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練馬区の事例から読み解く、都市型農業が切り開く儲かる農業モデル

成功例の少なかった都市型農業だが、近年は時代の変化に合わせた柔軟な対応で成功する経営者も少なくない。練馬区を例に挙げ、新しい都市型農業のビジネスモデルを読み解く。中央大学大学院教授杉浦宣彦氏のWEB連載コラム。

時代に合わせ形を変える
都市型農業

都市型農業はこれまで、報道などを通じて、あまりポジティブな印象が持たれてこなかった経緯がある。宅地化が進む中で、農地を相続のための土地売却まで「貸すよりは荒らす」という一部農家もあったりしたことや、資産保有的性格の強い小規模地権者が農地利用に反対したことなどがあったこと、また、においや土埃など、農地からどうしても発生する環境的な問題からくる周辺住民との軋轢などの問題からだ。

しかし、状況は最近になって大きく改善されてきており、新しい儲かる農業ビジネスモデルがどんどんと登場してきている。今年の新型コロナウイルス感染拡大により、むしろ、加速度的に発展する可能性すら出てきた。

今回は、この10月初旬に見てきた東京の練馬地区を一つの事例として、都市型農業が切り開いている儲かるビジネスモデルについて報告・分析してみたい。 
 

農地と住宅街が
共存する練馬区

東京都練馬区は、かつては「練馬大根」で有名な東京の中でも農業が盛んな地域であった。筆者が高校生の時でも西武池袋線の走る住宅地だったものの、そこから埼玉県境に向かうと途端にバスの本数も少なくなり、周辺は一面の畑ばかりという風景が広がっていた。光が丘団地が造成されたころを機に一気に宅地化が進み、今では駅周辺に高層マンションが立ち並ぶ、かつてとは様変わりな風景が展開している。

しかし、少し駅から歩けば住宅地の中にそれなりの規模で市街化区域内農地が広がり(練馬区内の農地は、23区内農地の実に4割程度を占める)、観光農園なども散見される。現在の野菜生産の主は大根ではなくキャベツで、都内ナンバーワンの生産量となっている。

ただ、筆者も都内での露地野菜の生産はやはり土埃やにおい、また農薬散布などでも近隣住民に気を使わなければならず、今後の維持発展を考えていくのがなかなか難しい状況にあったと聞いていた。

ところが、今回機会をいただいて訪問してみるとイメージは大転換した。まず、予想外だったのは、若手後継者が相当数育っていることだ。都心や地元レストランなどに販路を持ち、近隣住民からも安心安全でおいしい農産物を生産しているという信頼と支持を勝ち取っている方が居たり、その地域でどのように一般住民と共存するかを考え、パイプハウス中で農業を行い、冬場でも新鮮な農作物を提供できるようにして、地元住民向けにも自動販売機で売ったりするなど、戦略的な発想で農業をされている方もいる。

山口トマト農場での視察。左から、山口氏、JA東京あおば洒井組合長、筆者。

練馬訪問時には、特に山口トマト農場を視察させていただく機会があった。3連軒の8aのハウスの中で、中玉トマトに集約された生産を行っているが、近隣住民の評判を呼び、全体の8割は農園に隣接した自販機で売り切り、残り2割を地元JAの直売所や東京野菜ブランドを持っている仲卸に出荷しているとのこと。

そのうえ、地価が高い都市部での農業は相続税が高く、一定規模の土地を維持し続けていくのは困難であるということを見越して、法人化して農地を借り受ける形にしており、今後さらに農地を拡大していく計画だと言う。まさに2018年にできた「都市農地貸借法」を有効活用した事例である。




 

地元JAの
果たすべき役割

このような新しい農業の動きを地元JAも無視しているわけではない。

JA東京あおばの洒井組合長は、都市型農協の組合長の中では珍しくご自身も農家で、管内の農家の意識の変化を感じ取っておられるようだ。自分たちで売り先を探すことができ、消費者や都心・近隣のレストランなどからの直接的ニーズに応じた作物への転換を柔軟に行えるのが都市型農業の強みであること、また、臨機応変な戦略を持っている農家も多いことを指摘される。

練馬では、元々は練馬大根で有名な大根の産地だったが、今やキャベツ、さらには洋花などの栽培にまでバラエティが広がってきているが、その産物を取り扱う店舗・レストランの拡大は、食品のトレーサビリティなどに関心がある意識の高い都市住民のニーズを反映している。

「地産地消」という言葉はどこかの地方の話かと思っていたが、まさにこの場所ではそれが実践できている。

また、世代交代や新しい都市型農業の考え方の広がりは、正組合員である農家の地元JAへの要求の変化にもつながってきている。

今回の訪問では、これまでJAに対し金融機関的な部分しか見てこなかった地元農家が、地元JAに対し、「農業を地元で振興し、より多くの作物の売り込み先を見つけるといった本来あるべきJAの姿を取り戻し、より積極的な販路拡大への協力や、跡継ぎ問題などで農業を継続的に行うことが難しい場合に、JAそのものが借主となり、職員に農業に従事してもらって、『儲かる都市型農業』の維持・発展に寄与してほしい」という意見表明もいくつも聞くことができた。

さらにJAだけの機能で考えれば、今回のコロナ感染の拡大を受けて、JA東京あおばの直売場もかなり売り上げを伸ばしたと聞いたが、JAだからこその農作物に対する「目利き」の部分が評価されていたこともあるだろう。

管内の農業とバッティングしない範囲でJAならではの全国的ネットワークを使って、地方のJAとの提携を行い、いい農産物、農産物加工品を地元地域住民に提供する、また、それらの地域への訪問ツアーなどを実施することで、地元地域のみならず、全国の農業に対する理解を深めること、ついてはJA活動そのものへの理解を深めてもらう機会にすべきだろう。




 

さらなる発展が見込める
都市型農業

このような動きは、東京に隣接した神奈川、埼玉、千葉などの都市型やそれに近い状態にあるJAでもできることだ。

これらのJAは都市開発の流れの中で生きてきただけに、その多くが信用組合化したJAとなってしまっており、各JAの幹部も農林中金からの奨励金の減額などで、まず信用事業が成り立たなくなることに頭を痛めているだろうが、ここで農業まで疎かにしてしまうと、組織としてのサステナビリティの問題になってくることは間違いない。

反面、都市型農業は、一定レベル以上の施設がどうしても必要になる農業でも、IoTを活用した最先端で効率の良い農業ができるものでもあり、都市型JAの積極的な融資・支援はこれからはその方面に向けられるべきだろう。

さらに、地域環境の整備という観点からも都市農業戦略を重視する地方自治体は練馬区や、埼玉県草加市などの例でも分かるように確実に増えてきており、農家、JA、地方自治体との連携による農地の維持、就農人口の確保、地域住民と共存できる農業の在り方の検討など、様々な取り組みがスタートしている。都市型農業は新たなステージに来ていると言えるだろう。

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

杉浦宣彦


現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。

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