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農家・環境・作物にも優しい! 「下水汚泥肥料」を選ぶメリットとは?

海外の輸入に頼る化学肥料の原料の高騰により、国産の「下水汚泥肥料」への注目が高まっている。肥料の国産化の時代に備えて下水汚泥肥料のことをよく知っておこう。

肥料は海外から買う時代から
国内で作る時代へ

去る2022年秋、農業や行政、肥料メーカー、下水道関連業者に大きな衝撃が走った。それは、「2030年までに下水汚泥資源の肥料利用を倍増する」と政府が発表したことだ。最近の化学肥料原料の高騰化で、国産肥料の増産は喜ばしいことだが、実際は「下水汚泥肥料」についてよく知らない人も多いだろう。

国土交通省時代から下水汚泥肥料の推進に取り組んできた東京大学の加藤裕之准教授は、下水汚泥活用の現状について「下水汚泥は、有機物と無機物の2つで構成されています。このうち、無機物はセメント原料の素材などで再生されますが、有機物は35%しか再利用されず、残りは埋め立てや焼却され、二酸化炭素の発生の原因になります。この残りの65%を活かし、日本の食糧問題の解決につなげていくことが緊急の課題です」と話す。

一方、これまでも下水汚泥肥料は、行政や農家、肥料メーカーなど地域活性や環境問題に取り組む“熱い使命”を持った少数の人々によって製造されてきた。その一人が株式会社アサギリの簑威賴社長。先代が1965年に前身の朝霧牧場を静岡県富士宮市で創業後、1988年に産業廃棄物の中間処分業に業種変換し、2000年から下水汚泥肥料の製造を行ってきた。

その後、静岡県から地域の牛ふん処理の依頼を受け、牛ふんと下水汚泥などを使用した「アサギリMIX」のほか、農家の要望で散布したやすい形状にした「アサギリMIX ペレット」を販売。北は北海道、南は熊本まで全国各地にユーザーを持ち、野菜全般のほか、米や果樹、茶など、さまざまな作物で使われている。簑社長は、「下水汚泥肥料の最大の特徴は土壌改善効果です」と、下水汚泥肥料のメリットを説明する。

下水汚泥は有機物のかたまりで、たくさんの微生物が含まれています。ミネラルも豊富で、多様な微生物の働きをサポートしてくれます。この2つが土壌の中の病原菌の力を抑制し、病害を防ぐ効果があります。なかでも、病害菌の密度が高くなって発生する連作障害には有効です」(簑社長)。

加藤先生が発足から関わる下水汚泥を農作物の肥料に活用する「BISTRO下水道」のプロジェクトで出会った全国の農家からも、下水汚泥肥料の効果の手応えが寄せられているという。

「秋田の名物『いぶりがっこ』の大根の生産農家さんが連作障害に悩まされ、最後の手段として地元メーカーの下水汚泥肥料を使用して改善したそうです。また長年交流のある佐賀市は、下水汚泥の全量を肥料に加工しており、下水汚泥肥料を使った作物の食品分析を『見える化』しました。使用前に比べて使用後の方が栄養価や糖度が上がったことが数値ではっきり出ています。ほかにも、『土がふかふかになって、草むしりなどの農作業が楽になった』『化学肥料農薬の使用が減り、コストが減った』などの話を聞きます」(加藤先生)。

 

微生物のパワーを活用する
農業の「土」と下水道の「水」


静岡県の朝霧高原で東京ドームと同じ5haの製造施設を構えるアサギリ。同地で発生する年間8万1000tの牛ふんのうち、約2万4000tを堆肥化し、販売している。

国土交通省によると、国内で1年間に排出される下水汚泥のうち、肥料として再利用されるのは、1割程度にとどまる。

農業国フランスでは下水汚泥の8割が農業で利用されています。この違いは『安心・安全のための情報の透明性』にあります。フランスでは下水汚泥の出先や安全性などが詳細にわかる会員制のシステムができていますが、日本はその点は遅れています。農家の方がいちばん気にされているのが、重金属含有のリスク。きちんと情報公開をしているメーカーを選ぶことも大切です」(加藤先生)。

もともと農業の「土」と下水道の「水」はとても親和性があるという。

「水道水は薬品を入れて殺菌しますが、下水は様々な微生物のパワーで水をきれいにします。この『微生物を飼う』という下水処理のテクノロジーは、微生物に働いてもらう農業の土づくりとまったく同じです」(加藤先生)。

下水道は微生物の宝庫、資源の少ない日本の「黄金の宝」ともいえる。今まではイメージの問題などで、下水汚泥肥料の普及が遅れていたが、これからは下水道を管理する国土交通省と、日本の食を賄う農水省が本気でタッグを組んで、食糧問題の解決を目指す。そもそも下水を出しているのは自分たち。下水道を担う行政から肥料メーカー、さらに農家から農作物を購入する消費者へと「黄金の宝」のバトンをつないで、地域全体でこれからの循環型社会を作っていきたい。

 

機械散布にも対応した
使いやすいペレットタイプ


アサギリの主力商品である「アサギリMIX」「アサギリMIX PELLET」は、牛ふんが50%以上で、食品工場から出る動植物性の食物残さや下水汚泥、工業汚泥を合わせて発酵させた資源循環型の完全有機質堆肥肥料。堆肥の土づくりと、肥料の作物の生育を促す2つの効果が得られる。約半年間じっくり完熟させているため臭いが気にならず、都市型農業のほか住宅地の家庭菜園にも最適だ。

気になる下水汚泥の安全面では、重金属などの有害物質について3ヶ月ごとに分析検査を行っています。またHPには、汚泥を受け入れる取引先企業をすべて網羅し、どういう工程で出たものかを詳細に説明します」と簑社長。自ら全国の農家を回って開発した「アサギリMIX PELLET」は、茶畑などの機械散布が難しい圃場にも使いやすい粒状タイプ。プロ向けのほかにも家庭菜園向けに少量パックもある。

DATA

アサギリMIX
アサギリMIX PELLET


「アサギリMIX」をペレットの形状にして熟成をさらにアップ。背負い散布機、ライムソワ、ブロードキャスターなどでの施肥作業に最適。

 

お話を聞いた人

東京大学
下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

加藤裕之さん


博士(環境科学)。国土交通省や地方公共団体等で下水道政策や水環境の仕事をなど経て、2020年より現職。下水汚泥を農作物の肥料などに活用する「Bistro下水道」のプロジェクトの立ち上げに尽力。


株式会社アサギリ
代表取締役

簑 威賴(みの たけより)さん


日本大学工学部卒業後、会社員を経て、2003年より代表取締役に就任。静岡県や富士宮市、地元の酪農家などと連携し、地域の有機資源を肥料化して地域内のJAで利用する循環システムを構築。

問い合わせ

株式会社アサギリ
TEL:0544-52-0212


取材・文:後藤あや子
イラスト:岡本倫幸

AGRI JOURNAL vol.29(2023年秋号)より転載

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