注目キーワード

政策・マーケット

世界農業遺産・日本農業遺産に認定へ! 世界的に重要な農林水産業を営む10地域

農林水産省は2月、令和2年度の「世界農業遺産」の認定申請承認、および「日本農業遺産」の認定を行う地域を発表。また、3月には認定証授与式を行った。美しい景観と長く続く農業の知恵・工夫の数々を紹介していこう。

「世界農業遺産」
「日本農業遺産」とは

「世界農業遺産」とは、世界において重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を国連食糧農業機関(FAO)が認定する制度。現在、世界農業遺産に認定されているのは国内で11地域。今回、新たに3地域のFAOへの認定申請が承認された。今後、申請書を整え、秋頃にFAOに申請する予定。もしも申請中の全地域が採択されれば、認定地域は計13地域となる。

過去紹介記事はこちら▼
>>「世界農業遺産」って何?
>>これぞ伝統! 静岡の農業遺産

また、「日本農業遺産」とは、国内において将来に受け継がれるべき伝統的な農林水産業を営む地域を農林水産大臣が認定する制度である。日本農業遺産には今回7地域の認定が決定しており、これまでに計22地域が認定されたこととなる。

世界農業遺産への認定申請を
承認した3地域

世界農業遺産等専門家会議の評価結果を踏まえ、農林水産省が今回、世界農業遺産への認定申請を承認した地域と、その地域の農林水産業システムを紹介していこう。さらに、評価につながったポイントについても農林水産省担当者に伺った。

山形県最上川流域


最上川流域の紅花システム~歴史と伝統がつなぐ山形の「最上紅花」~

※平成30年度に日本農業遺産に認定済み

山形県最上川流域では、染料利用を目的とした「紅花」の生産と染色用素材「紅餅」への加工技術を、室町時代末期から伝承してきた。約450年前から現在まで、農家自らが紅餅の加工を行っているのは当地域ならではの大きな特徴。

● 評価のポイント
・約450年の歴史と伝統、紅花の染色利用が世界的に唯一であると示されたが評価できる。
・現在栽培されている「最上紅花」は、明治以降に欧州や中国から導入されたものではなく、起源地の中近東からシルクロード経由で日本に伝来したものの系統的特徴を受け継いでいる地域の伝統的品種だと明らかにされている。

埼玉県武蔵野地域

 

大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法

※平成28年度に日本農業遺産に認定済み

水が乏しく栄養分が少ない土地において、平地に林を作り出し、落ち葉を集めて堆肥とする伝統的な「落ち葉堆肥農法」を確立。特徴的な景観と生物多様性を育み、大都市近郊にもかかわらず、現在までそのシステムを受け継いでいる。

● 評価のポイント
・落ち葉堆肥農法は、火山灰土や強風という厳しい生産条件を克服するための当地域独自の工夫。江戸時代に導入された当地域独自の工夫。農家と地域住民の協力によって、里山・畑・屋敷地から成る短冊型地割が維持されている。
・都市農業は、開発圧力がある中でも生産を維持していかなければならないという世界的な課題を持つが、当地域は海外からの視察も積極的に受け入れている。

島根県奥出雲地域

 

たたら製鉄が生んだ奥出雲の資源循環型農業

※平成30年度に日本農業遺産に認定済み

日本古来の製鉄法「たたら製鉄」の原料である砂鉄を採取してきた鉱山跡地を、棚田に再生。採掘のために導いた水路やため池を再利用し、さらには独自の土地利用により稲作や畜産を中心とした複合的な農業を営んできた。

● 評価のポイント
・砂鉄採取用水路からの農業用水路への転用、製鉄用の木炭の生産からしいたけ栽培への転換、使役牛から肉用牛への転換など、砂鉄採取から農林業の転換を巧みに成し遂げてきた。
・たたら製鉄の跡地から再生された水田が特定されている。また、農林水産業システムの形成に影響を与えている地理的、気候的及び社会経済的な特徴が整理されており、ストーリー性を感じられる。


日本農業遺産への認定が
決定した7地域

続いて、農林水産省が今回、日本農業遺産へ認定した地域と、その地域の農林水産業システム、評価のポイントを紹介しようする。

富山県氷見地域


氷見の持続可能な定置網漁業
海域や海底地形の特徴を活かし、400年以上前から定置網を敷設。過度な漁獲をしない持続的な漁業を受け継ぎ、地域の社会・経済・文化が育まれてきたシステム。また、魚つき保安林(魚類の繁殖と保護を目的に指定された保安林)や周辺農業とも影響し合い、独特のシースケープを形成している。

● 評価のポイント
・定置網の長い歴史と地理的、地形的な特徴が本地域の漁業を生んでおり、高いポテンシャルを有している。
・資源の永続的な利用として注目されている定置網漁法の技術を、国内のみならず世界へと発信している。

兵庫県丹波篠山地域


丹波篠山の黒大豆栽培~ムラが支える優良種子と家族農業~
丹波篠山の「黒大豆」は、現在、全国で最も多く栽培されている黒大豆「丹波黒」の原種。水不足を克服するため、一部の農地に導水をしない「犠牲田」を設けて畑作を行ってきた。300年前から黒大豆栽培が行われてきた過程で、「乾田高畝栽培技術」や選抜育種による優良品種子生産方式を確立。黒大豆の主要産地として発展してきた。

● 評価のポイント
・ムラで話し合い「犠牲田」を設けるなど、地域住民が協力する文化が育まれている。本来であれば労力のかかる昔ながらの技術による生産を、協力体制によって実現。品質の高い黒大豆を生産している。
・不利な生産環境から生まれた「犠牲田」での黒豆栽培を、知恵と工夫によって有益なシステムに昇華。地域を代表する産品へと押し上げた。

兵庫県南あわじ地域


南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム
兵庫県南あわじ地域では、島ならではの限られた農地と水資源を最大限活用し、水稲とたまねぎの二毛作や畜産と連携した農業を営んでいる。品質の高いたまねぎを生産し、産地商人による独自の出荷体制によって地域ブランドを確立。また、たまねぎ小屋や長屋門が点在する特徴的なランドスケープも形成されている。

● 評価のポイント
・土地が狭く水が少ないなど不利な条件がある地域だが、資源の循環利用を行うことで、ブランド化に成功している。
・伝統的な農業生産が現在まで継承されている。機械化は最小限に抑えられており、人手によるきめ細かな管理が行われている。



和歌山県高野・花園・清水地域


聖地 高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム
物資調達が困難な高野山において、100を超える木造寺院を維持してきた「高野六木制度」が約1200年前から続いている。有田川でつながる花園・清水地域では仏花や多様な植物の栽培などにより高野山の需要にも応えながら、集落を発展させてきた。

● 評価のポイント
・「高野六木制度」は、用途の異なる6種の樹種の植林システム。樹木の高低や特徴を活かし、斜面でも育ちやすい植生が考慮された特異な知識と技術が詰まっており、生物多様性の保全に影響を与えている。
・信仰上の理由から食料や花木の生産ができない高野山へ、周辺地域からそれらを供給することで、地域全体の生計保障が実現している。

和歌山県有田地域


みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム
400年以上にわたり、みかん栽培を継承してきた和歌山県有田地域。生産者自らによる優良品種の探索、苗木生産による産地形成、地勢・地質に応じた技術開発、多様な出荷組織の共存により、産地全体で「有田みかん」ブランドを形成してきた。

● 評価のポイント
・生産農家の高い観察力によって変異系統を見つけ出し、地域の苗木業者や研究機関と協力しながら優良品種を生み出す仕組みが、歴史的に構築されている。
・個別農家の技術を最大限に発揮できるよう、多様な出荷組合が共存しながら栽培技術の共有を行うなど、地域協同の姿勢が見られる。

宮崎県日南市


造船材を産出した飫肥林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」
約300年前から続く「かつお一本釣り漁業」の伝統技術を、現在まで継承。漁業者も整備に協力している飫肥杉(おびすぎ)の山々から栄養塩が流れ込む豊かな海で、かつおの餌を畜養している。

● 評価のポイント
・資源に配慮しながら漁獲する持続的な漁業が現存していることへの、社会的な意義は非常に大きい。加えて、漁法や漁具など、伝統的な知識システムが数多く継承されていることも評価につながる。
・現在もかつお一本釣り漁業が継続され、若手漁業者が積極的に参入している。また、新規就業者を毎年輩出する研修機関があるなど、技術を伝え守る姿勢を保持したシステムである。

宮崎県田野・清武地域


宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム
耕畜連携により土づくりを行いながら、大根などの露地野菜を干し野菜として加工・販売し、収益を安定化させるシステムが約100年前から受け継がれている。また、乾燥した冬の西風を利用して大根を干すために組まれる「大根やぐら」が、特徴的な冬季景観を形成している。

● 評価のポイント
・干し野菜に加工することで生産者の所得を確保。生産者と加工業者が価格や数量等についての協議が行える体制が整っており、生産・加工の双方が安定するような生産システムが構築されている。また、若いファミリー層のUターンや就農も多く、産地として地域経済の持続が成立しているのも特徴的。
・干した大根の葉が畜産農家の飼料となり、さらには畜産農家から生まれる堆肥が露地畑作農家の土壌改良に活用されるという、耕畜連携の循環型システムが確立している。



日本農業遺産認定証授与式を
ウェブ開催


2021年3月17日(水)には、日本農業遺産認定証授与式および認定記念講演会をウェブ開催した。また、日本農業遺産認定地域の農林水産業システムを分かりやすく解説した動画も掲載している。

授与式と講演会の様子。農林水産省公式YouTubeチャンネル「maffchannel」


これら地域の営みや景観を守り持続させていくことで、農村地域の活性化に一役買うことができるだろう。また、先人たちの知恵や工夫を次世代に継ぐことができ、さらなる創意工夫が生まれるかもしれない。

評価することで広く多く地域の魅力が伝わり、農業生物多様性のある「進化する、生きた遺産」に育っていくだろう。

DATA

世界農業遺産・日本農業遺産


文:齊藤美幸

関連記事

特集企画

アクセスランキング

  1. いま人気なのはコレ! 押さえておきたい「売れ筋トマト品種」15選
  2. 草刈のプロに聞いた! 農家のお悩み別「刈払機選び」のポイント
  3. 成功する農業! 有機肥料と化成肥料の基本とやり方を徹底解説
  4. ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いは? メリットを専門家が解説
  5. ドローンに免許制度が導入される! 航空法改正で農業ドローンはどうなる?...
  6. あのランボルギーニから最新モデル!? クールな「高機能トラクタ」5選
  7. 10年掛かる土壌改良が短期間で可能に! 天然腐植物質に含まれる「フルボ酸」の効果とは...
  8. アフターコロナで農業はどうなる? 人々の農業観に変化はあったのか
  9. アゲトラ・コンプリートからDIYペイントまで! 軽トラカスタムがアツい
  10. 農業に役立つアイテムを抽選でプレゼント! 応募受付は2021/6/30まで!

フリーマガジン

「AGRI JOURNAL」

vol.19|¥0
2021/4/15発行

お詫びと訂正