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伝統野菜を用いた商品開発で農林水産大臣賞受賞! 熊本県4Hクラブ会長が描く今後のビジョン

熊本県・阿蘇には特産物が複数あり、その一つとして、カラシナの一種の「阿蘇高菜」がある。ここでスポットを当てる佐藤智香さんは、「阿蘇高菜」を使った商品を開発し、脚光を浴びた女性。ご自身のキャリアから地域の農業にいたるまで、幅広くお話いただいた。

メイン画像:「熊本県4Hクラブ」の会長・佐藤智香さん(写真右)
熊本県・阿蘇は、壮大な阿蘇山をはじめ、数々の観光スポットを有する土地だ。

循環型農業が成り立つ、熊本県・阿蘇

九州のほぼ中央に位置する阿蘇。巨大なカルデラや阿蘇山、広大な草原など、ダイナミックなネイチャースポットを誇る地域だ。また、これらは、地域の貴重な観光資源となっている。
 
農業では、畜産、農産ともに盛んに行われている。広大な草原では、「あか牛」とも呼ばれる「褐毛和種(あかげわしゅ)」が放牧されているのは、多くの人が知るところだろう。さらには、火山性土壌と相性がいい「阿蘇高菜」などの在来の野菜に加え、トマトやアスパラガス、キャベツなど、多種多様な作物が栽培されている。
 

草原でのんびりと草を食むあか牛

 

春に行われる「野焼き」の様子

 
佐藤さんによると、ダイナミックなネイチャースポットと農業は、一見関わりがないようで、実は深くつながっているという。
 
「例えば、草原を維持するうえで、牛たちが一役買っています。伸び出した草を牛たちに食べさせることで、草原が荒れ地になるのを防ぐことができます。また、春には、新しい草の芽吹きを助けるため『野焼き』を行いますが、この『野焼き』は多くの場合、農家の手によって行われているんですよ」
 
阿蘇においては、草原をはじめとする自然環境が農業を営むうえで役立つ一方、農業が景観の維持に役立っている。「阿蘇では、循環型農業が成り立っています」と、佐藤さんは話す。
 



 

伝統野菜を活かした「阿蘇タカナード」

大阪にある専門学校を卒業後、4年間ほど一般企業に勤め、その後阿蘇にUターンした佐藤さん。同時に、新規就農を果たしている。郷里に戻って就農した理由について、こう語る。
 
「我が家では、祖父母が農業を営んでおり、父と母は外で勤めていました。祖父母が農業をやめた後、父が兼業で農業を始めようとしたのですが、その矢先に父は帰らぬ人になってしまって……。畑を継ぐ人がいなくなってしまったこともあり、就農について前向きに考え始めました」。
 
ちょうどその頃、『九州北部豪雨災害』が発生し、地域に甚大なダメージが生じることに。「『地域を立て直すために、私にも何かできないか』と思いました。農業をとおして地域に少しでも貢献するため、就農する決意が固まりました」
 
就農後、佐藤さんが栽培を始めたのが、「阿蘇高菜」。「阿蘇高菜」は、春ならではの味覚として地域で親しまれている作物だ。しかし、鮮度を保つのが難しい「阿蘇高菜」は、市場出荷には向かない作物。おのずと出荷先は地元の漬物製造会社になるが、昔から「阿蘇高菜」の価格は変わらず、農家は薄利しか得られない。また、「阿蘇高菜」の漬物原料としての旬は、年間で3日ほどとされている。
 
「こうした点から、『阿蘇高菜』の漬物原料としての出荷は、持続可能な産業ではありません。そこで、これまで食用として利用されていなかった「阿蘇高菜」の種子をマスタードに加工できないかと考えました。また、ほかの農家から種子を買い取ることで、産地の維持につながるでは、とも考えました」。
 
試行錯誤のすえに誕生したのが、粒マスタード「阿蘇タカナード」だ。香辛料や保存料、増粘剤といった添加物は一切不使用。また、伝統製法でつくられた米酢や天草産釜炊き塩など、選りすぐりの調味料が使用されている。さらには、従来は食されていなかった種を使用した点、伝統野菜の新たな価値を創造した点などが評価され、「阿蘇タカナード」は、「2016年度優良ふるさと食品中央コンクール」で「農林水産大臣賞」に表彰された。
 

バインダーで「阿蘇高菜」を収穫する佐藤さん

 



 

「熊本県4Hクラブ」初の女性会長に

こうした実績などが評価され、2018年5月、佐藤さんは「熊本県4Hクラブ」の会長に抜擢された。同クラブで女性が会長を務めるのは、初めてのことだ。
 
現在、クラブでは、定例会議に加え、事業継承について悩むメンバーを対象とした講習会など、学ぶ機会も積極的に設けられている。また、女性会長ならではの取り組みも目立つ。佐藤さんによると、『熊本県4Hクラブ』には『女子部』なるものがあり、定期的に意見交換会などが開催されているという。
 
今現在の取り組みにだけでなく、今後のビジョンにも光るものがあるのが、佐藤さんの持ち味だ。「当たり前のこととして、人の健康や環境への配慮ができるのが、多くの女性が持つ特性だと思います。こうした感性と考え方を活かせる場所を、農業界にもっと作っていきたいですね」
 

PROFILE

佐藤智香さん

1987熊本県生まれ。大阪市内の専門学校を卒業後、一般企業勤務を経て、2014に就農。現在、おもに「阿蘇タカナード」の生産・販売を行う「阿蘇さとう農園」の代表を務める。趣味はドキュメンタリー作品の鑑賞。
 

DATA

4Hクラブ(農業青年クラブ)


Text:Yoshiko Ogata



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