アフターコロナで農業はどうなる? 人々の農業観に変化はあったのか
2020/09/10
非常事態宣言下で人々の農業観に変化があったのだろうか。また、新型コロナウイルスの問題は農業にどんな影響を与えるのだろうか。アフターコロナの農業とJAの在り方を考える、中央大学教授の杉浦宣彦氏による連載コラム。
非常事態宣言下で
人々の農業観に変化があったのか
新型コロナウイルスの感染拡大により、我が国においてもこれまでにない「新しい生活様式」がスタートしています。教育の世界も様変わりし、勤務する大学でも前期の講義はすべてオンラインとなり、後期もそのような形になりそうです。
そんな中、農業はどうだったのでしょう。筆者が3月まで約半年過ごした欧州はパンデミックが発生し、多くの犠牲者を出しましたが、そのような中でも農産物の生産へのインパクトは最小限に留まりました。
さらに物流も維持できていたことが、ある程度の極限の状態にあった市民のパニックを防げた理由の一つという分析が出ています。(もっとも、欧州の花き農業関係は不要不急ということや輸出が激減したこともあり、売り上げが立たなくなって、かなりのダメージになっているようです。)
一方、わが国でも、非常事態宣言下においても農産物の生産、収穫、さらに農産物物流が維持できたため、スーパーなどから農産物がなくなることはありませんでした。むしろ、テレワークが進み、多くの家庭が外食から家での食事に転換したこともあり、農産物を使って自炊をする機会が増えました。
まだ調査の途中ではあるのですが、JAの直売場の売り上げが相当伸び、その傾向は現在も維持されているようです。とりわけ、農地が少なく、販売している農産物の多くを他県のJAなどから仕入れていた都市部のJAの直売場の売り上げは、上昇ぶりが顕著に見られます。
家庭で料理する回数の増加に伴い、食への関心が増し、ついては、改めてJAというブランドから来る安心感などが追い風になっているのではないかと考えています。また、手に取った作物に対するトレーサビリティや調理方法の紹介など、食への関心事が増してきているようです。
新型コロナウイルスの問題は我々の日々の生活に多くの困難を与え続けるでしょうが、国民全体に食への関心、ついては農業への関心を呼び起こさせるきっかけにはなっており、それに応じた新たな施策・対応が農政やJAに望まれています。
PROFILE
中央大学大学院戦略経営研究科
(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦
現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。
AGRI JOURNAL vol.16(2020年夏号)より転載