胡蝶蘭の宅配事業が斬新すぎる! ネット販売が中心の現代ならではの悩みを解消
2019/12/18
埼玉県川越市の(有)森田洋蘭園は50aのハウスで年間12万株を生産するだけではなく、仲間とシステム会社を設立して販売管理や財務システムを開発してきた。その後もメーカーと共同でハウス内の環境制御システムの開発を手掛け、現在も新作を試しているところ。会長の森田康雄さんからそんな話を聞いていた最中、逸れた話題の中で気になったのが宅配サービスだった。
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値段以上にサービスの低下が問題
同社が取り扱う胡蝶蘭のうち市場の経由率は2割強。残りは小売店へ直接配達しているほか、ネット通販を手掛ける販売代理店を通して個人や企業に直接届けている。花屋が店頭で受注し、その花屋に代わって宅配するサービスも提供している。このため物流環境の悪化は一大事だ。
そこで2017年に自社便を用意し、専属のドライバーを雇い入れた。近隣で同じく胡蝶蘭を生産する農家6戸の分も合わせて共同で首都圏の企業や個人に配送している。自社便の割合は3~4割。
森田さんは「小さい荷物だと大手の運送業者に頼んだほうが安いけど、大きい荷物はうちの方が安い。自社便を用意したことで全体的には経費の節減になったね」と打ち明ける。
私が訪ねた事務所を兼ねた作業場では、大勢の女性従業員が木目調の立て札を付けることやラッピング、梱包などをしていた。そのうちの一人がいる一角はまるで撮影スタジオのようだ。背景スタンドがあり、その前には商品としてそのまま出荷できそうな鉢植えの胡蝶蘭が据えられている。女性はスマートフォンを取り出すと、それを撮影し始めた。
一体、何をしているのか。彼女にスマートフォンの画面を見せてもらうと、宅配専用の受発注システムが映っている。注文ごとに伝票の情報を一元的に管理するほか、商品に仕上げた状態の写真をアップして、発注元に送信する機能を備えている。
注文通りに仕上がっているかを画像で確認してもらうことで、送り先に届いた段階で問題が生じないようにしているのだ。顧客が商品の状態を確認し終えて初めて、梱包して発送する。
配車と経路の設定を自動化へ
気になるのは配車や経路の設定に手間がかかるのではないかということだ。
現在は表計算ソフトやグーグルマップに手入力しながら作成しているので、そこで自動化するシステムを開発し、試している最中だという。
花のギフトに関わる生産者・販売店・ご依頼主・お届け先にまたがる情報を一括で管理できるシステムで、配車情報をグルーピングして配車作業を大幅に簡略化し、グーグルマップで自動的に配送する順番と経路を示してくれるのだ。配達が完了した段階でスマホのボタンを押せば、発注元に配達完了報告を自動で知らせてくれる。
「ネット通販のお客さんは注文したら明日とか明後日には届くと思ってますけど、それは従来のお花の物流環境では難しくなってきてますよね。こちらから花屋さんに卸して、花屋さんが発送していてはとても間に合わない。それに花屋さんは鉢物ばかり扱っているわけではないですから、梱包に手間もかかる。そう考えると一番合理的なのは、現物を持っているところ、つまり生産者から直接配送すること。時間に関しても鮮度に関してもそれがベストです」
もちろんそれができるのは、胡蝶蘭が切り花と異なり生産者で最終的な商品に仕上げられるからだ。胡蝶蘭は消費減で花の中でもとりわけ厳しいと聞いている。だからこそ新たな仕掛けは欠かせないのだと感じた。
PROFILE
農業ジャーナリスト
窪田新之助
日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。福岡県生まれ。