やり方次第で水稲農家も儲かる! 『効率化』作業機導入で被災地から儲かる農業を提案
2022/01/11
紹介するのは東北は宮城の水稲農家だ。米余り・米価下落が聞こえる2021年においても「過去最高益を記録しそう!」と意気盛んな、“儲かる水稲農家”であり続ける宮城の生産者を訪ねた。
米農家だって儲かる!
その方法を探せば良い
2021年産米も価格が下落するという話が聞こえてくる。本年6月末時点の民間在庫は173万tであり、2年連続して約20万tずつの増加だ。コロナ禍の影響もあり、米余り傾向に歯止めが掛からない。米が余れば価格は下落する。大規模化して効率化を図ろうにも、人手不足という現実が立ちはだかる。生産コストを低減しようにも限界がある。米農家にとって、現実は八方塞がりのように見える。
ところが、そんな逆風をどこ吹く風と、ここ数年連続して最高益を叩き出している米農家があるという。それが宮城県岩沼市の農事組合法人『野菜のキセキ』だ。
岩沼市は仙台市の南20㎞に位置している。西部は山岳地域だが、そこから太平洋に面する東部にかけて平野が広がる。市の南部には一級河川・阿武隈川が仙台湾に注いでいる。広大な平地と豊富な水源を誇る典型的な米所だ。一方で岩沼市は東日本大震災の被災地でもある。多くの農業生産者は、津波により農地が水没したり、農業機械が流されたりした。
代表の村上和之さんは「米農家は儲からない、っていうのは思い違いですよ。儲かる方法を考え見つければ良いのです。ウチは私が経営を引き継いで以降、ほとんど毎年、過去最高益を更新しています。転用作物はほぼ手を出しておらず、米だけです」と胸を張る。
和之さんが『野菜のキセキ』を創業したのは震災後、2013年のこと。津波により農業機械はすべて流されたが、幸いにも農地は無事だった。現在は、約50haの農地を、和之さんと先代の武志さん、それに従業員など4名で管理している。注目すべきは、栽培する米の銘柄だ。『みやこがねもち』と『ヒメノモチ』のもち米を約30ha、主食用米の『ひとめぼれ』が10ha、大豆が10haだ。もち米の割合が突出して高い。
「津波で機械は流されてしまったが、この倉に保管しておいた米は無事だった。それを売ることで、なんとか暮らすことができたんです」と、武志さん。
「ウチの米は、有名メーカーのお餅や、コンビニ等でも人気のアイスクリームを包むお餅の原料に使われています。高品質のもち米には、需要があります。メーカー(米問屋)は、高品質のもち米を安定的に確保したい。私には、それを可能にする栽培技術がある。だから問屋さんが快く価格交渉に応じてくれました。米農家は儲からない、ではなく方法を知らないだけ、探せば良いのです」。
和之さんが育てているのは、『みやこがねもち』と『ヒメノモチ』。高品質なもち米へのニーズは非常に高く、一般流通米よりも高値で取引がされているのだとか。
和之さんは作業効率を考慮して、無代掻き栽培を採用している。特に『みやこがねもち』は作り難い品種で、倒伏しやすい。一方で、多収を目指して、肥料は倒れる寸前まで多肥にする。そのうえ代掻きをすると、水はけが悪くなってしまい、収穫前に倒れたときに収穫できず、収穫適期を逃してしまう。そこで、プラウで起こしてレーザーレベラーで転圧→バーチカルハローで耕して田植え、という手順を編み出した。
作業全体の効率化を実現する
新しい作業機を導入
『ラバータイプディスクハロー』は、2列の花形大径ディスク+トゥースローラーで構成される。構造がシンプルなので剛性が高く、ディスクの耐久性が非常に高いのでロータリーに比べて遥かにランニングコストが安い。経費削減にも貢献する。
そんな和之さんもまた、『ラバータイプディスクハロー』を導入し、秋から本格稼働させるという。取材当日は、安定した従業員雇用の一助にと栽培し始めたネギを植える前の耕起を行っていた。
「もち米の田んぼで使う場合、収穫を終えたら、秋のうちに『ラバータイプディスクハロー』を入れる。冬の間に一度スタブルで起こしておいて、2月か3月に肥料を散布してから、もう一度『ラバータイプディスクハロー』を入れます。バーチカルを使う必要がなくなりますから、作業が圧倒的に効率化できると思います。今のところ、試しにネギの圃場で使っていますが、作業速度が速い! これまで行っていたロータリーでの作業は3㎞/h程でしたが、『ラバータイプディスクハロー』は最高15㎞/h。あまり速度を出し過ぎると、圃場によっては土を一緒に引きずってしまうので、実際は10㎞/h程度で運用していますが、それでも作業速度は3倍以上です。
今秋以降の水田での作業では、1日に10ha作業する予定ですが、1枚40分も掛からないはず。圧倒的な効率化を実現してくれそうです。作業機の駆動にPTOを介さない構造だから燃費も良好だと聞いていますが、そもそも作業時間=稼働時間が短くなりますから、燃料費を節約できるはずです」。
耕起作業を効率化することで、和之さんは何をしようとしているのだろうか?
「ひとつは、自分と従業員のための時間を作ります。従業員にしっかりとした給料を払って、みんなが生活と時間に少しでもゆとりが持てるような体制づくりをしたい。また近い将来、新たに飲食業や畜産に関連したビジネスにチャレンジする計画を立てています。そうした、次を見据えたプランを計画・実行するためには、時間的なゆとりが必要なのです。
もう一つは、良いビジネスモデルの土台作りです。いずれ息子が後を継いでくれることがあるならば、その時のために儲かる仕組みを作っておきたいのです。私は、作るのが難しいもち米に賭け、良い機械を導入することで、効率的に栽培し、一般流通米よりも高く買ってくださる販路を築きました。被災地の米農家だって、やればできるのです。それを地元をはじめ、多くの方々に知っていただくためにも、新しいことにどんどん挑戦していきます」。
次の世代に岩沼の農業を引き継ぐために挑戦を続ける和之さんの、稲穂が実り黄金色に輝く田んぼで、今秋から『ラバータイプディスクハロー』が動き始める。そしてこれからも「被災地の米農家だって儲かる」ことを証明し続けてくれるはずだ。
PROFILE
村上家は岩沼市で少なくとも11代続く農家。和之さんは「無理に息子(大和君:3歳)に継がせる気はありませんが、儲かる農業の礎を築いて、それを次世代へ繋いでいきたい」と語ってくれた。
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文:川島礼二郎
AGRI JOURNAL vol.21(2021年秋号)より転載