〈検証〉農作業による腰痛がもたらす危険性とは? アシストスーツは腰痛対策になるのか
2020/08/03
中腰姿勢や重量物の運搬など、腰部への負担を伴う農作業は、常に腰痛のリスクにさらされている。農家の職業病といっても過言ではない「腰痛」。知っておくべき危険性と対策について、専門家に訊いた。
“ラク”な作業が
生産寿命を延ばす
「昔から、農民にとって腰痛は代表的な健康障害でした」。そう語るのは、職業性腰痛をはじめ、社会医学を専門に長年研究を続けている垰田和史先生。他産業と比べて農業における腰痛のリスクが高い要因には、重量物の運搬、果樹栽培での反り返りの姿勢など、様々なものが挙げられるというが、なかでも多くの農家に共通しているのが、中腰での不良姿勢だという。
「地面に植わった作物を栽培すると、どうしてもかがみ姿勢が多くなり、腰部に負荷がかかります。しかも農業には、休憩を適宜とるという文化が根付いておらず、疲れるまで作業をしてしまいがち。一旦発症するとなかなか治りにくいという悪循環に陥りやすいのです」。
発症後は作業効率が落ちるばかりか、最悪、農家生命を絶たれることも。生産寿命や効率を高めるためにも腰痛対策は必須課題なのだ。
「農業では、安全への意識がまだまだ低いのが現状。農作業は辛い、苦しいのが当たり前ではなく、楽にする工夫を取り入れてほしい。楽になる=手を抜くではないですから。安全で快適な農業をぜひ追求してほしいですね」。
知っておくべき危険性と対策
1 多くの農家は腰痛で悩んでいる
農業は、もっとも腰痛を起こしやすい職業の1つといっても過言ではない。「昔から農夫症と言われるなど、腰痛や膝の関節症などの疾患は農民の代表的な健康障害として、研究者の間でも共通認識があります」。
とくに女性はこんな要因も。「男性に比べて筋力が弱いこと、しゃがみ姿勢の仕事が多い傾向にあることなどが挙げられます。また、家事負担のせいで睡眠時間が短くなりがち。筋肉組織を回復する時間が短くなるため、腰痛リスクが高くなります」。
2 農作業が腰痛を引き起こす原因
腰痛の要因は一概には語れないが、中腰などの不良姿勢は多くの農家に共通する要因の1つだ。「地面に作物が植わっているとしゃがみ姿勢になります。倉庫の床や低い作業台の上で、出荷作業をするケースも多く、不良姿勢が続きがちです」。
また、収穫物を運ぶ重量物運搬、果樹の収穫作業などでの反り返った姿勢なども腰痛を引き起こす原因。「慢性的に不良姿勢を続けていると、腰痛の発症につながるばかりか発症後も治りにくい。外科的な手術が必要になることも」。
3 腰痛がもたらす労働災害の可能性
腰痛を発症するような働き方環境では、怪我も起こしやすいという。腰部を中心に疲労が溜まると、足元の踏ん張りがきかなくなり、転落・転倒という怪我を招きやすくなるためだ。
「実は、全産業の中でも労働人口あたりの死亡事故件数が最も多いのが農業で、約30年前から件数がほぼ横ばい。腰痛対策とは、腰そのものを守ることが最大の目的ではありますが、腰部の負担を軽減することで農業の安全性を高めていくことにも繋がると考えています」。
4 心がけるべき腰痛対策とは
農家は、天候や出荷時間に合わせて働きがち。十分な休憩時間を持てないことも多く、そうした身体への負担が腰痛の発症に繋がっている。「小まめな休憩を取ることが必要 。休息や睡眠は、身体を回復させる有効な方法です」。
また、腰部を支える筋力を養うことも重要だ。「例えば、農閑期に筋肉が落ち、春先にいきなり農作業を始めると、ヘルニアを起こしてしまうことも。野球選手がシーズン前にキャンプをするように、農期前にしっかり身体を作ることも大切です」。
教えてくれた人
びわこリハビリテーション 専門職大学教授
垰田和史先生
アシストスーツは
腰痛対策の選択肢になりえるか?
作業による腰の負担を軽減する注目アイテム「マッスルスーツEvery(エブリィ)」。その驚くべき実力を、利用中のいちご農家・澤地正典さんに教えてもらった。
CHECK 01 腰痛対策としての効果は?
腰の負担を軽減する「マッスルスーツEvery」は、農場での収穫作業にうってつけ。冬~初夏にかけての収穫期は、農業用のイスに座り中腰姿勢での作業に追われるという澤地さんは、「着けていると本当に腰が楽」と評価。
腰痛で通院歴のある妻・房枝さんも「後ろから引っ張ってくれるから疲れが随分違う。長時間頑張れます」とその効果を実感。
CHECK 02 腰への負担や着用感は?
リュックサックのように背負ってベルトを締めるだけ、と装着はいたって簡単。また、重量3.8kgという軽量設計により、「想像以上に快適」と澤地さん。
「最初は装着して作業をすることに少し違和感がありましたが、数日もしないうちに身体が慣れました。うっかり着るのを忘れて作業をすると、『今日はなんか腰が疲れるな。あ、忘れてた!』と気づくことも」。
CHECK 03 農作業時の実用性は?
空気圧によるばねの力を活用した「マッスルスーツEvery」は、電力不要のアシストスーツ。そのため、農作業の現場でも水や汚れを気にせず活用することができる。
また、人工筋肉は手押しの空気圧入れを使って柔軟に空気圧の調整が可能だ。「特に腰に負担がかかるときは多めに空気をいれたり、仕事内容によって調整して使っています。操作もシンプルですぐに慣れますね」。
■マッスルスーツEveryは腰への負担だけでなく心の負担もラクにする!
収穫期は、朝から3時間くらいかけていちごの摘み取りを行います。土耕栽培のため、収穫用台車に手をついての中腰作業となり、腰を痛めがちでした。「マッスルスーツEvery」を購入し、約一ヶ月間利用したところ、腰が確かに楽になることを実感。疲れを忘れてつい頑張りすぎてしまうほどです。妻と息子の分も用意して、ずっと使っていきたいと思います。
話してくれたのは…
澤地正典さん・房枝さん
「いちごづくり80年」を誇る三代目いちご農家。神奈川県海老名市にあるいちご農園「澤地農園」を息子とともに営む。「平成30年度神奈川県いちご品評会」では、「立毛の部」で農林水産大臣賞を受賞。
DATA
電力不使用。空気の力で動くアシストスーツ。空気圧を利用した人工筋肉が動作をアシストし、最大補助力25.5kgfを発揮。重い物の上げ下げのサポートだけでなく、中腰姿勢作業の腰の負担などを軽減。女性や高齢者、体力に自信のない人でも使いやすいように設計され、約10秒で装着可能。
価格:136,000円
重量:3.8㎏ ※カバー含まず
最大アシスト力:25.5kgf(100Nm)
本体寸法:H805×W465×D170mm(S-M)、H840×W465×D170mm(M-L)
適応身長(推奨):S-M 150~165cm、M-L 160~185cm
駆動源:圧縮空気
問い合わせ
株式会社イノフィス
TEL:0120-046-505
絵:岡本倫幸
写真・文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)
AGRI JOURNAL vol.16(2020年夏号)より転載
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