農業が嫌でたまらなかった……。 “農家の嫁”がキャリアを活かして活躍
2020/01/17
果樹王国・福島県にて、農産物の加工や商品化を手がける『Berry’s Garden(ベリーズガーデン)』。今年9月には東京・赤坂にあるチョコレート専門店とのコラボ商品を発表するなど、順調にブランドを育てている。代表の景井さんのエピソードから、農業女子としてのひとつの在り方を探る。
後ろ向きだった姿勢が
大きく変わった瞬間
福島県伊達市出身の景井さんは、2007年に結婚。夫の実家はリンゴやモモを生産する果樹農家で、結婚と同時に「農家のお嫁さん」として農業に携わるようになった。当時について、景井さんはこう振り返る。
「農家に嫁いだけれど、農作業に対する意欲はほとんどなくて。義祖母や義理の父母を手伝うかたちで自然と農作業をするようになりましたが、自分が望んだ仕事でないだけに、嫌でたまりませんでした。日々、“なんで私がこんな目に……”と思っていましたね(笑)」。
景井農園では、リンゴやモモなどの果樹を生産。義両親のもとで農作業を手伝う。
そんな景井さんの意識が変わる大きな契機となったのは、東日本大震災だった。
福島第一原発事故の発生により、農産物の出荷停止に遭ったり出荷を自粛したりするなか、全国にいる顧客から励ましや見舞いの連絡があったという。「私たちが作ったリンゴやモモを、楽しみに待ってくださる方がたくさんいるのを実感しました。また、“農業は、生命を繋ぐ素晴らしい仕事なんだ”と、初めて思うことができたんです」。
この素晴らしい仕事を、どうすれば次世代にも伝えられるだろう。そんな思いが景井さんのなかでもたげた時、たまたま見つけたのが、農林水産省が主催する「農業女子プロジェクト」だった。
思い切って参加応募したところ、見事プロジェクトのメンバーに。その後、メンバーが集まる座談会や会議に参加するうち、全国には農業界でビジネスを立ち上げ、成功させている女性がたくさんいることを知った。「農業における女性の未来は、とても明るいことを知りました。また、私にも、自分が理想とするかたちで農業ができるんじゃないか、やってみよう、と意欲を新たにしましたね」。
ママ友との会話から生まれた
女性の心をつかむドリンク
景井さんが目をつけたのは、農園の隅に山盛りになって捨てられていた規格外のリンゴ。
以前より、廃棄されてしまうリンゴを活用したいと考えていたことから、これらをスムージーにして販売することを考案した。さっそくイベントなどで出店し販売したが、すぐに、新鮮なリンゴがない時期はスムージーを作れないという壁にぶつかってしまう
。スムージーを商品として扱うのは断念し、改めて加工品の方向性を模索したそう。
「まず思いついたのが、ドライフルーツをベースにした商品です。日常的に家庭で乾燥させたリンゴを食べていたのですが、すごくおいしいので商品化できないかと考えました」。ただ、ドライフルーツはすでに市場にあふれており、目新しさや魅力に欠ける。多くの人々の目にとまり、なおかつ愛される商品にしなくては、と思慮に思慮を重ねた結果、生まれたのが「りんご農家のスパークリングボトル」だ。
ドライフルーツを使った「りんご農家のスパークリングボトル」は店頭でも目を惹くパッケージ。
また、スパークリングボトルを企画した背景には、こんなエピソードがある。
「2人の子供の妊娠・出産を経験しているのですが、その間、お酒を楽しめないことにストレスを感じるシーンがたびたびあって。また、ママ友との会話から、同じように感じている女性が多くいることがわかりました。ならば、お酒を飲めない女性も楽しめる華やかなドリンクを作ろう、と」。
「りんご農家のスパークリングボトル」は、ドライフルーツが入ったボトルに炭酸水を入れるだけで、クリアピンクのドリンクになるユニークな逸品。注目度、評判ともに上々で、発売後3ヶ月で1000本以上売れたという。
また、発売と同時に立ち上げた「Berry’sGarden」は次第に注目を集め、多くのメディアで取り上げられた。一念発起してから、マーケティングの勉強会に参加したり、商品開発やパッケージデザインのプロに助言を仰いだりと、柔軟かつ意欲的に努力を続けてきた景井さん。今後、さらなるステップを踏もうとしている。
「新しいコンセプトの商品の開発に加え、イベントの企画・主催などをとおして農業の魅力を広く発信していきたいですね。農業に従事する女性たちが希望を感じてくれたら、すごくうれしいです」。
左:好きなワインでホットワインがすぐにレンジで簡単に作れる「ホットワインの素」。右:マルシェ出展時の出会いがきっかけで実現した、東京・赤坂にあるアリバカカオのチョコレート専門店「MAMANO CHOCOLATE」とのコラボ商品。
マーケティングの肝
1.店頭に並んだ際の見た目をチェック!
アパレルスタッフとして働いた経験をもつ景井さん。当時、陳列の仕方で商品の売り上げが左右されることを知ったそう。「陳列に工夫するのはもちろん、お客さんの注意を引けるよう、遠目でも目立つパッケージを選ぶのが大事です」(景井さん)。
2.地域の人々の力を積極的に借りる
景井さんはブランドを立ち上げる前、ママサークルで多くのママ友と交流していたという。「彼女たちの意見を反映したことで、ブランドが成功したと思っています。また、イベントも、地域の人たちの協力なくして成し得ません」(景井さん)。
3.プロの意見に耳を傾ける
専業農家の場合、日々の農作業に追われがちだ。「農家は栽培のプロですが、商品開発やデザイン、マーケティングは専門外なはず。自身ですべてをこなそうとせず、プロに意見を聞いたり、手を借りたりするのが賢明だと思います」(景井さん)。
Profile
景井愛実さん
Berry’s Garden代表。2007年、福島県の果樹農家に嫁ぎ“農家の嫁”として義両親の営む「景井農園」に携わる。昔ながらの農家のあり方も尊重しつつ、美容関係やアパレル職の感性から加工商品開発・発信部門の展開へ。
HP:Berry’sGarden公式サイト
Instgram:@berrysgarden_item
Photo&Text:Yoshiko Ogata
AGRI JOURNAL vol.13(2019年秋号)より転載