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都市の地域農家と住民をつなぐ、新しい流通モデル

これまで築いてきた大切な技術や文化、伝統はそのままに、より良く変えていける部分はきっとある。作り方、売り方、働き方のデザインを変えることで、農業がもっと面白くなる。

販売システムのデザインで
都市農業を守っていきたい

午前9時。開店1時間前の直売所「しゅんかしゅんか」の店先には、まだ野菜は並んでいない。その日に売るものは、その日に農家を回って集荷するからだ。

「今日は〇〇さんのミニトマト、夕方に来たらあるかしら?」と、犬の散歩途中でお店を覗いていく奥様。農家とも、お客さんとも近いのが、しゅんかしゅんかを運営するエマリコくにたちのスタイルだ。
この会社を立ち上げたのは、社長の菱沼さんと、副社長の渋谷さん。一橋大学時代に商店街の活性化事業をはじめ、卒業してからも国立市のまちづくりに着目しているなかで、都市農業の課題に気づいた。それは、「農産物の販売経路の少なさ」だったという。

「国立の農家さんは、市場に車で出荷している人以外は、ほとんどが軒先の直売所で販売している程度でした。専業農家が少ないため、あまり問題と思われておらず、まちに住んでいる人々が地元野菜を食べられる仕組みがほとんどなかった。農地は、景観や自給率のためだけでなく、まちづくりの機能としても、とても重要なものだと考えています。地域のなかに生産・販売・消費のシステムはあるのに、それぞれがつながっていない、そのことに気づいたんです」と、渋谷さんは語る。

農家の負担をなるべく減らして野菜を販売するために、毎日地元の農家を訪れ、集荷する。
「農家さんにお会いすることで、お客さんの反応もフィードバックできますし、農家さんの声もお客さんに届けられる。また、話している中で端境期(はざかいき)をしのぐための作付け相談や契約栽培も行えるので、うちにとっても良いことがたくさんあるんですよ」(渋谷さん)。


農家さんの元に集荷に訪れた渋谷さん。野菜のことを教えてもらいながら、荷姿の要望から、売りたい品種のリクエストまで伝えられる。

店舗をオープンしてから、今年で7年目になる。それまで自分たちが食べるものだけを生産していたような兼業農家の人たちも、エマリコくにたちの店舗で販売したり、エマリコくにたちが地元のスーパーにも卸すことで、「ほとんど無かった農業収入が100〜200万円も増えている」なんていうことも。まちなかの農業を盛り上げていく仕組みが、確実に出来上がってきている。

「これから若い農家さんが増えて、一緒にまちなかの農地を守っていけたら嬉しい」(渋谷さん)。

エマリコくにたちはローカルにこだわりながら、今後も同モデルを展開するエリアを広げていく予定だ。


毎日集荷に行くので、農家ごとの今を全身で感じてお届けできる。店の様子も簡単にレポートし、農家に渡している。


photo:Kazuki Onouchi
text:Tomomi Imai

『AGRI JOURNAL』vol.4より転載

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