われるほか、加工用や観光農園向けにも育てられている。そんな多様なニーズに対応すべく、民間企業と農研機構とのイチゴ新品種が活発化している。

ジュースやタルトにマッチ!
新品種「アオハルカ」

写真「アオハルカ」(出展:株式会社青木商店)

2024年2月、青木商店と農研機構とが共同開発したイチゴ新品種「アオハルカ」が、全国の店舗に商品として並んだ。青木商店は福島県郡山市に本社をおく、フルーツを核にした各種事業を経営するフルーツのスペシャリストだ。ブランド広報部の佐藤かすみさんが教えてくれた。

「当社はバナナという果物がまだまだ贅沢品だった1924年(大正13年)、創業者の青木松吉が郡山駅前にバナナ問屋を開業したのがはじまりです。『美味しい果物は人の気持ちを豊かにする』・『美味しい果物は人を幸せにする』との思いで開業した、と伝わっています。それが今では、果物専門店のほか、フルーツバー、フルーツタルト&カフェ等を経営するようになりました。これら店舗での加工に適した品種をと、農研機構とともに開発し、創業100周年という節目の年を記念して名付けたのが『アオハルカ』です」

共同開発が始まったのは2018年であり、2021年に新品種「af01」として品種登録出願された。

「味わいの面では、『アオハルカ』は酸味と甘みのバランスが良好で、いちごらしい香りを感じることができる品種です。またビタミンC含量が豊富で高い抗酸化活性を有しています。2年間の調査から、特にビタミンC含有量が多いことが分かっています。一般的ないちごのビタミンC含有量は生果100 g当たり62mgですが、「アオハルカ」は97mg(1月収穫分調査)と、約1.5 倍も含まれていました。また弊社が行った2023年12月の調査では、葉酸が一般的ないちごと比べて1.1倍、食物繊維は1.21倍多く含まれていました」

「アオハルカ」は多収性にも優れるとのことだが、農業生産者は苗を仕入れて生産することが可能なのだろうか?

「大変申し訳ありませんが今のところ苗の販売は行っておらず、今後の販売も未定です。「アオハルカ」は当社のフルーツジュースバー、フルーツピークス等の各事業店舗での使用を予定しており、今後店舗数が増加するにつれて生産量も増加していくことが見込まれます。当社の”フルーツ文化創造”にかける想いと、生産者様・生産地様の取り組みや想いが合致してお互いに共感できた場合に、栽培をお願いすることがあるかも知れません」

とのこと。ご興味を持たれた方は青木商店のウェブサイト等をウォッチしておくと良いだろう。



ジャムなどの加工に適した
新品種「夢つづき」「夢つづき2号」

農研機構と民間企業によるイチゴ品種の共同開発といえば、アヲハタを外すわけにはいかない。2015年にジャム等への加工適性が高い露地栽培向け新品種「夢つづき」を開発した。果実は好適品種「千代田」より大きく赤色で、ジャムに加工した際の色調が明るく、加工適性に優れる。

無加温雨よけ栽培、露地栽培地域に適し、「千代田」並の商品果収量が期待できるうえ、炭疽病に抵抗性を有しているから栽培が容易でもある。さらに、果房伸長性が優れ果実が硬く、収穫調製作業が省力化できる。

だが、そんな「夢つづき」には弱点があった。加工用イチゴは一般的に露地で栽培されるのだが、そのため収量が天候に左右されやすい。「夢つづき」は近年の温暖化の影響もあってか、春季の気温上昇により開花が不安定となり、収量が安定しない側面がある。

そこを改善すべくアヲハタと農研機構は2020年、「夢つづき2号」を新たに共同開発した。「夢つづき」の優れた特徴を受け継ぎつつ、さらに春季の開花が安定する新品種だ。ところで加工用イチゴの収量は、どの程度なのだろうか? アヲハタ果実研究所で行った比較調査の結果が興味深い。一般露地品種と「夢つづき」、「夢つづき2号」とを、ガラスハウス内で暖房を焚かない露地に似た条件下で栽培した。

2021年の試験結果で、「夢つづき」と「夢つづき2号」は従来品種の2.3~2.4倍の収量を達成した。一般露地品種の収量は1シーズン400g程度だが、両品種は春の2ヵ月間の収穫のみで株あたり約1kgの収量を期待できることが判明している。また、果実1つあたりの平均重量を従来品種と比べたところ、「夢つづき」は1.7倍、「夢つづき2号」は1.6倍であったという。

露地栽培で多収を見込める「夢つづき」・「夢つづき2号」だが、アヲハタに「夢つづき2号」生産者の募集について問い合わせところ、残念ながら現在は募集していない、とのこと。それでも、農研機構と民間企業とのイチゴ新品種の共同開発は今、活発化している。イチゴ生産者はアンテナを張り、栽培のチャンスを逃さないようにすると良いだろう。



DATA

農研機構
青木商店
アヲハタ


取材・文:川島礼二郎

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