【知って得する】GAPの種類が多い理由は? どれを取得すれば良いの?
2019/04/03
GAPという言葉を農業界で最近よく耳にするけれど、たくさん種類があって良く分からないという方が多いのではないだろうか。今回はGAPの概要とGAPの種類が多い理由の2点を中心に解説する。
GAP(農業生産工程管理)そもそもGAPとは?
GAPとはGood Agricultural Practiceの略で、日本では「農業生産工程管理」と訳されている。生産工程管理という意味では製造業ではISO(国際標準規格)があるが、GAPはその農業版と言える。定義について、農林水産省では下記のように示している。
❝ GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。これを我が国の多くの農業者や産地が取り入れることにより、結果として持続可能性の確保、競争力の強化、品質の向上、農業経営の改善や効率化に資するとともに、消費者や実需者の信頼の確保が期待されます。❞
出典:農林水産省HP
食の安全性管理は
結果管理と工程管理の2種類
農作物の安全性はこれまで、主に食品衛生検査所等が青果市場で行う検査によって担保されてきた。市場で残留農薬が基準値以下かどうかを事後的な検査で確認する「結果管理」となっていたのだ。この結果管理の問題点は、検査をされなかった作物(=検体以外の作物)の中に「ハズレ」が混じっているリスク、つまり残留農薬基準値を越える野菜が市場外に出るリスクが0では無いということだ。
リスクを極力0に近づけるためには「結果管理」だけでなく、生産プロセスの管理を厳しくすることで「ハズレ」の作物を作らないようにする「工程管理」も重要だ。この工程管理で安全性を担保しようとする考え方、つまりGAPが推進されるのは当然と言える。いずれか一方が良いということではなく、両方の管理をしていくことが重要だ。
主なGAPは5種類
GAPの種類は主に下記の5つだ。実施運営している主体がそれぞれ異なるため、内容や難易度にも違いがある。GLOBAL G.A.P.とASIAGAPはJGAPより難易度が高く、JGAP以下は多少難易度が下げられている。
①GLOBAL G.A.P. (グローバルGAP)
ドイツに本部を置く非営利組織FoodPLUS社が運営を行なっているGAP。欧州を中止に世界120カ国以上で実施されている。欧州を中心とした実質上の国際規格。
②ASIAGAP (アジアGAP)
一般財団法人日本GAP協会が運営を行なっているGAPで、ASIA共通のGAPのプラットフォームを目指している。
③JGAP
一般財団法人日本GAP協会が運営を行なっているGAP。
④各都道府県のGAP
各都道府県が独自に定めたGAP。農林水産省のガイドラインに準拠したもので、一部の都道府県では第三者認証も行なっている。
⑤JAグループのGAP
各JAが独自に定めて認証している。一定の条件を満たすGAPに対して全農が認証システムを提供している。
GAPの選び方は
販売先次第
生産者にとって大切なことは「バイヤー(販売先)が求めるGAPを取得すること」だ。闇雲に難易度の高いGAPを費用をかけて取得する必要はない。欧州市場に輸出したいのであればグローバルGAP、アジア市場や国内大手スーパーならアジアGAP、国内の小規模小売店ならJGAP等というように、販売先によって必要なGAPは異なってくる。どのGAPを取得したら良いかという問題は、作物をどの市場、顧客に販売していくのかという営業・マーケティング戦略上の問題とも言える。
出典:日本GAP協会
GAPが世界に
たくさんある理由
世界でGAPが複数ある状態になっているのは「基準間の争い」が起きているためだと言われている。
基準を自国で作り実質的に所有することができれば、自国の作物や生産現場にとって多少有利な基準を設計することが期待できる。その結果、地域経済圏の貿易に関して主導権を握ることができるかもしれない。各経済圏(欧州圏、北米圏、アジア圏)の経済大国が、自国が所属する経済圏の基準を所有したいと考えるのは当然だ。そのため世界各地でGAPが乱立された状態になっている。
グローバルGAPと
アジアGAP
世界に複数あるGAPの中で最も普及、成功しているのはグローバルGAPだ。グローバルGAPの前身はユーレップGAPだが、このユーレップGAPはユーロという安定した地域経済圏があったことにより実質的な統一基準として推進することができた経緯がある。そして欧州だけでなく世界各国に適正な農業規範を求めるGAPの考え方が定着し始めたこと等から2007年に、EUREGAP(ユーレップGAP)からGLOBAL G.A.P.(グローバルGAP)に名称を変更したのだ。
日本はグローバルGAPがユーレップGAPだった頃からその内容を見習う形でGAPを発展させてきた。グローバルGAPが欧州市場の基準となっているように、アジアGAPは今後成長が期待できるアジア圏の、実質的な標準規格となることを目指している。
GAPが日本に
たくさんある理由
日本は特にGAPの種類が多いように感じるが、一体なぜだろう。その理由は、日本国内の生産者の多くが国際レベルのGAPに対応できないためだ。小規模かつ高齢化している日本の農家にとって、グローバルGAPやアジアGAPの求める基準は厳しいのが実情だ。
一方で、GAPのコンセプトに関しては世界的に当然のものとなりつつあるし、日本としてもアジアGAPを推進しアジア圏での主導権を握りたいと考えている。そこで、国内農家の実情に合わせる形でアジアGAPやJGAPよりも取得の難易度を下げた各都道府県のGAP等を推進しているのだ。
まずは身近なGAPから
徐々にステップアップを!
多くの消費者は安全性のお墨付きを得た食材を購入したいと考えているし、GAPの実施及び認証取得は世界的な流れとなっている。今後の日本及びアジアの食糧生産を担う若手農家や農事法人は積極的に取得を行い、販路拡大を行なっていく必要があるのではないだろうか。
現状の販売体制と生産体制を見直し、今後の見通しを確認した上でどのGAPからスタートするかを考えることが重要だ。まずは身近なGAPから初めて徐々にステップアップしていくことも想定される。ぜひ、GAP認証取得を検討していただきたい。
PROFILE
ウエノ リョウ
1989年生まれ。Webライター。横浜国立大学卒業後、政府系金融機関にて法人融資業務に従事。金融機関を退職後、現在は地方創生に関する仕事に従事する傍ら、金融・財務・農政関連を得意とするライターとして活動。