根菜類の収量が地点ごとに把握できる⁉ 生産高向上に繋がる新たなAIの活用法とは
2019/11/18
農業におけるPDCAサイクルの弱点は、「CHECK(点検・評価)」にあたる一枚の農地ごと、あるいはその農地の個所ごとの収量がつかめないことだ。そんな現状に風穴を開けるべく、北海道大学×農家がタッグを組み新たなAIの活用に挑戦している。農業ジャーナリストの窪田新之助氏が説く連載コラム第3回。
»第1回『「21世紀の石油」であるデータは、現代農業の可能性を広げるのか?』はコチラ
»第2回『農業における「主要な3つのデータ」とは? “スマート農業”実現へのカギ』はコチラ
農業×PDCAにおける弱点
農業でもさまざまなデータが取られるとともに、PDCAへの活用が期待されている。PDCAとは生産や品質などに関する業務管理を円滑にする手法の一つ。すなわち「PLAN(計画)」「DO(実行)」「CHECK(点検・評価)」「ACT(改善)」というサイクルを繰り返すことで、業務を改善していく。
ただ、残念ながら現段階ではPDCAのうち、「CHECK(点検・評価)」をしたくてもできない事情が農業にはある。それは一枚の農地ごと、あるいはその農地の個所ごとの収量がつかめないこと。米や麦ではセンサーが組み込まれた特殊なコンバインで刈り取れば、農地一枚ごとの収量は自動的にデータ化されるようになっている。ただ、それ以外の作物ではそうした収穫機が実用化されていると聞いたことはない。収量が分からなければ、改善できることも限られる。
北大と農家が協力し
畑作四品目で試験開始
そんな現状に風穴を空ける試みが始まっている。挑戦者は北海道帯広市の道下広長農場の代表・道下公浩さん。70haで小麦とバレイショ、ダイコン、ナガイモを作っている。生産において目下懸念していることの一つが収量が上がらなくなっていることで、原因を突き止めて解消したい。そのためには畑ごと、さらには畑の個所ごとに結果である収量を把握したい。
そこで協力を依頼したのは北海道大学大学院農学研究院の岡本博史准教授生物環境工学の研究室(ビークルロボティクス)。同研究室は昨年から、小麦とバレイショ、ダイコン、ナガイモについて収穫と同時に撮影し、そのデータを解析することで収量を推定する試みに取り掛かっている。
ナガイモは高精度に推定
道下広長農場はナガイモを収穫する際、まずはトラクターで専用のプラウで土ごと掘り上げる。後ろから人がナガイモに付いた土を払いながら並べていき、さらにその後ろから人と別のトラクターが追走する。このトラクターはナガイモを運搬するための鉄製コンテナを載せたトレーラーを牽引しており、人がナガイモをそこに運んで詰め込むといった流れ。
2018年の実験では人が並べたナガイモをカメラで撮影し、ディープラーニングによって一本ごとに認識。カメラで捉えたそれぞれの画像上の面積と形状を計測し、そこから重量を推定する。カメラにはGPSを取り付けることで、それらのデータと掘り取った畑の位置を紐付けられる。結果、地図上の位置ごとの収量が把握できると考えている。「かなりの精度で重量を推定することに成功した」(岡本准教授)。
続いてダイコンも専用のハーベスターで土から抜き取り、ベルトコンベアーで機上に搬送する過程で撮影。ディープラーニングによって一本ずつの投影面積や形状を計測し、重量を推定する。
一方、小麦とバレイショについても同様の実験をしたものの、現時点では改善点が多いとのこと。
今回試験の対象としたのは農業王国・十勝地方にとっていずれも重要な品目。持続的な生産を支えるうえでデータの活用が欠かせなくなるだけに、研究の今後の進展が待たれる。
PROFILE
農業ジャーナリスト
窪田新之助
日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。福岡県生まれ。