〈インタビュー〉モチベーションは“究極の自由” 愛知県4Hクラブ会長にとっての農業とは
2021/01/27
生活様式が変わり、激しい変化が起きた2020年は、農家にとっても試練の年だったといえる。「それでも農業が魅力的な仕事であることに、変わりはありません」と話す「愛知県4Hクラブ」の会長・加藤大昌さんに、現場目線で農業を語っていただいた。
メイン画像:「愛知県4Hクラブ」の会長・加藤大昌さん
責任やリスクはあるものの
やりがいを得られるのが農業
「天候や景気に左右されるのが農業です。自らに落ち度がなくとも、一気に収量や売り上げが落ちる場合もあります」
そう、加藤さんは農業の厳しさについて語る。近年の顕著なエピソードとして挙げられるのが、2019年の暖冬に伴う出荷数量や価格の乱れだ。
「冬の間に育ちすぎた野菜が、2月に一気に出荷されました。これにより、野菜の値崩れが起きて利幅が下がりましたし、輸送費をはじめとする生産コストが農家に重くのしかかりました。また3月は、本来であれば旬を迎えていた果菜類が収穫できず、これも農家に打撃を与えたはずです」
さらに昨年は、新型コロナウイルスの流行という歴史的な一大事が起きた。流行が長引くにつれ、景況に対する不安から消費者の財布の紐が固くなり、果物や花、植木など、いわゆる“贅沢品”にあたる生産物の売れ行きが鈍ったという。一時期、給食が停止したために牛乳の需要が一気に下がり、酪農家が苦境に立たされたニュースも、記憶に新しい。
決して安定した産業ではなく、生半可な気持ちではできないのが農業。かなり厳しい一面を持ち合わせるのが農業だが、加藤さんはどのような点にモチベーションを感じているのだろう。
「究極的な自由でしょうか。自由といっても、好きな時に休めるとかそういうことではなく、自ら戦略や農法を考えて実践できる、という意味です。もちろん責任やリスクはありますが、大きなやりがいを得られるのが農業だと思います」
加藤さんの農場では、イチジクなどの果実も手がけている
一般消費者の間で希薄になった
農業に関する知識
また、近年、消費者側の知識や意識にも変化が生じている。
「農業に関する正しい知識をもつ消費者が、かなり減った印象がありますね。『農薬を使って、野菜や果物を作っているの?』『農薬って体に悪いんでしょう?』といった質問を投げかけられることが増えました。しかし農薬は、使用頻度と用量を守って使っている限り、体に悪影響を与えることはないと考えています。“農薬は体に悪いもの”といったイメージだけが、消費者の間で浸透していると感じますね」
また、無農薬栽培や有機栽培の農家を志し、その厳しさを知らないまま普及指導センターにやってくる人も後を絶たないのだそう。「農業人口が減るなどし、多くの人にとって生産者が身近な存在でなくなった点も、こうした状況を後押ししているのではないでしょうか」と加藤さんは分析する。
「愛知県4Hクラブ」の分会となる「稲沢市4Hクラブ」では、消費者と交流するイベントをたびたび実施しており、地域の幼稚園で芋掘り体験を開催したり、祭事で農産物を販売したりしている。地域住民との交流はもとより、消費者の間で農業の知識を広めることも、こうしたイベントを開催する動機になっているそう。
新型コロナウイルスの拡大が衰えをみせない昨今。健康への意識が高まるなか、食事内容にさらなる関心を寄せる人が増えつつあるといわれている。今後、人々の食卓を支える農業も関心の的となり、農業の知識と魅力が広がるかもしれない。
PROFILE
加藤大昌さん
1989年愛知県生まれ。高校卒業後、2014年に就農。家族で受け継いできた圃場を引き継ぎ、イチジクやホウレン草などを生産している。2018年4月に「愛知県4Hクラブ」の会長に就任し、2021年3月に退任予定。
DATA
取材・文:緒方佳子